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上階の戦闘

 襲い掛かってくるリザードマンの目標は基本ランダムであり、飛び込んでくるタイミングでこちらに来るのか判断し、対抗する必要があった。

 狭い廊下に立って対処すればいいのではと最初思ったのだが、グレンが足をやった瞬間リザードマンが後退し始めたので、魔力に反応して見せた時と同様、不利な状況で向かってくることはしないとの見解を得た。


 そしてこちらとしては早急に片付けたい――以上により、敵の有利になるとわかっていても、俺達はホールの中で戦うこととなった。


「ずいぶん面倒な命令を受けたモンスターだな……!」


 グレンが悪態をつきつつリザードマンを斬り伏せる。それによりあっさりと消滅し、俺もまた向かってきた敵を一撃で倒す。


 回避能力が高く、時折避けられてしまうのだが……追撃するのはそれほど難しくないし、複数で迫られても反応できるため、今のところは対処できている。しかも俺の場合は魔力を収束するだけでリザードマンの剣や防具をスパスパ斬るため、グレンよりずいぶんと楽に倒せた。


「その剣、相当強力なようだが」


 戦いの最中、グレンが問い掛ける。結構気になっているようなので、俺も彼に応じるべく口を開いた。


「えっと、リリンからルールクという人の店を紹介されて……」

「英雄リデスの剣を作った店だな――」


 そこまで言って、彼は察したようだった。


「そうか、リデスの剣なのか」

「ええ、はい、まあ」

「ええっ!?」


 そこへ、会話を聞いていたらしいフィクハが声を発した。けれどそれに応じることはできず、迫って来たリザードマンを一体倒す。

 相変わらず断続的に来るモンスター。終わりがないようにも思えてしまい、僅かながら焦燥感が募る。


 それと同時に、ある考えが浮かんだ。


「もしかして、今も生み出しているとか……」

「いや、それはないだろう」


 俺の言葉をグレンは否定する。


「人間が悪魔やモンスターを生み出すには、それなりの手順がいる。魔力もかなり消費するはずで、砦の中にいる以上気付くはずだ」

「とすると、今戦っているのは突破した人達が残したモンスターだと?」

「だろうな。とはいえ、これほどの数が残っているとなると、勇者達は敵を無視し続けたのかもしれないな」

「なるほど」


 幹部捕獲を優先したということか。やり方としてはありかもしれないが、不安が残る。


「結界を綿密に構築し、転移魔法も使えないはず。その状況下でここまで敵を残すとなると、ずいぶんせっかちな指揮官がいるのだな」


 グレンがどこか皮肉気に語りつつ、向かってきたリザードマンを倒した。最初は多少手こずっていたが、慣れたせいかすぐに対応できるようになっていた。

 俺もまた同じ。余裕も出てきたため、一瞬だけ背後を振り返り他の二人を確認する。


 リミナは俺達に背を向け、片方の廊下を結界で防いでいる。反対側がモンスターが現れていないらしく、平穏そのもの。

 そしてフィクハは彼女と背中合わせとなり、剣を握りこちらを注視していた。


 目を戻す。リザードマンがこちらへ飛び込むように向かって来ていたのだが、俺は難なく倒した。

 最早敵ではなく、これなら余裕で……と、いけない。ここは敵の本拠地であり、さらに強力なモンスターが出る可能性だって――


 と、考えた所でモンスターが途切れた。


「一通り倒したようだな」


 グレンが廊下を見ながら告げる。そこで俺は息をつき、再度リミナ達の様子を窺う。

 リミナが結界を解除し、フィクハがこちらへ視線を送る姿があった。


「一応訊くけど、怪我とかないか?」


「こちらは大丈夫……それより」


 フィクハはじっと俺の剣を眺める。


「それ、リデスの剣なの?」

「……そうだよ」


 フィクハは視線を変えぬままじっと凝視する。相当驚いているようだが――


「けどさ、その剣の本質的な力をうまく使えば、さっきの悪魔だって一撃じゃないの?」

「……その辺は、色々と理由があるんだよ」


 嘆息しつつ俺は答え、グレンに目を向ける。彼は廊下をじっと注目していたが……やがて、俺と目を合わせた。


「気配はないな。先へ進むことにしよう」

「そうですね」


 頷き、俺はリミナ達へ目配せ。二人は無言で承諾し、歩き始めた。


「戦闘の音も途絶えている。やられていなければいいが」


 剣を携えつつグレンが呟く。彼の言う通り先ほどの爆発音以来、音が生じていない。


「不気味よね、逆に」


 今度はフィクハの声。


「こちらだって精鋭なわけだけど、本拠地でなおかつ幹部が集中しているのに、ここまであっさりと侵入できるというのも変だよ」

「……確かに、な」


 グレンが応じる。二人の会話により、俺もまた疑問に思い始めた。


 一階で出てきた悪魔のように強力なモンスターもいるにはいる。しかし、例えば王子を護衛していた時に遭遇した襲撃者のように、人間で強い相手には遭遇していない。

 幹部達を守っているのかもしれないが、それにしたって一階を易々と制圧してしまうくらいに守りが甘いのは疑問が残る。


「例の人物が出てきていないことも、気になるな」


 さらにグレンは言う。ラキのことだ。


「アークシェイドの中で彼がどの程度の力量なのかわからないが……あのクラスの人間が、複数いてもおかしくない」

「因縁のある人でもいるの?」


 フィクハが問う。グレンは彼女を一瞥し、少し考えた後、


「……私や、彼が強いと感じた相手が、少なくともここにいるはずだ」

「そうなんだ。その人が、先発隊にやられる可能性は?」

「ないな」


 断言するグレン。彼がそう言うのも仕方ないとは思うが――

 考えている間に扉の近くを通り過ぎる。隙間が僅かに開いていて、俺は反射的に覗き込み、


「……人が倒れている」


 思わず、呟いた。

 俺を含む全員の足が止まる。すかさずグレンが近寄り、中を確認。


「会議室のようだな」


 グレンは言いながら扉を開けた。それにより中を見渡すことができ、中央に円卓が設置された一室であるのがわかった。

 中には交戦の跡らしき傷などが見られ、さらに人が複数倒れている。黒ずくめの人間もいる他、事切れるように机に突っ伏している人もいた。


「椅子に座っているのは、どう考えてもこちらの人間じゃないよね」


 フィクハは言いながら中に入り、手近に倒れていた人から確認を始める。


「先発組が進んでいる時に、ここで交戦があったということか」


 俺は呟きつつ、反対側に開かれた扉があるのを目に留める。なんとなくそちらに歩み寄り、注意を払いつつ廊下を確認した。

 人の姿はない。けれどあちこち血が付着している他、床の一部分が砕けている。先ほどの爆発音の原因は、これかもしれない。


「……全員、駄目ね」


 そこで、フィクハが口を開く。目を向けると、彼女は沈鬱は面持ちで部屋を見回していた。


「生きている人は、ここにはいない」

「なら、先へ進まないと」

「そうね」


 俺の意見に対し、一度息をついて彼女は応じ――僅かに沈黙。そこで、遠くから金属音みたいな音が聞こえるのに気付く。


「さらに上のようだな」


 グレンが言う。俺は頷き、さらに進むよう指示を出そうと口を開く。


「それじゃあ、移動を再開――」


 言い掛けた時、視界の端、廊下に黒い影がちらついた。


「ん?」


 確認する。しかし、何もない。


「……気のせいか?」

「どうした?」


 グレンが問う。俺は「何でもありません」と答え、改めて三人へ指示を出した。

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