襲来する戦士
俺の動きに最初反応したのは三人の内右にいた人物で、横手に回ろうと足を動かした。続いて他の二人が真正面から俺へ向かってくる。
さらに、後続にいた一人も走り始め――俺は、躊躇うことなく前にいる二人へ剣を繰り出した。
威力は相当抑えている――そのため、半身になった剣を持つ男性の刃と交錯したが、両断することはできなかった。
けれど、俺は攻勢を緩めず間合いを詰める。そこで左側にいた男性が接近し、俺に剣を放とうとした。
対する俺は、それを弾きながら彼に近寄り、剣を放った。
その動作に一度は捌いたものの、二撃目を防ぐことは叶わず、俺の剣によって吹き飛んだ。無論切傷は生まれていないが、力が抜けていた様子だったので気絶したのかもしれない。
続いて、狙いを半身の剣を握る男性へ切り替える。彼はすかさず防御の構えを見せ、横に回った男性の援護を待つ構えだったが……俺は一気に接近した。
途端、男性の瞳に動揺が走り――その隙を見逃さず、相手へ一撃見舞う。結果、彼は半身の剣で上手く回避できず、モロに剣戟を食らい倒れ伏した。
そして――右から仕掛けた男性の剣を、体を傾けつつ防ぐ。
男性は息を呑む。俺の対応に驚愕している様子。それもまた隙となり、こちらは剣を押し返すと反撃に移った。
「――この野郎っ!」
男性は自分を鼓舞するかのように吠え、対抗しようと動く。がむしゃらに刺突を放ったのだが、俺は目で見ながらかわし、がら空きの体へ剣を放った。
「ぐっ!」
生じる呻き。僅かな抵抗と共に剣が腹部に食い込み、彼もまた吹き飛んだ。これで最初に登場した五人は退場。一瞥すると全員気絶している様子。残るのは背後から来ようとしていた男性だけ。
目を移すと、硬直し剣を構える相手がいた。ジリジリと後ずさり、引き上げようかという雰囲気を見せている。
俺は剣に魔力を込めることで彼に応じた。収束した後すかさず剣を振り、雷の矢を放つ。
男性は俺の行動に驚いたのか、目を見開き――よけることができず、矢を胸部に受け、多少のけぞった後仰向けに倒れた。
「……ん?」
そして、倒れた人物の奥。新たな男性が一人、立っているのに気付く。
「この人達の、親玉か?」
なんとなく問い掛ける。しかし、相手は無言でこちらに歩を進め、倒れる男性を避けつつ空き地へやってきた。
肩にかかる程度の青髪を持った、美形の男性。黒い目はやや細く、こちらを見据える顔は無表情で、何を考えているのか皆目見当がつかない。
腰には黒塗りの鞘と、右手にはこれまた黒い剣。格好は鎧ではなく茶褐色を基調とした旅装。
「……できれば、このまま退散させてもらいたんだけど」
ひとまず、そう言ってみる。しかし彼は無言で空き地入口付近に佇み、進路を阻んでいる。
一応、後方にも道はあるのだが……相手の狙いはその道へ誘導することかもしれないので、あまり入りたくない。それに、こちらは地理感覚もないので迷う可能性がある。逃げるとすれば元来た道を引き返すのが一番いいのだが、進路を男性が塞いでいる。
どうやら戦うしかないようだ。とはいえ倒れている六人とは雰囲気が異なり、傭兵であるのは半ば察せられた。なので注意を払い、剣を構え相手を注視する。
ただ、周囲に倒れている人達が起き上がり男性を援護するかもしれない。よって、あまり時間は掛けられない――
そう思った瞬間、男性が動いた。地を蹴り、俺へ――一瞬で迫る。
俺はそれにどうにか反応し、放たれた剣を弾く。重い。
「――ふっ!」
そこで反撃。魔力を込め、まずは握っている剣を破壊しようと試みる。横薙ぎを繰り出し、相手が防ぎにかかった瞬間力を入れ砕くことを企んだ。しかし、
彼は突如、自然体となり防御を捨てた。
「っ!?」
動作に俺は呻き剣が、止まった。
直後、男性が攻撃。無防備だった動作から一転、今までと比べ物にならない速さで俺に刃を差し向けた。
こいつ武器破壊を読み、さらに俺が人を殺さないとわかってわざと――考えながら放たれた剣を俺は捌く。先ほど以上に重く、
「強い――」
そう呟くこととなった。けれど反応することは可能で、後退しつつどうにか防ぎ切った。
間合いを脱すると、男性はピタリと動きを止めた。俺は目を向けながらも追撃を掛けない彼に注目。一体――
刹那、彼の体が身じろぎした……かと思うと、間合いに踏み込み俺へ斜めに一閃する。
緩急をつけた動き。相手がどう動くのかまるで予測できず、防戦に回るしかない。できれば反撃したかったが、何をしてくるかわからない動きから、どうにも躊躇ってしまう。
ただ、ずっと防御してもいられない。ここで延々とやりあっていたら、他の男性達が動き出す――これらの状況を考慮し、退却に舵を切ることにする。
だが横をすり抜けようにも隙が無い……そこまで考えた時、男性から刺突が向かってきた。
それを右に移動して避ける。男性は即座に横薙ぎで俺を追うのだが、こちらは剣を盾にして防いだ。
いけるか――思いつつ、俺は剣を弾き男性の右手からすり抜けようとする。しかし、彼はバックステップにより背後を取らせまいとする。
その動作もまた速く、俺は断念。足を止め後方に移動し、彼と距離を置いた。
「……やれやれ、ずいぶんな相手だな」
嘆息混じりに俺は呟く。明らかに、他の面々とは違う……別格の強さだ。
最悪、魔力を込めた一撃で吹き飛ばすことも考えた方がいいだろうか……けれど周囲に男性達が倒れているため巻き込みかねない。やはり、力技で押し切るのも――
そこまで考えた時、男性の立つ奥にある路地で、倒れている男性が目に入った。あれは逃げるのに面倒な障害物。一足飛びで超えられればいいが、対峙する男性の速度を考えると、ある程度距離を置かないと危険……ちょっと待った。
「気付いたのか」
俺の心情を顔から察したのか、男性が言う。見た目に準ずるような、綺麗な声だった。
「お前の思っている通り、後方の人間は障害物役だ」
「……つまり、ここにいる人達が倒されるのは予定通りだったと?」
「彼らは太刀筋を確認するために戦わせただけに過ぎん」
……なるほど、俺の戦い方を把握するためにけしかけたわけか。
「ここに来て、おしゃべりになったな? 何かあるのか?」
「気配がしたので、少しばかり時間稼ぎをしたかっただけだ」
「何?」
聞き返した直後、悪寒が走った。原因は、背後からの視線。
「……これは」
「振り向かなくてもわかるようだな。人の形をした、人造の悪魔だ」
事もなげに言った彼に対し、俺は顔をしかめた。
「本来は倒れている男どもの援護に回るつもりだったらしいが、連携のミスだな……まあ、結果オーライだろう」
――こちらとしては、最悪の展開だ。状況としては逃走一択なのだが、かなりの技量を持つ相手が目の前にいる以上、非常に難しい。
そして街中である上人が倒れている以上、力押しも危険……どうすれば。
「さて、この辺りで終わらせてもらう」
男性の声と同時に、後方からの視線が強くなる。背後を確認していないが、それほど距離はないだろう。数秒もあれば、俺の背後に到達する。
袋小路。俺は深く認識しつつ強行突破も視野に入れた時……男性の奥、路地裏に新たな人影がいるのに気付いた――