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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
闇組織征伐編

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生み出された魔物

 周囲を警戒しつつ、まずは壊れた城壁から中を覗き込む。建物城壁の間にある空間は土で固められているだけで、特に何かがあるわけではない。

 そして建物の壁が壊され中に侵入した形跡や、入口付近が破壊されているのを確認できた。


「無茶しますね……」


 そんな様子を見てリミナがコメントする。俺は内心同意しつつ、壊れた壁を越えて砦の中に踏み込んだ。


 耳を澄ませると、建物の中から音が聞こえる。反面、外側からの音は皆無に近く、アークシェイド側が外の防衛を捨てているのがわかる。

 この部分だけを見ればこちらが圧倒的に優勢……なのだが、ラキのことが頭に浮かび、不安は一切消えない。


「リミナ、どこから入る?」


 いくつか点在している穴を見て俺は尋ねる。対するリミナは城の外周部をぐるりと見回し、


「そうですね、まずは――」


 言い掛けたところで、後方から気配。俺とリミナは同時に振り返り、相手をすかさず確認する。


「あ、お前は……」


 相手から声がした。

 見覚えがあった。というか、目の前の相手は――


「えっと、イジェトさん?」


 ルールクの店で遭遇した、イジェトという勇者。茶髪に革製の鎧。うん、数日前と姿は変わっていない。


「そうか、お前も参戦したのか」


 そう呟いたと同時に――イジェトは俺の握る剣を見据えた。


「なら、ここで」

「おいおい、ちょっと待ってくれ」


 すかさず俺は手で彼を制す。


「言っておくけど、そんなことをやっている暇は――」


 口に出した瞬間、イジェトの遥か後方、森の奥で何やら人影が見えた。まだ見張りの人間が残っている。

 俺がそちらを凝視した時、向かい合っていたイジェトも気付いたらしい。すぐさま振り返り、


「敵か」


 呟いた瞬間、握っていた剣を振った。

 直後、俺の耳には風を切る音。さらに魔力が彼の剣から流れ、一筋の刃が人影へ駆け抜け、


 敵に、直撃した。


「やれやれ、張り合いがないな」


 イジェトは緊迫感もなく肩をすくめる。


「魔族と協力関係にある組織だったから、結構気合を入れて馳せ参じてみたが……拍子抜けもいいところだ」

「油断は禁物じゃないか?」


 思わず意見する。が、イジェトは態度を変えぬまま俺の横を通り過ぎた。


「早く来ないと、出番がなくなるぞ」


 言い捨てて、彼は砦へと侵入した。


「……やれやれ」


 そんな光景を見て、俺はため息混じりに呟く。


「競争じゃないんだから……」

「大半の勇者にとっては、功を得ることができる機会なので逸っているのでしょう」

「大丈夫なのか……? こんな状態で」

「良くはないと思います。今はこちらが押しているので問題は表面化していませんが……」


 そこまでリミナが答えた時、森の奥から獣の雄叫びのような音が聞こえてきた。

 俺達は即座に辺りを見回す。どうやら森の中にモンスターがいたようだが――


「……え?」


 同時に、あることに気付いた。砦の外周部にある地面の所々で、土が隆起し始めている。


「っ……!?」


 唐突な変化に俺が驚き、それらを凝視しようとした時、


「光よ!」


 突如リミナが杖の先から光弾が放たれ、せり上がりそうになった地面の一つを吹き飛ばした。

 土砂がめくれあがり破砕する。何かが生じる前に先制した形のようだが……同じような光景が至る所で発生している。数が多すぎるため、全てを破壊することはできなさそうだ。


「退路を防ぐ気ですか」


 リミナが発言。俺はそれを聞きながら砦の外、破壊された扉から森を眺める。同じように土がせり上がり、形を成そうとする姿が見えた。


「先にこちらを倒した方がよさそうだな」

「ですね」


 リミナも同意。俺はすかさず刀身に魔力を込め、剣を振った。生み出したのは雷撃で、それがまっすぐ土へと迫る。

 直撃すると、あっさりと崩れ去った。これなら――と思ったのだが数がどんどん増していく。破壊するより出現する方が圧倒的に早い。


「勇者様、一度建物の中へ」


 リミナが言う。俺は頷きつつ足を動かそうとして、そこでようやく土が形を成した。

 人間の姿をした、土人形――頭部は目も口も鼻もないが、手先についてはきちんと指が存在している。結構長身かつ細身の形状をしており、さらに腹部辺りから魔力を感じ取ることができた。


「弱点は、腹部ですね」


 リミナが言う。俺は「そうだな」と答えつつ砦の中へ移動しようとした。

 けれど、ふと視線を巡らせた時――破壊された扉の奥、森側から人影が現れた。またモンスターか、などと考えたのだが、剣を握っていることに気付いた瞬間、足が止まる。


「勇者様?」


 停止したリミナは俺に呼び掛け……そこで目線に気付いたか森の方角を見た。


「あれは……」

 彼女が呟いたと同時に、周辺にいた人形が動き出した。それらは左右から押し寄せ、俺達を取り囲みつつ襲い掛かる。

 俺は森近くにいる人物を気にしつつ、人形と交戦に入った。刀身に魔力を込め、まずは一振り。迫りくる人形複数体に刃が直撃し、見事粉砕した。


「数は多いがこれなら――」


 どうにかなると思った矢先、横から来た人形が拳を放った。俺は即座に回避したのだが、横にいるリミナは人形の動きに後退する。


「くっ!」


 さらに放たれた拳を杖でかろうじて防ぐ。身体能力は結構ある――思いながらリミナのカバーに入り、人形を打ち倒した。


「す、すいません」

「いや、大丈夫」


 答えながらさらに近付く人形を斬る。一体の力は弱く、魔力を込めた俺の剣なら楽勝。しかし、数が多く体術を駆使するとなると、リミナのように魔法使いには厄介だ。

 ただ砦の中に入ってしまえば囲まれる危険性が少なくなるので今よりは安全になる。ひとまず退避し迎え撃つような形で敵と――そこまで考えた所で、森から出現した人影が剣を振り、人形と戦う様子が見えた。


 直後、迷う。その人物の援護に行った方がいいのか、それともこの場で戦っていた方がいいのか――


 考える間にも人形が迫る。俺はそれらを斬り払いつつ砦の外側にいる人物を注視する。

 人形を倒すことはできている。しかし外に出現した人形はかなり多く、倒す間に数がどんどん増えていっている。このままでは包囲され、やられてしまうかもしれない。


「リミナ」


 そこで俺は隣にいるリミナへ呼び掛ける。彼女は魔法で近くにいた人形を吹き飛ばしているところだった。


「このままここで戦うか、あの人の援護に向かうか――」


 尋ねようとしたところで、またも人形が近づく。俺は多少苛立ちながらそれを斬ると、周囲の数がずいぶん少なくなっているのに気付いた。


「勇者様」


 そしてリミナの声。俺は彼女の言葉を待つ。


「退路を確保する、というのも一つの手では」

「……かもしれないな」


 俺は同意しながら残っていた人形を斬り伏せる。これで残る人形は全て距離のあるものだけとなる。


 すぐにでも戦っている人物の援護に行きたいが……入口付近を放置した場合内部に侵入するのは目に見えている。今だって破壊した壁なんかから入り込んでいるとは思うのだが、その数が増すとなると、内部で戦っている騎士や勇者が危なくなる可能性も――


 考えている間に、一人で戦う正面の人物に人形が殺到し始める。時間がない。


「――勇者様!」


 リミナの声。それと同時に俺は決断し、叫んだ。


「行くぞ!」

「……はい!」


 彼女の答えを聞いた瞬間、俺は弾かれたように戦っている人物へと駆け出した。

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