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遭遇した相手

 以後、進んだ先に現れる部屋の中を調べるようになった。結果、動かない構成員はいたが、味方は誰もいなかった。


「気持ち悪いくらい順調のようだな」


 開け放たれていた部屋を見ながらグレンは言う。

 彼はどこまでも警戒しているようで、気を引き締めるべくさらに続ける。


「上で罠を張っているということか……? しかし、袋小路になるのは目に見えている以上、不利益しかないと思うのだが……」

「理由があった、と考える方が自然かもね」


 応じたのは、前後に伸びる廊下を見回すフィクハ。


「この本拠地を襲撃されることくらい想定していたはずだし……それなのに一方的な展開。不安要素は無きにしもあらずだけど、このままいけばこちらの大勝利よね」


 ――そこまで聞いた時、俺は王子護衛の時に出会ったエンスの言葉を思い出した。


 強硬派と穏健派……もしやエンス達が何かしら策を立て、わざと組織にダメージを与えているのか? いや、それにしても幹部をひとまとめにした状態でやれば、アークシェイドそのものが壊滅してもおかしくない。


 そんなレベルで何かをするとも思えないのだが……考える間に、別の部屋の扉が目に入る。確認しておかないといけないだろう。

 立ち止まり、部屋のドアノブに手を掛ける。グレン達もそれに気付いて歩みを止めた。


 ノブを回し、ゆっくりと開けようとする――その時、扉の奥から気配の様なものを感じ取った。


「――っ!?」


 殺気――直感した俺は即座に横手に逃げた。瞬間、扉が破壊され、破片が廊下へと飛散する。


「敵か!」


 グレンはすぐさまその前方に回り込み、戦闘態勢に入った。同時に扉から出てきたのは、剣を握った男性。不精髭に鎧姿と、明らかに見張りの者とは異なる容姿。


「このっ!」


 彼は扉を破壊した勢いそのままに正面に立つグレンへ剣を放つ。しかし彼はそれを軽くいなすと、反撃とばかりに胴を薙いだ。


「ぐっ!」


 斬撃が直撃し――出血はしなかったが、男性は剣戟によって弾き飛ばされた。


「逃げようとしていたところ、見つかりそうだったので襲ってきた、といったところか?」


 グレンは呟き、じっと部屋を見る。俺もまた彼に合わせて中を覗くと、尻餅をつき腹を抱える男性が目に入った。

 部屋はそれほど広くない、ベッドと机が置いてある個室。その中で男性の剣はあさっての方向に飛ばされ、床に落ちているのがわかった


 さらに視線を変えると、もう一人いた。黒い髪を持ち、黒いローブを着た――


「親子、といったところか」


 グレンが見解を述べる。男性と共にいたのは、十歳くらいの少女だった。


「おそらく襲撃のため部屋に隠れてやり過ごし……頃合いを見計らって脱出しようと考えていたのだろう」


 グレンは呟きつつ、俺へと視線を送る。


「で、この二人はどうする?」

「……ちょ、ちょっと待ってくれ」


 男性が呻く。彼はグレンの剣を見据え、怯えている様子。


「選択肢としてはいくつかあるが……」


 対するグレンは男性の言葉を無視するように剣を向け、俺達へ言う。

 俺は一度フィクハ達の顔を確認する。リミナやフィクハは硬い表情を見せており、じっと推移を見守るような構え。


「……そうだな」


 彼女達から目を離し、再び男性へ。死刑執行の日が来ないことを祈るような面持ちの男性に、俺は告げた。


「あんたは組織の構成員みたいだが……見張りの人間とは違うように見えるな」

「わ、私は……ナナジア王国で隊を率い活動していた者だ」

「……だ、そうだけど。フィクハ」


 フィクハ、という言葉に男性はビクッと体を震わせる。彼女の名を聞いたことはあるらしい。


「やりようによってはここで斬って捨てることも可能だけど……」

「事情は、訊いといた方がよさそうね」


 フィクハは言うと、男性へ向かって口を開いた。


「事情を話せば、少なくとも後ろの子についての安否は保証するよ……あなたが助かるかは、悪いけど保証できない」

「……わかった。この子だけは、頼む」


 男性は頷く。フィクハは「わかった」と答えた後、尋ねた。


「組織の幹部達は、現状どうなっているの?」

「今は砦三階の、広間に集合している」

「広間?」

「転移魔方陣のある部屋だ。もっともそこに到達して使えないとわかり、幹部達が狼狽えていたのは見た」


 苦い顔をして語る男性。ふむ、どうやら彼らは浮足立っているようだ。


「ずいぶんと見張りが少ないようだけど?」


 さらにフィクハは問う。すると、男性は険しい顔をした。


「どうやら、幹部を守護していた人員が揃って本拠地から離れている間に、君達が来たようだ」

「なぜ離れたの?」

「幹部達の守護する者は、持ち回りで本拠地の結界から脱し、念の為に周囲を監視するようにしている。本拠を狙う存在が現れた時、即座に対応できるように……だが、今回は多少趣が異なっていた」

「どういうこと?」

「やや離れた街に、騎士などが駐屯しているという報が入っていた。幹部達は本拠地に来た時点で察し、そちらの偵察に戦力を回していたようだ。場合によってはその時点で攻撃を仕掛け、混乱させるプランもあったようだが」


 そっちに人員を送ったせいで、こちらが手薄になったと言いたいようだ。


「本拠地が露見し、騎士達が動いているのかもしれない……国に入り込んでいる人間からはモンスター討伐だと聞かされていたが、念の為そうした」

「けど、実際はこちらの襲撃だった、と」


 フィクハの言葉に、男性は頷いた。


「無論、こちらも戦力は温存していた……しかし、それを上回る戦力が、押し寄せてきていたようだ。幹部達が事態を把握したのはこの本拠が隔離された後。報告が遅れ、気付いた時には脱出手段も封じられてしまった」


 ――完全に対応が後手に回っているようだ。組織としてずいぶん間抜けにも思えるのだが……いや、待て。


「一つ、いいか?」


 そこで俺が声を発する。男性は俺を一瞥し「構わない」と答えた。


「今回幹部達が集まったらしいが……その中に、穏健派の人間はいるのか?」

「……詳しいな、お前」

「その系統の人間と出会ったことがあるからね」

「……もしや、アーガスト王国の事件に加担していた勇者か?」


 察したのかそう問われた。俺は静かに頷き、


「顛末も知っているよ。で、いるのか?」

「いるな、確かに。穏健派の代表者もいた」

「その中に、ラキやエンスという人物はいるか?」


 確認の問い。すると、男性は頷いた。


「いる。彼らは今回砦内部の警備に当たっていたはずだ」


 ――その言葉によって、俺は意を介した。彼らが強硬派の力を削ぐために妨害して、対応を後手にさせているのだろう。警備にあたっているのなら、それができるはず。

 もっとも、戦力を削るなんてレベルでは済まされないとは思うのだが――


「何かわかったのか?」


 グレンの問い。俺は彼を一瞥し、さらに男性に視線を送った後、


「その辺りの事情は、移動をしながらでも話します。で、ある程度事情は把握できたので……この人、どうします?」

「私がやるわ」


 フィクハが手を上げ、さらに男性へ言う。


「しばらくおとなしくしていてもらうけど、いい?」

「わかった」


 承諾の声を聞くと、彼女は詠唱を始めた。男性と少女が不安な瞳を見せる中――フィクハが何事か呟き、二人同時に床へと倒れた。


「眠らせた。他にも事情は訊きたいしね」

「賢明だな」


 グレンが言う。俺もまた頷き、


「じゃあ、歩きながら説明を」


 言いながら扉を閉め、二人へ話し始めた。


「まず、アークシェイドの中にも派閥があるらしく、その辺りの事情から――」

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