戦う勇者達
俺はまず取り囲もうとしている人形へ横薙ぎを繰り出した。人形達はこちらの動きを察知したようだったが、振り向く間もなく剣が入る。
結果、人形数体が消滅し、その奥で戦っている人物の姿が見え、
「やあっ!」
高い声が響いたかと思うと、人影の手によって近くにいた人形が吹き飛んだ。
どうやら無事のようだ。俺はすかさず視線を送り、相手もまたそれに気付き、
「お、悪いね!」
やたら快活な女性の声が耳に入ると同時に、両脇から人形が襲い掛かってきた。
答える暇も無く俺は剣を振る。右から来た人形を一閃して倒すと、左側はリミナの魔法によって吹き飛ばす。さらに後方からやって来ようとした人形は俺が雷撃を放って倒し、
「やっ!」
女性が近くにいた人形を斬り飛ばした。
俺は相手の姿を確認する。革鎧を身に着け、栗色の髪を綺麗に結い上げアクセントに羽根飾りを着けている。顔立ちはとても剣を振るようには見えない、系統で言うと「可愛い」という単語が似合う小顔で、なおかつ翡翠の瞳を持つ美人。
手に握るのは長剣だが、俺の持つ物と比べ細く、細剣と呼んで差し支えないくらいの物。けれどその刀身は平然と人形を斬り伏せており、魔石か何かが含まれ強度があるのだと察せられた。
次に周囲の状況確認。人形は先ほどの攻防で数を結構減らし、なおかつ新たに出現はしていないのか土がせり上がる様子も無い。
「面倒よね、雑魚だけど数が多いなんてさ」
女性が語る。俺は同意しかねるので油断するなと意見しようとしたが――それより早く、正面から人形が迫る。
「ふっ!」
短い呼吸を発しつつ、俺は一薙ぎ。これでさらに一体消滅。
「やるね、お兄さん」
横から女性の声。もう少し警戒を――彼女へ忠告しようと首を向けた。
そこで、彼女の背後に迫る人形がいるのに気付いた。即座に魔力を込めて剣を振る。雷撃が剣先から放たれ、彼女の横をすり抜け人形に直撃した。
「へ?」
気付いていなかったのか女性は目を丸くし、背後を見る。そこには崩れていく人形の姿。
それを見た彼女は、俺へと首を向け、
「ありがと」
「……油断だけはしないでくれよ」
「了解しました」
仰々しく一礼した女性は、すぐさま剣を構え直し警戒を始める。態度から本気でやっているのかどうか……まあ物分かりもよさそうだし、大丈夫だと思うことにする。
会話をしている間にも、人形は森の奥からぞくぞくと出現する。しかも砦と城壁の間にいた人形も、破壊された壁や門を通りこちらへ近づきつつあった。
中の人に敵がいかないのならばこちらとしては好都合――思いながら、俺はリミナに指示を送る。
「リミナ」
「はい」
「目に見える範囲で頼むよ。森の中には人がいるかもしれないし」
「わかっています」
頷き、詠唱を始めた。その間にも人形が差し迫り、俺は剣を構え相対する。
人形は俺達を取り囲むように進撃してくる。その戦い方に少しイラッとしつつ、雷撃を放った。そして接近した人形は女性が剣を振ることで倒す。出会って間もないが、彼女は俺達に合わせて戦ってくれており、連携ができている。
これなら――断じた瞬間、リミナの声が響いた。
「斬り裂け――竜の旋風!」
声と共に杖を真正面へかざした。すると彼女の杖から扇状に魔力が拡散していくのを、肌で感じ取った。
そして魔法は風の刃。それらが見えていた人形を片っ端から破壊し、魔法が発動し終わった時、人形の姿は影も形も見えなくなった。
「お見事」
横にいる女性が剣を握りながら器用に拍手をする。
やっぱりどこか油断している……少し咎めようかと考えた時、砦の横の茂みから人影が出現するのを認めた。
すかさずそちらへ剣をかざす。女性も気付いたのか首を向け、人影の方もこちらの動向を察したようで、
「また会ったな」
記憶のある声が聞こえた。
反射的に凝視する。その人物は――
「グレンさん!?」
争奪戦で関わった勇者グレンだった。格好は以前と変わらず緋色の胸当てに剣。
「なんだ、あの後二人にも連絡がいったのか」
「連絡……?」
聞き返して――俺はグレンが急用ということで別れた経緯を思い出す。
「用って、これのことだったんですか」
「ああ、そうだ……口上から、そちらは事情が異なるようだな?」
確認の問い。俺は後方を指差しつつ、
「英雄シュウの関わりで」
「――へえ?」
俺の言葉に、今度は女性が反応。
「シュウさんの関わりねえ……」
「知り合い?」
聞き返してみる。すると彼女は深く頷き、
「というか、師匠」
「……は? 師匠?」
「そう、師匠」
頷く彼女。
彼を師事と仰ぐのになぜ剣を使っているのかとか、訊いてみたい気がしたのだが……周囲の状況を鑑みるに、悠長なこともしていられない。
「そうなのか……わかった。で、えっと名前――」
「フィクハ」
「フィクハさん、ね……色々と話したいこともあるけど、とりあえず戦わないと」
「そうだね」
彼女は同意し、一度俺達を一瞥する。
「三人とも、怪我とかない? もしあったら治療してあげるけど」
「治癒魔法が使えるんですか?」
リミナが問う。フィクハは少しばかり胸を張り、
「その辺の技術から勇者になったからね」
そうコメントした。なるほど、勇者というのも色々あるわけだ。
「で、どうするの? まず外周部の敵から倒すのもアリだとは思うけど」
「森の中にいるモンスターや敵は大体倒したと思うが」
応じたのはグレン。その言葉によって、俺を含む三人は彼に視線を注ぐ。
「私は後発組だったので、控えとして森の中にいた。そして、森の中で先ほどの土人形が出現し、それを倒していた。他の場所もおそらく同じだろう」
「森……ということはシュウさんのところも?」
俺はふと言葉に出しつつ、後方に視線を送りそうになった。しかし、
「ミーシャがいるんでしょ? なら大丈夫よ」
横からフィクハが告げた。
「彼女はこの程度じゃやられないし……あ、私もそこの彼と同じように後発組で、敵を倒しつつここに来た。騎士さんにも倒せるくらいのレベルだろうし、ある程度片づけた今ならもう放っておいても大丈夫でしょ」
「……そうかな」
俺はやや言葉を濁しつつ彼らに応じた。同時に二人の説明から、二段構えで砦を攻略しているのだと知る。
イジェトもまた同じような立ち位置なのだろうか……考えつつ、ふと耳を澄ませる。戦闘の音は聞こえない。先ほどの咆哮のようなものについても、聞こえない。
「二人とも、さっき雄叫びみたいなものが聞こえたよな?」
「ああ、モンスターの声だな」
応じたのはグレン。それと共にフィクハも頷く。
「森の奥で気配がしたけど、すぐに消えたから誰かが倒したんでしょ」
「……そうか」
俺は答えつつ、ここからの算段を考える。選択肢は二つ。周囲を見回りモンスターを倒すか、このまま中に入り込み先に潜入した人達と共に戦うか。
ただ、彼らは命令を受けている可能性がある……そこは尋ねておこう。
「今後どうするかの指示はもらってる?」
「特にないな」
その言葉に反応したのはグレン。
「ここからは状況に応じて、だな。私としては砦に入ろうと考えている」
「私も同じ」
フィクハが手を上げる。ならばと、俺は頷いた。
「なら、俺達もそれに従うよ」
言いながら砦を見やる。闇夜に存在する砦はあちこち破壊されており、どこからか戦う音も聞こえる。
前哨戦は終了――といったところだろうか。俺は無意識の内に剣を握りしめ、静かに砦へと進み始めた。