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英雄の剣と次の目的地

 俺の剣によって後退を余儀なくされたイジェトは、顔を驚愕に変えつつも反撃に移ろうという構えを見せる。

 そこへ、俺の追撃が放たれた。イジェトはそれをさらに後方に移動して回避するが、焦ったためか転びそうになる。


「っ……!」


 体勢を大きく崩したイジェト。そこへ再び俺の剣。彼は無理な姿勢となりつつも剣で防いだが、


「うおっ……!」


 結果、衝撃で片足が地面を離れ、大きく傾いた。

 次の瞬間彼は地面に倒れ――俺は周囲の声を耳にした。


 最高潮の歓声。勝負が決したことによる声が、辺りを埋め尽くすほどに発生する。

 同時に俺は、倒れたイジェトへ剣の先を突き付けた。


「俺の勝ちだな」


 告げたが、相手は黙したまま。そこで視線をルールクへ向けると、納得した様子でうんうんと頷き俺達へ近寄る。


「というわけだイジェト。文句は無いな?」

「……わかったよ」


 心底不服そうな言葉であったが、彼の口からしっかりと発せられた。

 そしてイジェトは立ち上がり、背中についた土や埃を払うと、


「次会った時、リベンジだ」


 そう言い残し、彼はそそくさと退場していった。


「……強情だな、あいつも」


 ルールクがそうコメントする間に、周囲の歓声も治まりそれぞれが踵を返し始める。その中で俺は、去っていくイジェトの後姿を見えなくなるまで凝視し続けた。






「いやあ、災難だったな」


 場所は戻りルールクの店。彼は笑いながら俺に語り、小さく肩をすくめた。


「前々から好戦的だと思っていたが、今回それが実証されたな」

「……はあ」


 俺は生返事を返す。


 というか根本はルールクがイジェトへ挑発的に言ったことが始まりのような気が……いや、欲しがっていた剣を俺が握った時点でこうなることは確定だったのかもしれない。

 どちらにせよ、なぜこのタイミングで彼が来てしまったのか。勇者レンはこういう星の下に生まれているのだろうか。もしそうだとしたら、俺に変わったことで打ち止めにしてもらいたいんだが。


「で、改めてレンにその剣を売ろう」


 そこへルールクの声。俺は「ああ」と答え気を取り直し、交渉を開始した。

 カウンターに置かれた剣を見つつ、とりあえず値段を訊いてみる。


「この剣はいくらですか?」

「金貨三枚」

「は!?」


 俺は額に驚愕する――高いというわけではない。むしろ安すぎる。


 リミナから事前に言われていた額は少なくとも金貨五枚。高い物となると金貨十枚とか、それ以上の額になると聞いていた。

 なので、俺はここへ向かう途中荷物なんかを色々調べ、予算的に大丈夫かを確認していた。結果、使っていない魔法の道具なんかもあったので、諸々売れば金貨十枚くらいなら捻出できるとわかった――いや、ブレスレットを売り払えばもっといけるので、最悪その線も考慮していた。


 しかし金貨三枚……俺の身につけるブレスレットが金貨三十枚。その十分の一で英雄の剣を買えるとしたら、破格どころの騒ぎではない。


「や、安すぎませんか?」


 同じことをリミナも思ったようで、少しばかりうろたえる。それに対しルールクは、


「そのくらいの値段でと、リデス本人が言っていたからな」


 あっさりとそう答えた。


「元々この剣は、リデスが持ってきた魔石を剣に含ませて作っただけで、俺としては元手がかかってないんだよ。だからリデスが使っていたというお墨付きはあるが、どんな魔石を使ったとか不明なわけで、値がつかない。よってリデスの言葉に従い値段を手ごろなものにして、渡せる人物を探していたんだ」


 だからといって金貨三枚は安すぎるだろうと思うのだが――もういいか。ここで議論しても始まらない。


「わかりました」


 俺は承諾し、金貨三枚を支払う。ルールクはそれにより「どうも」と告げ、


「大切にしてやってくれ」

「……はい」


 言われなくとも、と思いつつ俺は剣を手に取り腰に差した。

 同時に、これまで差していた折れた剣を思い出す。


「あ、そういえば……使っていた剣ですけど」

「ん? ああ、これはそうだな……ちょっと試してみたいこともあるし、もらっていいか?」

「試したいこと?」

「新しい素材や手法を試す時、折れた剣を使うんだよ。運が良ければまた使えるようになって、店の品に並ぶ」


 開発ということか。俺は「わかりました」と告げ、剣を渡すことにした。






「それでは」

「ああ。元気でな」


 そういうやり取りを交わした後、俺達は店を出る。外は喧騒がピタリとなくなり、店へ入る前の様相を取り戻していた。


「……なんか、良かったのかな」

「私もそう思います……」


 隣のリミナは、俺の剣に視線を送りながら応じた。


「英雄リデスの剣……なんというか、緊張しますね」

「何でリミナが緊張するんだよ……使う俺の方がよっぽどビクビクしてるよ」


 言いつつ、俺は剣を見て肩を震わせた。

 先ほどの騒動では考えが頭に回らなかったのだが、改めて英雄の剣だと思うと、本当に使っていいのか疑ってしまう。


「壊さないよう気をつけましょう」

「そうだな」


 リミナの言葉に同意し、改めて歩き出した。ちなみに現在、俺は荷物を空いたストレージカードに入れているので、手ぶらだったりする。


「で……これからどうしようか」

「剣も手に入りましたし、用はなくなりましたね」

「じゃあ……英雄シュウの屋敷に行くか?」


 問いに、リミナはちょっと嬉しそうに頷いた。


 ――ルールクの店に来る前までは行くにしても観光気分の方が強かった。けれど、今は明確に訪れる理由がある。

 あの日本語の文字――あれをシュウ本人に確かめなければならない。


「南に行くって言っていたよな……」

「その辺りはもう少し調べないといけませんね。まずは情報収集からです」

「ここでやるか?」


 リミナの提言に質問したが、彼女は首を左右に振る。


「南への街道を進んでいれば宿場町に辿り着くと思います。そこで聞き込みした方がわかりやすいでしょう」

「それもそうか。こんな大都市じゃあ、知っている人に遭遇するのも一苦労だろうし……で、今から出発?」

「はい」


 頷くリミナ。まあ時間的には昼も回っていないし、当然だろう。


「観光とかしますか?」


 リミナは俺に尋ねる。一瞬首を縦に振ろうかと思ったのだが……先ほどの勇者といい、こんな場所で歩き回っていたら、因縁をつけられるような気もする。


「いや、いいよ。行こう」

「はい、ではあちらに」


 と、彼女は一方向を指差す。方角なんかはわかっているようだ。


「わかった……あ、それと」

「はい?」

「道中に、英雄シュウの話とかを聞いておきたいな。俺は何一つ知らないし」


 粗相のないようにしておく必要はあるだろう。なので、英雄の詳細くらいは知っておくべきだ。


「いいですよ。道すがらお話します」


 リミナは即座に承諾。俺は「頼む」とだけ告げて、歩を進める。

 やがて彼女の案内に従い街の大通りへと戻る。相変わらずの喧騒に、俺は来た当初と同様辟易する。


 ……よくよく考えると、こんなことを思っているならさっさと出た方が良いだろう。なんというか、精神衛生上悪い。


「あちらです」


 歓声に負けじとリミナが言う。俺は頷き、隣同士で通りを進む。

 途中、なんとなく腰に差している剣のことが気になった。見た目はごくごく普通の剣だが、英雄リデスの剣である再認識すると、盗られないかとか心配になる。


「……と、いかんいかん」


 頭を振る。少しばかり神経質になっている。鞘に入っている以上、魔力が気付かれる可能性はないはず……ない、はず。


「……しばらくは、こんな状況が続きそうだな」


 そんな予言をしつつ、俺達は街を出ることとなった。

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