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阻む悪魔

 グレンの右を俺は走り、まずは悪魔の詳細な姿を確認する。


 土人形と同様、人間をベースとした形をしているのが特徴で、身長は二メートルを優に越えている。争奪戦で経験した大型の魔物と比べればまだ小さい方だが、威圧感は間違いなくそれらを超えている。

 そして肩幅の広い黒い体躯を黒い鎧や小手、さらには具足によって覆っている。両手には何も握っていない。徒手空拳が武器なのだろう。


 頭部は全体を覆うような鉄仮面を被っている。ただ濁り切った赤い瞳だけは見えており、俺達を見据えていた。他にわかるのは、頭部から二本刃のように鋭い漆黒の角が生えていることくらい。

 そこまで把握した時、俺とグレンは階段へ足を踏み入れた。それと同時に悪魔は再度吠え、腰を落とし戦闘態勢に入る。


 直後、俺は牽制とばかりに雷撃を放った。土人形を倒した攻撃だったが――悪魔は手を軽く振ってあっさり消し飛ばした。

 やはり一筋縄ではいかない様子。思いながら階段を駆け上がり踊り場まで到達する。そこで悪魔は右腕を振り上げた。


 攻撃が来る。俺はすかさず回避行動に移り、隣にいたグレンもまた防御に入った。

 瞬間、右腕が横から繰り出された。爪の鋭い、斬撃と呼ぶべきその攻撃。グレンは伏せるように避け、俺は横に逃れつつ腕全体に魔力を収束させ強化し、剣で受け流すように防いだ。


「――っ!?」


 腕が剣に触れた瞬間、体が僅かに持っていかれる。力も相当あると思いつつ後退し、階段手前でどうにか踏みとどまる。

 そこで、グレンが反撃に移る。伏せた状態から剣を素早く引き上げ、腕を覆う小手に斬撃が当たった――のだが、


「何……?」


 刃が止まる。力に加え相当強度もある。

 その間に俺は体勢を立て直し攻撃に移る。対する悪魔は左腕を俺へと差し向けた。


 上手くいけば腕を両断できると期待したのだが、刃が小手に触れた瞬間止まった。しかし、ほんの僅かだが刃が食い込む。

 いける――そう判断した直後、悪魔が俺達を振り払り一歩大きく後退し、突如前傾姿勢となった。


 反撃に転じようとする動き。俺は剣を構え直し攻撃が来る前に悪魔へ走る。だが悪魔もひるむことなく突進を仕掛けた。

 俺は正面から受けるのは無理があると判断し、すれ違いざまに剣を薙ぐことを決意。即座に横に足を移し回避しようとした。


 だが悪魔はそれを予期していたのか、腕を伸ばし迫ろうとする。俺は小さく呻きながらも足を動かし、攻撃範囲から脱することに成功した――けれど、避けたせいで続けざまに放った剣は上手く力を乗せることができず、鎧を浅く斬っただけで終わる。

 しかし悪魔にも隙が生じた――すかさず態勢を整え攻撃しようとした時、グレンの魔力が周囲に満ちるのを感じ取った。


 見ると悪魔の正面から横に一閃しようとするグレンの姿。対する悪魔は両腕を交差させて防御の姿勢をとり――剣が衝突した。

 白光が周囲に生じ、俺は視界を遮られながらも刀身に魔力を集める。そして攻撃の結果グレンが悪魔を押し返し、なおかつ小手などを破壊したのをしかと認めた。


「強固ではあるが、十分通用するな」


 グレンが言うのが聞こえ……今度は俺が剣を繰り出す。悪魔は回避が間に合わず、再度両腕をクロスさせ防御した。

 そこへ剣が入る。刃が光に包まれ、相手に叩きつけるように俺は振り抜く。


 刹那、悪魔は吠えた。確実に効いていると理解しながら、両腕に大きな裂傷が存在していることを確認。


「グレンさん!」


 俺はここぞとばかりに叫ぶと、さらに悪魔へ剣をかざす。相手はやや動きが鈍りながら迎え撃つ姿勢をとるが、俺は構わず攻勢に出た。

 悪魔はまたも避けられず防御。そこで剣戟が決まり、またも腕に傷つけた。


 このままいけば――考えているとグレンも追撃を放つ。魔力を集中させ、今度は縦に振り下ろした。

 悪魔はそれも避けられず防御。頭の上で両腕を交差させ、刃と腕が衝突――すると、腕がとうとう耐えきれなかったのか大きく刃が食い込んだ。


「――おおっ!」


 グレンは気合と共に一閃。とうとう耐えきれなくなった腕が見事両断され、さらに頭部へしかと一撃が決まった。

 直後、悪魔は脆弱(ぜいじゃく)な咆哮を上げる。それが断末魔であると確信した時、悪魔は光と化し世界から喪失した。


「……強かったな」


 やがて、グレンは呟く。俺はそれに頷きつつ、階段下へ視線を移す。

 フィクハが片膝立ちとなり、勇者と思しき人に近寄り手をかざしている姿と、見守るように立つリミナがいた。


「一応、生存者の確認をした方が良いでしょうね」

「だろうな」


 グレンは階段上と悪魔が立っていた場所を見つつ、同意する。俺は剣を握りしめながら階段を下り、二人へ近づく。


「どうだ?」

「……とりあえず、生き残っている人の治療はこれで最後」


 フィクハが答える。同時に魔法を掛け終えたのか息をつき、ゆっくりと立ち上がった。


「敵を含め五人いて、味方一人と敵が一人死んでいる。味方は例外なく爪で引き裂かれた痕跡があるから、悪魔にやられたんだと思う」

「そうか」


 応じながら俺は周囲を見回す。倒れている人に見覚えはないが、騎士と思しき人物が倒れているのはわかった。


「……う」


 そこで、最後に治療していた人物が目覚めた。短めの茶髪を持った、胸当てに旅装姿の男性。勇者だと一目でわかる。


「大丈夫?」


 フィクハが彼を覗き込むように尋ねる。彼は視線を宙に漂わせた後、俺達を視界に捉え、小さく頷いた。


「ここは……」


 呟いて、彼はすぐさま起き上がろうとした。けれど、痛みのためか顔をひきつらせるだけ。


「大丈夫よ、悪魔は倒したから」


 フィクハが言う。すると彼は驚いた後、安堵した表情を見せた。


「そうか……他にやられた人間は?」

「あなた以外に二人倒れていて、一名は死亡」

「……どうにか、突破はできたのか」

「どういうこと?」


 フィクハが問うと、男性は説明を始めた。


「先発組がここに来た時、悪魔が立っていた。魔法を撃っても倒れなかったため、時間が掛かることから強行突破しようという算段になった。そして悪魔を引きつけ、その時俺は攻撃を受け気絶した」

「私達を待つという選択はなかったの?」

「数人の勇者が押し通るつもりと主張した」

「そう……功を立てようとした、弊害(へいがい)ね」


 呟くと、彼女は俺へと顔を向けた。


「上にはまだ味方がいるみたいだし、先へ進まないといけないわね」

「そうだな……でも、ここにいる人は――」


 呟いたところで、進んできた廊下から複数の足音が聞こえてきた。やや駆け足で進んでおり、後発で砦に入った人物なのだと推測する。


「増援が来るようだし、私達は先に進んでもいいんじゃない?」

「……そうだな」


 同意しつつ、俺はじっと廊下を眺める。味方で間違いないと思うが、念の為だ。


「私達は先に行くけれど、いい?」

「ああ。わかった」


 フィクハと男性が会話を行う間も、足音が近づく。リミナは俺の様子を察したのか硬い表情を見せつつ、廊下に注目する。

 やがて――その相手が何か喋っているのも耳に入り、姿が見えた。


「先発の方ですか――」


 相手はこちらを見て口を開き、言葉が止まる。そして、こちらは硬直した。


「……レン、殿?」


 続いて声。俺は小さく頷き、相手を見返す。

 相手は騎士――それも、アーガスト王国で接したことのある、騎士ルファーツだった。

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