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垣間見える英雄の過去

 店へと戻った俺達は、ルールクに従い新たな剣を選ぶことにしたのだが――


「うーん、どれがいいか迷うな」


 彼はカウンターにめぼしい物をいくつか置き、俺へ示すように話し始めた。


「お、そうだ。レン、魔力の総量とかわかるか? ほら、色で判別する道具とかあるだろ? 使ったことないか?」

「前計測した時、白銀でしたけど」

「白銀!? そうか、となるともっと強い奴を……」


 ブツブツ言いながらルールクは、近くの壁に飾られている剣を手に取る。

 俺は彼の動きを目で追いつつ、改めて店内を見回す。全ての武器に魔力が備わっているのがわかり、むしろこれが普通なのかと思ってしまうのだが――


「いえ、魔石を剣に入れることができる職人は、少ないです」


 質問したリミナからそういう返答が来たので、珍しいのだとわかる。


「この街でこんなことできるのは、俺を含めて三人くらいしかいないな」


 会話が聞こえていたのか、剣を手に取りながらルールクは言った。


「昔はもっと多くいたんだが、日常使うような包丁とかは、魔石なんかあっても無駄に高価なだけだから需要がない。だから俺みたいな鍛冶師は基本、モンスターや魔族と戦う人物専門なわけだ。魔王を倒したこの時代に、合っていないと言える」

「平和な今の世の中では、求める人が少ないというわけですか」

「そういうことだ。ま、モンスターが平原にいる以上、ゼロにはならないと思うが」


 そう言いつつ、ルールクはまた別の剣を持ってくる。これでカウンターに置かれた剣は五本目だ。


「英雄達も、ルールクさんに剣を求めに?」


 俺はなんとなく、世間話の体で問い掛けた。すると、


「ここで武器を買ってたのは、リデスの奴だけだな」


 そういう言葉が返ってきた。


「あいつと俺は古馴染みでな。俺が初めて作った剣もあいつにやったりしていた仲なんだよ。ちなみにその剣は試し切りの段階であっさり折れちまったけどな。ま、モンスターを倒したいというあいつの願いから俺も必死に勉強して、剣をやり続けたわけだ」

「その結果が、魔王撃破というわけですね」

「とどめ刺したのはアレスらしいけどな……まあ、間接的な形でも歴史の一部に入り込めたというのは、誇ってもいいのかもしれんな」


 ルールクはどこか嬉しそうに語る。まあ、当然か。


「他の英雄達にも会ったことはあるぞ。最終決戦の前に、リデスがここにやって来て剣を見に来たからな。その時腰に差していた剣を見たら相当ボロボロだったよ。話によると、かなり強力なモンスターとやりあったらしい」


 話すルールクに対し、俺達はじっと聞き入る。その様子に気付いたか、彼は苦笑した。


「俺が語れることはそう多くないぞ? 他にはここに来た縁でアレスとも話すようになったところか。他の英雄は……魔法使いだからな。ここに来るようなこともなかった」

「英雄シュウは、この国にいると聞き及んでいますが」

「来たことはないな。俺が顔を見たのも、さっき言った時以来だ」


 俺の質問にルールクはそう答えた。


 魔法使いである以上、訪れる理由もないのだろう。俺は「そうですか」と答えつつ、さらに訊きたくなったので質問を重ねた。


「英雄アレスもここに剣を?」

「魔王と戦っている時は……ほら、有名な緑色の鞘の剣を使っていたからな。ここで買うようなこともなかったよ」

「あれは別の場所で作られた剣ってことですか?」

「鞘越しに確認したが、魔石を含んでいる気配は無かったな。きっと、神様とかが作った剣なんじゃないか?」


 伝説の剣、といったところだろうか。


「で、戦いが終わってその剣は使わなくなったらしく、俺の所に剣を買いに来た。その時は一人だったな。で、剣を教えているらしかったから、人が来るかもしれんと言い残していった。実際、レン以外にも紹介状を携えて来た人間がいたな」

「へえ……」


 ならば同じように剣を学んだ人物と遭遇するかもしれないのか――と、思ったところでラキの顔が頭に浮かんだ。

 勇者レンと親友だった彼もまた、英雄アレスの教えを受けたのだろうか……そんな風に思った時、


「あの、一つお尋ねしたいのですが」


 リミナが小さく手を上げながら口を開いた。


「最近、英雄アレスがここを訪れたことは?」

「無いな。剣のメンテナンスのためリデスだけがたまに来る程度だ」

「そうですか」

「ま、死ぬような人間ではないし、旅でもしているだろ……と、そうだ」


 そこでルールクは思い出したかのように手を打つと、


「ちょっと待っていてくれ」


 言って、奥へと引っ込んだ。俺とリミナは唐突な言動に面食らい、じっとその場に佇みルールクを待つ。

 そして戻ってきた時、彼は額のような物を運んできた。


「これこれ。英雄云々で見せるべきだろう」


 そう言って彼は剣をどけつつ、額をカウンターの上に山積みした。

 数は四つで、賞状なんかを飾るような額と比べ、半分くらいの大きさ。俺は眉をひそめ、彼に問い掛ける。


「これは?」

「英雄が四人来た時、決意とかを記してもらったんだよ。人が来たら宣伝になるかと思ってさ」


 サインみたいなものだろうか。商魂たくましいと思いつつ、一番上の額を見る。中には紙が一枚入っており、


『世界を、必ず救う』


 相変わらず見たことも無い文字――けれど頭で理解できる文言が記されており、端の方にアレスの名前が書かれていた。


「責任感が強いと、リデスはずっと言っていたな。それが言葉にも現れている」


 額に視線を送る俺に、ルールクは告げる。


「仲間を含め、命を大切にする人間だとも言っていたよ。そういう人物だからこそ、ああして人々の支持を受け、魔王を倒すことができたんだと思うよ。ただ、彼自身は神格化されてちょっと迷惑そうだったが」

「そうなんですか」


 英雄なりの苦悩だろうか……考えつつ、額を手に取ろうとした。

 その時、リミナが寄って来る。俺が手を止めると彼女は額をそれぞれ確認し、その内二つを掴み引き寄せた。


「英雄ザンウィスと、シュウの決意ですか」


 魔法使い二人の物を手に取ったらしい。


「ああ、そうだ。一枚ずつ書いたものを額に収め、店内に飾ろうとしたんだが……盗まれるのも嫌だと思って、普段は家の方にしまってある。現在は、知り合いくらいにしか見せないな」


 どうもこれらは、本来の目的を果たしてはいないようだ。


「……で、何ですか、これ?」


 唐突にリミナが首を傾げる。その反応はルールクも予想していたようで、


「ああ、英雄シュウの奴だろ? 俺も最初は何だこれと思ったさ」


 笑いながら語る。リミナはそれをじっと見て、


「絵、ですか? これ?」

「文字らしいぞ。異国の文字」


 訝しげなリミナの言葉にルールクは答えた。

 俺はちょっと興味が出て彼女の横からそれを覗きこむ。そして――


「……え?」


 呻き、絶句した。


「勇者様?」

「どうした?」


 二人は問う。けれど、答えられなかった。


『勇気をずっと胸に』


 そう書かれていた。けれど、内容に驚いたわけではなかった。

 半ば無意識に唾を飲み込む。同時に俺は、英雄シュウに強い興味を抱く。


 あるはずがないと思う。しかし、俺が見間違えるはずがないとも思う。


 それは――それは紛れもなく、日本語で書かれたものだった。

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