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進んだ先に

「あなたも参加していたのですね」


 我に返ったルファーツが口を開く。俺としてはただ頷くしかない。


「しかし、なぜですか? 認可されていないので連絡は来なかったと思いますが」

「あ、それは……」


 答えようとして、フィクハが眉根を寄せている姿が視界の端に映った。


「……レン?」


 名前に反応したらしい。そういえば彼女の名前は訊いたけど、自己紹介していなかった。


「レンって、あのレン?」

「……それで合っているよ」

「そう」


 しげしげとこちらを眺める彼女。まさか因縁をつけてくるのか……と思ったのだが、彼女はどこか納得した声を上げた。


「なるほどね。シュウさんが信用するわけだ」

「……ほう?」


 彼女のコメントに今度はルファーツが声を発した。これは説明した方がいいのかと思ったのだが――


「積もる話もおありでしょうが、今は砦の制圧を優先すべきでは」


 リミナが横槍を入れた。そこで俺は頷き、気を取り直して口を開いた。


「とりあえず、その辺の話しは後で……ルファーツさん、外の敵は大丈夫なんですか?」

「外周部の敵はほぼいなくなりました。なので、砦に入り状況を窺いに」

「一階は制圧したようだぞ」


 そこへグレンの声。彼は階段を下り、俺達へ近寄る。


「上の様子を確認したが、扉が開け放たれていたり、血痕が壁に付着していたりしているが、人の姿や音はない」

「さらに上に行ったと?」


 俺の問いにグレンは「おそらく」と答える。


「勇者達が屍となっている光景などは見受けられないから、全滅の憂き目にあっているとは考えにくい。だが先ほどの悪魔の存在を考えると、幹部達の下へ辿り着いている可能性も低いだろう」

「耐久力高かったですしね」


 俺のコメントにグレンは深く頷いた。


「先発組に、あの悪魔を倒せる勇者がいるのか……?」

「わかりませんが……勇者や騎士が集まる以上多少なりともいるのでは?」

「それほど手強かったのですか?」


 ルファーツが問う。俺は彼の言葉に頷き、


「連続で畳みかけてどうにか、といったところでした」

「そうですか。先発する勇者は多少なりとも耳に入っていますが、レン殿が苦戦するとなると、少し危ないかもしれません――」


 彼が言うや否や、上から爆発音が聞こえた。戦闘が始まったらしい。


「……行った方がよさそうですね」

「だろうな」


 こちらの言葉にグレンが応じる。そこで俺はフィクハを一瞥し、


「そっちはどうする?」

「もちろん行くよ。上で倒れている人もいるだろうし」


 彼女は言うと、一度倒れている人を見回してからルファーツへ告げる。


「生存していた方の応急手当は行ったので……後はお願いできます?」

「わかりました。後続の部隊も直にやってくると思うので、対処します」

「お願いします」


 フィクハはペコリと頭を下げ、こちらに目配せをする。

 俺は無言で階段へと足を向ける。グレンやリミナも追随し、階段を上がり始めた。






 二階はまず、ホールのような広い場所と、いくつかの扉。さらに左右に続く廊下があった。グレンの言う通り人が倒れる姿は皆無であり、扉が開け放たれている場所や、血が付着している壁面を見ることができた。血痕については、怪我をしたにしろ先へ進んだということだろうか。


 そして先ほどの爆発音についてだが、目に入る場所ではない。距離はあるようだ。


「さっきの悪魔がまだいるかどうかで、状況が変わるな」


 グレンが言う。強さから相当な警戒している様子。


「一階では強行突破をして難を逃れたようだが……」


 さらに続けて呟いた時、彼の足が止まる。その理由は――


「気配があるね」


 フィクハが言う。同時に剣を構え、目つきを鋭くした。


「こちらに向かっているようだな」


 グレンは彼女の言葉に同調し、戦闘態勢に入る。さらに、俺とリミナも辺りを見回し始めた。

 少しして、足音が聞こえ始める。それを頼りに目を向けたのは、俺から見て左側の廊下。


 ただ、重い音ではない。まるで子供のような、軽いもの――


「来るぞ」


 グレンが告げた矢先、廊下の奥からその姿を認め、


「えっ……?」


 僅かばかり、戸惑った。


 身長は、俺の半分もないくらいのもので、子供のように短い手足を振りこちらへ近づいてくる。人間の形をしておりなおかつ鉄製の鎧や具足なんかを身につけ、両腕には長剣を半分にしたくらいの長さしかない剣が握られていた。

 そして、際立った特徴は頭部。人間の顔ではない。茶色い鱗を持った、トカゲ。


 よくよく見ると体にも鱗が見られ、明らかに人間とは異なる存在だと確信できた。


「リザードマンだな。通常と比べ小さいが」


 グレンが言う。俺は小さく頷きながら、後続から同じような体を持ったモンスターが来るのを視界に入れた。


「じゃあさっきと同じような陣形で――」


 俺が指示を送ろうとした、その時――先頭のリザードマンが跳躍した。

 一瞬、視界からモンスターが消える。だが次の瞬間それがグレンの間近に迫っているのを見た。そして彼は、反射的に剣を振り打ち倒す。


「速い――!」


 フィクハが呟くのを俺はしかと聞く。彼女の言う通り動作が速く厄介な相手のようだ。

 加えて続々とやってくる。あの速さが集団でやってくるとなると、かなり厄介――


「リミナ」


 そこで、俺は名を呼ぶ。


「もう片方の廊下を結界で防いでくれ。挟撃されるとまずい」

「あ、はい。わかりました」


 彼女はすぐさま詠唱を開始。次に俺はフィクハへ指示を出す。


「フィクハ、彼女の護衛できるか?」

「いいよ。後は適当に援護を――」


 告げた瞬間、廊下を近づきつつあったリザードマンが一体跳躍した。その目標は、フィクハ。


「おっと」


 けれど彼女は怯えず騒がず、剣でリザードマンを打ち払う。モンスターは速いにしろ体重が軽いせいか、剣戟によって容易く吹き飛んだ。


「反応できるのか」


 俺は彼女が上手く対処したことに驚く。それにフィクハはニヤリとし、


「いざとなったら、私が君を守ってあげるよ」


 そう軽口を叩いた。

 俺は苦笑しつつ「頼むよ」と冗談っぽく返し……さらに廊下からリザードマンが進むのを見た。


「ふっ!」


 なので、雷撃を放つ。一筋の矢が放たれ、リザードマンは横へ跳んで回避した。

 すかさず追撃。結果、今度はよけることができず、矢は胸部を貫通。短い声と共に光となって消えた。


 攻撃自体は通用する――考える間に周囲を確認。グレンが最初突撃してきたリザードマンを縦に一閃し倒す光景と、さらにフィクハが二番目に入り込んだ敵へ連撃を叩き込む姿を捉える。

 そして双方の斬撃により、ほぼ同時にリザードマンは消滅した。


「厄介だな」


 続いてグレンの声。彼は消滅するモンスターを確認した後、廊下へ視線を送った。釣られるように目を向けると、さらにリザードマンが現れる光景。


「回避能力が高い。できれば廊下に進んでくる時に倒した方がいいな」


 呟きざまに彼は刀身に魔力を込め始める。一階で土人形を倒したあの力――あれなら、十二分に倒せるはず。


 ――なのだが、突如リザードマンが足を反転させた。


「何?」


 グレンが訝しげに呟く間に、モンスター達は距離を取る。


「魔力に反応しているっぽいね」


 フィクハが言う。どうやら魔力が多大にあるとこちらに来ない様子。

 そこでグレンが魔力を閉じる。すると息を吹き返したようにリザードマンは奇声を上げ、こちらへ進み始めた。


「……魔力を収束せず、こちらにおびき寄せた方が早く片がつくだろうな」


 加えてグレンが告げた。俺は内心同意しつつ、剣を握りしめ――戦闘が始まった。

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