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奇妙な結果

 概要だけを語ったので、説明の時間はおよそ三分程度。話し終えた時、俺達はまだ廊下の途中にいた。


「穏健派と、強硬派か」


 グレンが呟きつつ、前を見ながら険しい顔つきを見せる。


「そちらの見立てでは、穏健派の彼が色々と妨害工作を行っているから、現状があると言いたいわけだな?」

「それが原因の全てかどうかわかりませんが……要因はあるかと」

「ふむ……とはいえ穏健派の幹部もいるという事実がある以上、これほどの事態はやりすぎだと思うのだが」

「私も同意」


 フィクハが発言。けれど続きがあり、一拍置いて話し始めた。


「けどまあ……もしかするとアークシェイドの首領になりたくて一度破壊し尽くすとか……そういう可能性もゼロじゃないし」

「首領、ねえ……」


 俺は首を傾げつつ辺りを見回す。敵はまだ存在するにしろ、砦は陥落に近い状態。


「これほど追い込まれている組織で首領になっても不利益しかないだろうけど……」

「その辺りは、彼らを倒し事情を訊くしかないだろうな」


 そしてグレンが結論を導き出す。俺は心の中で同意しつつ、果たしてそれができるのか自問自答した。

 剣は以前よりも強力になっている。けれど、身体的なものは以前と変わりない。もし戦うこととなった場合――


「待った」


 考えていると、グレンが俺を呼び止めた。


「不安は消えないだろうが、今は心配しても仕方ない」

「……そうですね」


 同意し、不安を頭から振り払う。出会ったシチュエーションなんかで戦い方は変わってくる。こちらが有利な状況で戦えることを祈るとしよう。

 そんな風に会話を行い、いよいよ俺達は上へと続く階段へ辿り着く。そこは先ほどと同様開けた空間で、なおかつ踊り場まで同じ。


 けれど、悪魔はいなかった。


「元々いないのか、それとも突破して進んだのか……」


 俺はホールを見回しながら呟く。魔法によって床が破砕している場所が散見され、戦っていたことは間違いなさそうだ。


「もしさっきの悪魔と交戦したのだとしたら、先発組も戦える力を持っていることになるけど」

「そうであって欲しいが」


 グレンは言いながら、踊り場を見上げる。釣られて俺も視線を移し耳を澄ませた。

 しかし、音は一切無くなっている。


「先ほどの人と会って以後、音はしませんね」

「膠着状態なのかもしれないな」


 グレンは俺の呟きに応じると、ゆっくりと階段へ歩を進めた。


「戦闘の形跡はある以上、彼らはやられていないだろう。そして性急に攻め立てていることから、焦れる様な状況だと深追いする危険がある……無謀な特攻などを行い、犠牲を出すかもしれない」


 彼はさらに解説。俺はそれを聞きながら彼と共に階段へ足を向けた。


「……ん?」


 その時、リミナが声を発した。振り向くと、俺達が進んできた廊下に視線を送っていた。


「リミナ、どうした?」

「足音が」


 言われ、耳を意識を集中させる。確かに廊下から足音が徐々に近づいてきている。複数の音で、人数も結構多そうだ。


「後続の部隊がやってきたんでしょ」


 フィクハが口を開く。彼女は剣を軽く振りつつ、俺達へ提案した。


「ひとまず合流して状況を確認しない? 退路を断たれるのも危険だし」

「……そうだな」


 俺は応じ、グレンへ目配せ。彼は同意したのか足を止め、廊下に視線を転じた。

 やがて音が近づき――全身を銀の鎧で包んだ騎士が五人、現れた。


「ああ、どうも」


 そこでフィクハが頭を下げる。態度から、ナナジア王国の面々なのだろう。


「ご無事でしたか」


 先頭に立つ騎士が言う。兜を被りなんだか暑苦しそうな男性は俺達よりも長身で、なんだか迫力のある人物。


「ええ。外はもういいの?」

「モンスター他、見張りも全て倒しました。現在アーガスト王国とクルシェイド王国の騎士が、一階を見回り、私達は上に来ました」

「そう」


 彼女は短く答えた後、俺に目をやった。後続の面々が来たことにより、上に行こうという合図だろう。


「わかりました。では、俺達は先へ進みます」


 俺が声を上げる。騎士達は一斉に頷き、


「ここはお任せ下さい」


 先頭の騎士が告げ、俺達は上へと進むことにした。

 いよいよ最後局面――そういう考えの中強く剣を握りしめた時、踊り場に到達。さらに三階へ上がろうとした、その時、


 どこからか、扉が勢いよく開く音が聞こえた。


「ん?」


 グレンが顔を上げる。俺は眉をひそめつつ、足を止めず三階へと辿り着いた。

 周囲を見回す。二階の時と構造が同じであり、大きいホールに廊下は左右に伸びている。


 そしてこちらに近づく足音が一つ――その相手は、俺達から見て右側の廊下に出現した。


「……げ」


 いの一番にフィクハが呻く。続いてリミナが目を見張り、俺とグレンは相手を見据えた。


「お、ご苦労だったな」


 現れたのは、砦の入り口付近ですれ違ったイジェト。


「後発組の、一番手といったところか?」


 彼の手には剣が握られ、それが喋るたびに左右に揺れる。そして激戦の証拠と思しき返り血らしきシミが、鎧に付着していた。

 ただ、ずいぶんと余裕のある顔つきをしており、まるで戦いが終わったかのような雰囲気。


「だけど、悪いな。お前達の出番は無いぞ」

「……は?」


 彼の言葉に応じたのはフィクハ。間の抜けた声に、イジェトは悠然と返答してみせる。


「だから、終わったんだよ。幹部は全員、眠らせて魔法で拘束している」


 何……? 俺は驚きイジェトを凝視。すると彼は俺にしてやったりという顔で口の端を歪めた。


「そういうわけだ。ま、拍子抜けもいいところだが、こちらの策が上手くいったということだろう」


 告げて、俺達の横をすり抜け階段を下り始めた。


「下の方に連絡してくるよ」


 そう言い残し、彼の姿が視界から消えた。


「……大勝利、なのだろうな」


 やがて、グレンが呟く。俺は頷きながらも、喉の奥が引っ掛かる感触を覚える。

 ラキが警備を担当している以上、絶対イジェト達の前にも現れるはず……もしそうなら、例え勝つとしても無事ではすまないと、俺は思う。


「彼のことを、訊くべきだろうな」


 グレンも同じ結論を抱いたか提案。俺は深く頷き、階段を下りて行ったイジェトの後を追おうとした。

 けれど、廊下奥からまたも足音。そこでイジェトを追うのを中断し、次に来る人物に声を掛けようと決める。


 やがて、その人物が廊下から現れる。俺はすぐさま口を開こうとして――


「は?」


 驚いた。またも、見知った人物。


「ん……? ああ、どうも」


 ――遺跡で遭遇した、勇者グランドであった。


「知り合いか?」


 グレンが問う。俺は頷きつつ、気を取り直して彼に口を開いた。


「あの……制圧したようですが」

「ああ、そうだ。だが……」


 と、グランドは警戒を抱いた目で俺に返答する。


「一階にいた悪魔以外に目立った敵がいなかった。こちらとしては少数の犠牲で済み、良かったと言うべきだが」

「懸念があるんですか?」


 俺の問いに、グランドは首肯する。


「念の為、仲間を監視に置いている。正直、これで終わるとは思えない」


 ――彼もまた、どこか不安を感じている様子。


「……一つ、質問が」


 そこで俺は、ラキのことを伝え、


「――そういう人物を、見ませんでしたか?」

「いや、見ていないな」


 あっさりと首を振った。交戦していないようだ。

 この時点でやはり、何かあると悟る……どこまでも、疑問がついて回る事態となった。

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