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英雄と魔王

 街を出て静かになった時、リミナが声を発した。


「まず、英雄と呼ばれるようになったことから話を始めましょうか」


 提案した彼女に、俺は小さく頷き言葉を待つ。


「まずこの世界に魔王が襲来した――唐突かもしれませんが、これが戦いの始まりとなります。本来魔王やその眷族は魔界と呼ばれる異世界に住んでおり……私達の世界にやってきた理由なども、諸説ありますがわからないままです」


 そう言ってリミナは地面に視線を送る。


「魔族が人々を脅かしたことはありましたが……魔王という存在が侵攻を開始したのは、初となります」

「……それ、戦えたのか?」

「最初の戦いで人間側は、魔王の圧倒的な力の前に大敗北したそうです。元々力の差があるので当然と言えるのですが……」


 と、リミナは次に天を仰ぐ。


「さらに魔物が大陸を蹂躙するようになり……やがて魔王の目的が認知されていきます。武力による抵抗を示さなければ、人間達は対価を支払い生き延びることができる……つまり、王侯貴族に取って代わる、魔王による人間の支配です」

「王になり替わろうとしていたのか」

「はい。無論、その対価はかなり重いものであり、魔王に従っていても対価を支払えず滅んだ村や街も数多くありました。まだそれほど年月が経っていないので知っている人も非常に多いですが……あの時はまさしく暗黒時代だったそうです」

「暗黒……か」


 俺は呟きつつ、魔王という存在を考えてみる。

 魔王は突然、人間を支配しようと動き出した――人間に対し恨みを持ったのか、それとも何らかの理由があったのか……ともかく、魔王は人間を支配しようと画策した。


「そうした中、魔王や魔族と戦う人物の姿も見られ……人々は勇者や英雄と呼ぶようになりました」


 なおも語るリミナ。今度は街道をまっすぐ見つめ、話を続ける。


「現在では、英雄アレスを始めとした魔王を討伐した四人が取りざたされますが、それ以外にも魔族と戦い名を馳せた人物が数多くいました。有名なところでは数多のモンスターを倒し一国を救ったとされる魔法使いフロディアや、様々な国を転戦し魔族を倒し続けた戦士ナーゲンなどが有名です」

「そうなのか……で、その中で特筆すべき人達が、英雄アレス?」

「まさしく」


 リミナは俺を一瞥した後、深く頷いた。


「暗黒時代の中、色んな人が魔族やモンスターと戦い、やがて英雄アレスが登場しました。無論、登場した当初は数多くいる勇者の一人でしたが、やがて魔族の中でも幹部クラスを倒し始めると、一躍有名となりました」

「仲間達とは、そうした中で出会った?」

「はい。英雄リデスとザンウィスは戦いの中でアレスと出会い……英雄シュウは、彼らが噂を聞きつけ協力を取り付けたそうです」


 と、リミナは少しばかり目を輝かせて話を続ける。


「その時、英雄ザンウィスを除いた面々はまだ十代だったそうで……なんというか、才覚というものを感じさせる話ですね」

「才覚、か」


 後になってみればその一言で済まされることなのかもしれないが……当時はどうだったのだろうか。


「若いから才覚があるって表現するのもなぁ……アレスだって小さい頃から剣を学んでいたかもしれないし」

「……そう言われてしまうと」


 リミナは困ったように返答し――少しして、思い出したかのように告げた。


「あ、でも英雄シュウは当時の人達からも別格扱いされていたそうです」

「別格?」

「はい。当時の時点で魔法使いの中で彼の名を知らない人はいなかったようですし、研究分野や実戦的な分野でも最高峰を突き進んでいたようです」


 と、リミナは自分のことであるように嬉々として語る。


「現在もそれは衰えることなく、未だに魔法関係の学者からは称賛の嵐です」

「功績を出し続けているのか……ちなみに、今も精力的に活動しているのはその人だけ?」

「そうですね。英雄アレスは魔王を討伐した後表舞台に姿を現さなくなりました。ただルールクさんの話から、剣を教えていたようなので、もしかすると後継者を育成していたのかもしれません」

「後継者、ねぇ……」


 俺は自分の手や体を見つつ呟く。リミナの定義でいくと、剣を学んでいた俺も後継者云々に該当するのだが。


「英雄アレスから教わった人は俺以外にもいたみたいだけど……」

「もしかすると今後、会うかもしれませんよ」


 にこやかにリミナは言う。俺は「そうだな」と答えラキのことを思い出しつつも、話を進める。


「魔王との戦いの後、英雄リデスについてはどうなったんだ?」

「ルールクさんも仰っていましたが、旅をしていたようで各地で目撃情報がありますね。ただ、戦いがあってもご本人が前線に立つようなケースは皆無に近かったようです。魔王との戦いで負傷し、思うように剣が振れなくなったから……そういう風に言われています」

「なるほど、怪我か」


 功績がない以上何かしらあるのかもしれない。そして残る英雄ザンウィスは――訊くまでもないので、今度は英雄シュウについて詳しく尋ねようかと口を開く。


「なら英雄シュウについてだけど……」


 そこまで言って、リミナがよくぞ聞いてくれましたとばかりに、嬉しそうな表情をしているのに気付いた。


「えっと……?」

「英雄シュウに関する話ですねっ」


 なんだか鼻息も荒い――その態度から窺い知れるのは、話せば止まらないかもしれないということ。


「いや、やっぱいいよ」


 なので、俺は拒否した。結果リミナの顔が少しだけ膨れる。


「なぜですか?」


 そして俺に問い掛ける。明らかに話し足りないという雰囲気……これは別の話題に持っていかないとまずいと悟る。


「えっと、他に訊きたいことがあるから」

「何ですか?」

「……魔王についてとか」


 咄嗟に浮かんだ言葉を吐き出して――そこを訊いていなかったのを思い出す。


「魔王、ですか」


 するとリミナは口元に手をやり、


「英雄達もそこについては詳しく語ろうとしません。彼らの主張としては、魔王の詳細を教えることで、そうした力を備えた存在を誰かが生み出す可能性があるから……とのことです」

「詳細については秘密にしているわけか」


 なるほど。まあアークシェイドなどという魔族と協力関係を結ぶ組織があるくらいだから、人間側にも魔王の信奉者くらいはいるだろう。そうした人達が魔王の詳細を理解すれば、魔王復活などということをしでかしてもおかしくない。だからこそ、公にしていないのかもしれない。


 と、そこまで考えてふいに疑問がわく。


「あ、でもさ……その時の戦いを知っている人達は多くいるわけだから、魔王の姿形を知っている人だっているんじゃないのか?」

「魔王の姿は常に流動的で、出現するたびに姿を変えていたそうです。ある時は人間のような姿。ある時は狼のような形……その中で英雄達は魔王に立ち向かい、真実の姿を見たと言われています」

「そうなのか……」


 結局、彼らだけの秘密ということか。英雄ザンウィスは亡くなってしまったので、知る者は現在三人ということになる。


「その辺りも、英雄シュウに訊くだけ訊いてみましょうか。話してくれないと思いますが」

「そうだな」


 俺は頷き、前を見る。街道はどこまで続き、次の宿場町もまだまだ先のようだった。

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