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砦の中へ

 俺達は壊れた城壁から再度侵入。外周部を念の為確認したが、リミナの魔法によってほとんど倒したらしく、人形の姿は見えなかった。

 そして正面入り口から建物の中へ。入るとどこからか音が聞こえる。


「さて、いよいよね」


 気合を入れ直したのかフィクハが言う。俺の隣で剣を構えるグレンも同じことを思ったのか、小さく頷いているのが見えた。

 俺は音に注意を払い耳を澄ませる。まだ距離はある――思いつつ、正面に続く廊下を歩き始める。


 進路は直進。途中いくつか部屋に繋がる扉があり、中を確認するのだが誰もいない。


「一階部分はおおよそ制圧したようだな」


 グレンが声を発する。戦闘の音が割に遠いことから考えて、彼の言う通りかもしれない。

 近くにあった部屋を確認した後、移動を再開。程なくして、T字路に行き着いた。


 俺は先がどのような構造なのか確認したかったのだが、あいにく曲がり角がありどこに向かうのかは予想できない。


「さて、どうする?」


 俺は三人に尋ねる。このまま固まって行動した方がいいのか、それとも分かれた方がいいのか――

 考える間に、右へ進む廊下から人影が出現。目を向けると先ほど出現した土人形が一体。


「お出ましだな」


 グレンは言いながら戦闘態勢に入る。俺も同調するように剣を構え――人形が襲い掛かってきた。

 数は一体だけなので、俺が雷撃を放ち難なく倒す。しかしその直後、廊下奥からなにやら靴音のようなものが響き始める。


 あの人形が呼び水になったかどうか知らないが、どうやら人形が押し寄せてくるらしい。またかと思う反面、他の勇者や騎士がどうなっているのか少し気になる。


「左に逃れて、敵をやり過ごす?」


 後方にいるフィクハが問う。俺は彼女を一瞥し……ここで数を減らしておくべきだろうという結論に達する。


「いや、倒せるのなら倒した方がいいと思う」

「私も同意です」


 リミナが反応。続いてグレンが「賛同する」と答え、


「指示はあるか?」

「……何で俺?」


 グレンが尋ねてきたので思わず問い返した――その時、足音が近づく。

 もう一時もなさそうだ。俺は「わかった」と答え、全員に指示を出す。


「俺とリミナの魔法で遠距離から敵を迎撃。グレンさんは前に立って接近した敵を食い止めてください」

「わかった」

「で、フィクハさんは後方から敵が来ないか監視」

「了解。援護は?」

「やれるなら、して欲しい。けど後方を警戒するのを優先で」

「わかった」


 彼女が答えた直後、いよいよ人形が出現。数は二体――


「えっ……!」


 次の瞬間、思わず呻く。二体と思っていたらさらに増え、増えた分を数えようとしたらさらに増える。反射的に雷撃を一発お見舞いし一体撃破したが、人形は数に物を言わせ突撃を始めた。


 ちょっとビビリつつ、俺はさらに雷撃を放つ。いや、ここは氷なんかを使って人形の進撃を食い止めた方がいいだろうか……ただ一つ問題がある。雷撃くらいならどうにかなっているが、廊下を覆うような氷なんか生み出したら、この剣の力でどうなるかわからない。狭い場所である以上、誰かを巻き込みかねない――


「――ふっ!」


 そこで、グレンが剣を縦に一閃した。剣先が勢いよく弧を描き、刃から白い軌跡が生まれる。

 刹那、廊下全体を覆う程の白い光が生まれた。衝撃波か何かだと俺は理解し――見えていた人形全てを飲み込んだ。


 やがて光が消える。廊下に人形は存在せず、僅かな土が床に散らばっているだけだった。


「終わったぞ」


 驚いている間にグレンが言う。俺は彼に応じようとしたのだが、さらに奥から人形が出現する。


「きりがないな」


 呟きつつグレンは再度剣を振る。生じたのはまたも白い衝撃波。それが廊下全体を飲み込みつつ人形達をかっさらう。

 結果、やはり消滅。この調子なら後続の人形も――というところで来なくなった。


「終わったようだな」


 グレンの声。俺は頷きつつなんだか拍子抜け。とはいえ、もし俺が戦っていたら苦戦は免れなかっただろう。


「先へ進もう」


 彼は言う。俺は「はい」と返事をした後歩き始めた。廊下を曲がると壁に横穴が開いており、人形はそこから入ってきたのだと理解できた。

 そして廊下は続き、左に曲がる道が多少遠くにある。加え、その奥で戦闘をしていると思われる音が聞こえた。


 俺は無言のまま足を動かしつつ、後ろを一瞬だけ見る。後方を警戒するフィクハの姿があった。

 場当たりなメンバーだが、敵が出現しても対処はできそう――考えていると正面方向から声がした。そしてそれは間違いなく、


「悲鳴……?」


 グレンが眉をひそめ呟く。俺も同じように聞こえたため、少し歩調を速めた。

 強力な魔物がいるのか……胸中考えながら廊下を進み、


 声が、しなくなった。


「やられた、ということか」


 グレンがどこか確信を持って呟く。彼の言葉通り音が途絶えたなら魔物を倒したか、逆にやられてしまったかのどちらか。悲鳴から考え、やられてしまったと取る方が賢明だろう。

 そこで廊下の角を曲がる。視線の先には広い空間と、奥に廊下が一つ見えた。廊下の方は左右に分かれた道の片側だろう。


 俺はグレンと視線を合わる。彼も目を向け、同時に頷いた後廊下を抜けた。

 そこは二階へ通じる階段があるホール。大人が十人は並んで歩ける大階段に踊り場が一つ。そこから階段は左右に折れ曲がり二階へ到達するようになっている。


 そして床には複数の人が倒れていた。覆面姿もあれば鎧を着た勇者らしき人物もいる。ピクリとも動かないため生死の判断はできず、なおかつ確認するのも難しい。

 なぜか――踊り場に悪魔が一体いて、こちらを見下ろしていたためだ。


「……強いな」


 グレンが言う。確かに取り巻く魔力は土人形とは比ぶべくもない――いや、ライメスで行った争奪戦で戦った悪魔を凌駕するとさえ思った。


「どうする?」


 グレンが問う。俺は悪魔から目を離さないまま思案し――


「俺とグレンさんで悪魔と戦う。他の二人は倒れている人を介抱してくれ」

「わかりました」

「わかった。気をつけてね」


 リミナとフィクハの声が聞こえ、両者が動き出す。その時、悪魔が首を動かし、俺達を値踏みするかのように視線を漂わせ始めた。対する俺とグレンは階下正面で対峙し、剣を構えた。


 大技を仕掛ければ、倒せそうな相手。しかし、新たな剣の力は下手すると倒れている人達にまで余波を及ぼすかもしれない。

 戦いの中で感覚をつかめればいいが……この悪魔との戦いで達成できるかどうかは怪しい。


「……グレンさん、剣を替えたばかりなのであまり力が発揮できませんが」

「そうか。加減が難しいという話か?」

「はい」

「前より強力な剣のようだな……」

「まあ、はい」


 濁して答える。俺は極力言わないつもりだったのだが、グレンは何かを察したのか、


「訳ありのようだな――」


 呟いたのだが、被せるように悪魔の咆哮が響き渡った。


「――わかった。私がどうにか立ち回ろう」

「すいません」

「構わないさ。それに君には、戦ってもらうべき相手もいるからな」


 相手――瞬時にラキのことを言っているのだと把握する。


「剣も強くなったことだし、その役目は君に任そう――」


 告げた瞬間またも悪魔の声。俺達を警戒しているのか踊り場で威嚇しているだけだが、威圧感は相当なものだ。


「行くぞ――」


 グレンが発する。それと同時に、俺達は悪魔へ向け走り始めた。

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