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その剣の力

 リミナの明かりを一度消して、できるだけ音を立てないように進んでいく。その間も森の奥から何やら声が聞こえ、アークシェイド側が多少なりとも混乱しているのが窺えた。


「……見えてきましたね」


 そんな中リミナが声を上げる。俺は小さく頷き前方を見据えた。

 木々の間から城壁らしき灰色の壁と、結構な高さを持った砦が見え始めていた。


「あれを魔法によって隠していたということか……」


 所々明かりが漏れる砦は闇夜の中で存在感を放っている。城壁と思しき場所の近くからは喚声めいた声が聞こえ、足音なんかも耳に入る。


「警戒、しているようですね」


 リミナが言う。そこで俺はこれからどう動くか思案し始めた。

 現状、混乱しているのは間違いない。これに乗じ一気に攻め立てる、という方法もありえるのだが、単独で仕掛けるのは自殺行為だろう。


「えっと、確かシュウさんの説明だと……」


 今日の移動中、馬車で説明を受けたことを思い出す。


 他の面々と合流できるならばそうした方がいいというのがシュウの見解……なのだが、勇者の中には先んじて戦う人間も出てくるだろうということで、流れに沿って動くべきだというのが最終結論だった。

 結界を構築し逃げられないようした上で包囲まではいいのだが、ここからは統制の取りにくい勇者の出番であるため、城側の人も策を立てるのが難しかったらしい。こう考えるとずいぶんと穴だらけの作戦に思えるのだが、様々な国に潜伏している間者のことを考えると、ロクに伝達できなかったという面があるのだろう。


「勇者様、ひとまず砦に近寄り状況を確認しましょう」


 リミナの意見。俺は「そうだな」と頷きつつ歩を進めようとした。

 その時、ふとラキのことが頭によぎる。


「……そういえば、シュウさんは何も言っていなかったけど」

「はい?」

「敵って、転移魔法使えるんじゃないのか? ラキやエンスは普通に使っていたけど」

「……脱出用の転移魔法くらいは用意しているでしょう。けれど、現状無効化されているはずです」

「どうして?」

「シュウさんが結界を張ったためです。魔力を隔てて外界から遮断している場合は、基本的に転移魔法は使えないので……」

「争奪戦の時はラキはあっさり逃げたけど……」

「物理的に遮断されていても、魔力の隙間があれば転移できます。今回はシュウさんの魔法により完全密閉されているはずなので、大丈夫です」


 リミナは杖を握り直し、前方を警戒しながらなおも語る。


「ただ……彼はかなりの力量を持っているようですから、何か手立てがあるかもしれませんが」


 不安は隠せないのかリミナは言った。

 その時、前方から爆発音。見ると夜空に黒い筋が生まれているのがわかった。


「誰かが動き出したみたいだな」


 呟いた瞬間、まるで図っていたかのように断続的に怒号が聞こえ始める。


「よし、俺達も――」


 言ったところで横手から気配。素早く体を向けると黒装束かつ長剣を握る人物が駆ける姿があった。

 俺はすかさず相対するように走り出す。そして魔力を込め――癖によっていつもの感覚で魔力を込めたため、予想以上に刀身に力が入った。


「っ……!」


 それに少しばかり驚きつつ、相手が放った斬撃を正面から受ける。

 これを押し返し反撃に出る――そう思ったのはほんの一瞬だった。


 剣が触れた直後、驚くべきことに衝突した相手の剣が俺の剣に食い込んだ。相手は構わず振り下ろし――俺の剣に耐え切れなかった敵の剣が、刀身の半ばから両断した。


「……っ!?」


 これには相手も驚いたのだろう、目を見開き動きが止まる。その隙を俺は逃さず魔力の入れ方を変え、相手に一閃した。

 結果、斬撃を受け相手は倒れ伏す。俺は気絶しているのを確かめた後、改めて自分の剣を見た。


「け、結構強力だな……」

「結構どころか、凄まじい威力ですけど……」


 後方で戦いを眺めていたリミナが口を挟む。


「相手の剣は魔力など存在していなかったようですが、前の剣では刀身に亀裂を入れるくらいしかできなかったはずです」

「……まあ、英雄が魔王と戦った時の剣なのだから、このぐらいは当然かもしれないけど……」


 俺は答えながら剣を軽く振った。刀身から僅かに魔力が漏れ、改めて剣の強さを認識する。しかもこれはブレスレットを身に着けている状態……本気になればどれほど威力が上がるのか。

 ただ、今回の相手は人間なので上手く加減しないと真っ二つになってしまう――そういえばこの世界に来てまだ人を殺めたことがない。その辺も、覚悟しないといけないだろう。


「戦いになれば、そんなこと考える余裕もなくなるかもしれないけど……」

「何か言いましたか?」


 リミナが尋ねる。俺は「何でもない」と答えた後、前方を指差した。


「ひとまずリミナの言う通り、砦に近寄り状況を確認しよう」

「はい」


 彼女が答えた時、またも爆発音が轟いた。明らかにどこかで戦っているのだが……音が反響して場所まで上手く特定できない。

 ひとまず先に――心の中で断じつつ森の中を進む。少しずつ砦が近くなり、金属音のような音も聞こえ始めた。


「結構な人数、戦っているのかもしれませんね」


 リミナの声。俺は彼女を一瞥すると、


「結構な人数?」

「騎士や勇者が中心となって戦う……とはいえ、この規模の砦を陥落させるには、少数では難しいでしょう。私はシュウさんの話から戦う人数を過小に推測していたのですが……やはり国が動くとなると、それなりの数なのかもしれません」


 彼女が語る間に、いよいよ森が途切れ開けた場所に近づく。俺達はその寸前で茂みに隠れ、まずは周囲を観察した。


 俺達の真正面には両開きの鉄門が一つ。壁面と同様の無骨な色合いをしたもので、侵入者の進路を阻んでいたはずなのだが……一部分が魔法か何かで破壊され、役目を全うできなくなっていた。

 さらに横手の壁も破壊されており、中を僅かに覗きこむこともできた。


「先行している人が結構いるみたいだな」

「の、ようですね」


 リミナが応じる。俺はさらに視線を巡らせ、今度は地面に倒れている人がいるのを見つけた。

 おそらく見張りをしていた人なのだろう。やはり覆面に黒装束という出で立ちであり、人数としては四人。その中二人の地面には、黒い染みが生まれていた。これはおそらく――


「シュウさんの言っていたことは一種の建前かもしれません。戦いであるが故、不可抗力という部分もあるでしょう」


 リミナが言った。

 魔法使いなどにより麻痺させて捕縛。そしてアークシェイドについて聞き出す――とはいえ、全部というわけではないだろう。リミナの言う通りシュウの言葉は建前で、そうした事例はむしろ少数かもしれないし、戦闘となればそんな余裕がないかもしれない。


 これは人同士の戦いである以上、血を見るのは間違いなく、実際そうした光景が広がっている。

 倒れている人達を見て、俺はゴクリと唾を飲み込む。けれど、それほど衝撃はなかった。この世界に来て色々と見てきた結果か、それとも勇者レンの記憶が大したことじゃないと俺に伝えているのか――


「勇者様」


 そこへリミナの声。俺の態度に気付いたのだろう。


「大丈夫、ですか?」

「ああ、平気だよ」


 頷き、改めてリミナに話す。


「前伝えたと思うけど、俺は別世界の住人で、こうした光景も見ることがなかった……けど、勇者レンの経験が衝撃を緩和してくれているらしい」

「そうですか」


 リミナは答えると、一度周囲を見回した後俺へと告げた。


「周囲に気配はありません。中へ、進みましょう」

「……ああ」


 頷き、俺は茂みから出る。そしてリミナと共に、ゆっくりと砦へ進み始めた。

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