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ドラゴンの国へ

 ――翌日。

 早朝時点でルーティが訪れ、客室で俺は報告を聞くことになった。


「確認を取りました。要望自体は大丈夫だとの見解です……しかし、昨日もお話しましたが、多少なりとも検証しなければ――」

「わかりました。今の時点では、要望が通りそうだということだけで十分です」


 俺はルーティに頭を下げつつ答える。


「依頼はお請けいたします。要望については事情もあるでしょうし、改めて話しましょう」

「わかりました。こちらも尽力いたします」


 ルーティもまた頭を下げ――彼女は屋敷を後にした。一足先に戻り、詳しい事情を報告するらしい。


「さて、どう出るかな」


 リミナの件については、解決とまではいかないが展望は見えてきた。なら次は、出発についてだ。

 俺は廊下を進み、フィクハの部屋を訪れる。ノックをして返事を聞いてから中に入ると、黒いローブ姿で本を片手にウロウロしている彼女がいた。


「どうした?」

「ああ、ごめん。私、こうやって本を読むのが癖で」


 答えつつ、本をテーブルの上に置く。


「で、何?」

「フィベウス王国の騎士の人が来て、要望は通りそうだと言われたよ」


 前置きをしつつ説明を加える。昨日リミナ自身も俺の案で良いと了承したことも伝えると、彼女は納得したように頷いた。


「ひとまず、解決の目処は立ったね」

「どうだかな……血を手に入れるだけで万事解決、とまではいかないようにも思えるけど」

「それはフィベウス王国に着いてから考えればいいことだよ」

「確かにそうだな……で、フィクハ。出立はいつだ?」

「馬車も呼んで、なおかつ準備は整っているから、後は騎士が来るだけ……今日の昼には」


 答えながら彼女は視線を部屋の隅に転じた。目を向けるとベッドの傍らに荷物が置いてある。俺の持つ物と形状の似たザックに、剣が一本。


「レン君、同行するということでいいんだよね?」

「ああ。こっちはお願いするくらいだよ。フィベウスに行くとはいえ、俺達は目的が違うわけだし」

「私はあなた達がいると心強いし、別にいいよ。勇者レンなら、国もすぐ同行を許可するだろうし」

「そうか……ん?」


 ふと、彼女の言葉に疑問が生じる。


「どうしたの?」

「……あなた、達?」

「ん? ええ、あなたと、リミナさん」

「彼女を連れていくつもりか?」


 臥せっているのだから、ここに残していくものだと思っていたのだが……フィクハは首を左右に振った。


「リミナさんに血を入れるのだって、むこうでやった方がいいよ」

「そうか……大丈夫なのか?」

「リミナさんの容体? 私もできる限りフォローするから、心配しないで」


 明るく答えるフィクハ。俺は多少不安だったが……毒のことを調べていたのは彼女だ。信じることにしよう。

 で、俺はまたも疑問が生まれる……血を手に入れてからどうするのか、何一つ聞いていない。


「そういえば、フィクハさん。血を手に入れて、どうやってリミナに入れるんだ? 飲んですぐ治る、というわけじゃないだろう?」

「ええ、もらった血を精練して、薬みたいにするの。さらに特殊な技法で魔力を加えることで、ドラゴンの血を体の中に入れることができる」

「結構手順が必要なんだな」

「まあね。その辺は私が責任もってどうにかするから、心配いらないよ」

「そこまで面倒見てもらわなくてもいいけど……」

「いや、これは私が責任もってやるよ。何せ、師匠が引き起こしたことだから」


 フィクハは顔を引き締め応じる。俺としては彼女に負荷が掛かるのではという懸念を抱いたのだが……その心情を読み取ったのか、彼女はなおも続けた。


「シュウさんを追うにしても、戦力は必要でしょ? レン君達が動ければそれだけで大きな助けとなるし、メリットが大きいんだよ」

「……俺達が役に立つかどうかは、わからないよ」

「真実を知る人は必要だから」

「……それもそうか」

「というわけで、運命共同体よ」


 にっこりと告げる彼女に、俺は「わかった」と呟き、


「なら、お願いするよ」

「ええ、任せて」


 答え、彼女は俺にウインクをして見せた。






 その後、リミナに事情を話しつつ、同行する旨も伝える。


「確認だけど、行けそうか?」

「移動については問題ないと思います。ただ、それ以外のことは……」

「その辺は俺やフィクハがどうにかするさ……ま、道中は問題ないよ」


 俺の言葉にリミナは多少顔をしかめたが、言及はせず頷いた。


「はい……改めて、よろしくお願いします」

「任せろ。それで出発は昼くらいからなんだけど」

「準備はしておきます」

「大丈夫か?」

「そのくらいは心配いりません」


 微笑みながら答えるリミナ。ただ、昨日と比べ顔が赤い気がするのだが……一応、言っておいた方がいいか。


「リミナ、体調が悪ければすぐに言うこと。いいな?」

「はい」

「よし……それじゃあ、俺も準備をしてくる」


 そう言って、俺はリミナ部屋を出て自室へと戻った。

 そこで手早く準備を進める。まあザックに荷物を詰め込むだけなので、五分とかからずできてしまうのだが――


「……ん?」


 ふいに、俺は本を読むのに使っていたテーブルに目を留めた。そこには図書館から持ち出した本が一冊。


「返した方がいいかな」


 呟きつつ、本を手に取る。そして扉を勢いよく開け廊下に出ようとして、

 真正面にフィクハがいた。


「うわっ、と」


 驚いた様子を見せつつ彼女が反応。俺は「ごめん」と一言呟き、


「どうしたんだ?」

「騎士の人が思いの外早く来たから、昼前には出発しようという連絡を……って、それは?」


 フィクハは俺が持つ本を見て問い掛けた。


「ああ、図書館から借りたんだけど」

「……勇者と精霊の冒険、か。私も小さい頃読んだことがあるね」

「そうなのか……これを図書館に返しに行こうかと」

「別にいいんじゃない? 持っていけば?」

「え? でも……」

「移動中とか、宿泊する時とか暇でしょ? 一冊くらい持っていた方がいいよ」


 そう言ったフィクハは、肩をすくめなおも続ける。


「本を読むことで精神的に落ち着く効果とかもあるし」

「……いいのかな、本当に」

「いいんじゃない? でも、それでいいの? 表紙とか結構痛んでいるけど」

「シュウさんが読んでいた方だから手に取ったんだ」

「へえ……シュウさんが」


 呟きつつ、彼女は俺から本をひったくり表紙を確認。


「名前がデカデカと書いてあるね……なるほど、小さい頃読んでた本ってところか」

「変えた方がいい?」

「別にいいと思うよ。ま、貰っておきなよ」


 本人不在で簡単に決めていいものなのか疑問もあるが、まあこの際だし借りっぱなしにしておこう。


「もし全部終わったら、返しに来るよ」

「そう。あ、準備の方がどう?」

「俺は大丈夫。後はリミナだけど」

「なら、私が確認してくるよ。待っていて」


 フィクハは告げると俺に本を突き返し、廊下を歩き去った。俺は見送った後部屋に入り、本をザックの中に入れた。


「今度は、ドラゴンの国か」


 そして呟き、これから赴くフィベウス王国にのことを想像する――思えば最初の依頼はドラゴン絡み。縁があるのか知らないが、そこでも一騒動あるらしい。


「出会ったあのドラゴンと、再会することになるのかな……?」


 言った後俺は沈黙し……やがて部屋に訪れたフィクハにより、俺は部屋を後にすることとなった――

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