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国境を越えて

 旅自体は順調で、国境を超えるまではほぼ予定通りに行程を消化していった。


 道中リミナが熱を発し休むという状況が何回かあったのだが、それを差し引いても予定通りということは、想定以上の速度ということだろう。

 リミナは何度も申し訳なさそうな顔をしたのだが――俺達は気にするなと言わんばかりに首を左右に振りつつ、とうとうフィベウス王国の国境へと辿り着いた。


「まずは、首都へ向かうとするよ」


 車上で俺と向かい合って座る、革鎧姿のフィクハが言う。ちなみにリミナは俺の背後で毛布にくるまって眠っている。旅を始めた当初は眠れなかったらしいが、今ではすっかり慣れたとのこと。


「首都……俺達が行くのは理解できるけど、フィクハは?」

「まずここで調査をするための許可がいるから」

「そうなのか……で、リミナを治すのか?」

「そうだね。首都に入って落ち着いて、リミナさんの件がある程度片付いたら、別行動となるかな」


 別行動――リミナがすぐに戦えるかどうかわからないので、依頼は一人でやることになりそうだ。


「フィクハさんは、一人で行動するのか?」

「一応、他の人に話をつけているみたいだけど……腕が立つとか言っていたけど、どうなんだろう」

「大丈夫なのか……?」

「なんとかなるでしょ」


 腕の立つ人物……十中八九勇者だと思うが、グレンくらいの実力じゃないと役に立たない気がする。


「相手はシュウさんだし、不安だな……あ、そうか。そのことを話していないから――」

「そうなの。真っ正直に話すのだってまずいだろうし、悩みどころね」


 ため息をつきつつフィクハは語る。彼女なりに、腐心しているようだ。


「まあ、手持ちの材料でなんとかしないといけないわけだけど……場合によっては、ドラゴン達に協力を仰ぐことになるかな」

「俺も依頼が終わったら、そっちに合流するよ」

「お願い……でも、そっちがいなくても大丈夫なようにするから、安心して」


 微笑みながら語る彼女。その時、楽観的な様子に多少の不安を覚えた。

 相手は英雄であるシュウに加え、ラキやエンスだっている。彼らが共に行動しているかどうかはわからないが、最悪のパターンは想定しておいた方がいいだろう。


「ま、いざとなれば私の持っているコネとかで人を呼ぶことも――」


 さらに呟いた時、馬車が止まった。さらに外から声が聞こえ始める。御者が会話をしているようだ。


「関所かな」


 フィクハは呟きながら、そっと御者へ繋がる天幕をほんの少し開いて、盗み見るように外を窺う。


「うん、やっぱりそうだ」

「関所って?」

「フィベウスの首都、ダーグスへ行くには審査の厳しい関所をいくつも通らないといけないの。ドラゴンが住む国で排外的とまではいかないけど、人を入れたがらない風潮があるから」

「通れないなんて可能性は……」

「御者の人は通行許可証持っているし、問題ないよ」


 そこまで言った時、フィクハは天幕から身を離し――同時に、天幕が開いた。

 現れたのは槍を持つ兵士。中をじっくりと確認し、さらには眠っているリミナへ目を留めた後、天幕を閉めた。


「怪しいものがないかを見ているってことか」

「……ん、変ね」


 ふいに、フィクハが声を漏らした。


「こっちはナナジア王国の通行許可証持っている。通常それだけで苦も無く通れるはずなのに」

「さっき排外的な雰囲気があるって言っただろ? それじゃないのか?」

「でも以前、ナナジアの勇者として仕事をした時は通行許可証だけであっさり通れたけど」

「とすると、何かあったのかな?」

「関所で警戒するということは、外部から何かがやって来て騒動が起こったのかな……シュウさんのことくらいしか思いつかないんだけど」

「……次の街で情報収集くらいはした方がいいかもしれないな」

「そうね。賛成」


 フィクハが答えた時、馬車が動き始める。ひとまず、関所を通過することはできるようだった。

 最後に、俺は馬車の後ろ側から天幕をちょっと開けて外を確認。先ほど馬車の中を確認した兵士が、別の兵士と俺達の方向を見ながら話している姿があった。






 その後、数時間かけて次の街へと到着。ここで一泊することに決め、宿を取りリミナをベッドに寝かしつけた。


「大丈夫か?」

「はい……なんとか」


 布団を胸元まで被ったリミナが答える。ちなみにここは二人部屋で、リミナとフィクハの部屋となっている。


「今日は少し調子が悪そうだな」

「熱が、少し高いかもしれません」

「そうか」

「今日はここで一泊するんですか?」

「ああ。次の街まで結構距離があるみたいだから」


 答えた直後、リミナの顔が僅かに険しくなった。自分のせいなのか――そういう問い掛けをしそうに見えたのだが、


「俺達も疲労が溜まっているみたいだからな」


 肩を回しながら俺が言うと、リミナは小さく頷いた。


「そうですか……無理はしないでくださいね」

「ああ。大丈夫」


 笑みを浮かべ答えると、踵を返し廊下に出る。

 横を見ると、俺の部屋の前でフィクハと御者が話をしていた。


「……ん、レン。話は終わった?」

「ああ」

「じゃあ、私が彼女の様子を見ているから。情報収集はその後ね」


 言うと、俺と入れ違うようにフィクハは部屋へと入った。それを見送った後、今度は御者に顔を向ける。


「オルバンさん、お疲れ様です」

「いえ」


 にっこりと、爽やかな笑みで彼は応じた。

 御者の彼は名をオルバンといい、ナナジア王国の騎士だ。けれど今回傭兵みたいな俺達と行動するということで、彼もまた傭兵に近い姿をしていた。


 装備は腰に剣と、蒼い胸当て。その全てが無骨なのだが、平常でも爽やかな顔をしたイケメンの彼は、現状の装備でも街を歩けば女性から視線の的であるに違いない。

 容姿もまたそうした雰囲気に色を添えており、茶髪にくっきりとした二重まぶたと黒い瞳。もしこの世界に芸能界があるとしたら、主役に抜擢される俳優になっているだろうと俺はなんとなく思っていた。


「私はこれから馬車のメンテナンスをしてきますが、レン殿はどうしますか?」

「……少し、街をウロウロしてきます。情報収集の関係もありますから」

「わかりました。治安が悪いわけではありませんが、お気をつけて」

「はい」


 頷き、俺は廊下を歩く。部屋は二階なので一階へ進み、宿を出ると人の往来がある活況な街並みが現れた。

 木造とレンガ造りの建物が混在する街で、やや雑多な印象を受ける。ルールクの店があったあの街の方がひどかったので悪印象はそれほど抱かないが、数日滞在しただけでお腹いっぱいになってしまうのは間違いない。


「宿場町というのは、得てしてこんな感じかな」


 呟きつつ、俺は歩き始めた。人の往来はそれなりで、一方向に流れがあるわけではない。そうした中、俺はふと目を人々に向けてみた。


「ドラゴンというのは、一目見てわからないんだろうけど」


 以前仕事で関わったドラゴン達がそうであったように、人との違いは見受けられない。少なからずドラゴンだっているはずなのだが、身体的な共通点も見いだせず、等しく街に溶け込んでいるようだ。

 これなら先に進むにつれ目立つようなこともなさそうだ。リミナもいる以上、無用なイベント避けたいし、おとなしく首都まで行くに限る――


「……ん?」


 そんな風に考えていた時、ふいに視線を感じ取った。

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