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シフト  作者: 鳩梨
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ぱにっく

「あの、会長……。なにしてんスか?」

 パシャパシャッ! シュバッと移動して再びパシャパシャッ。ジャンプして床を転がり低い位置からパシャパシャッ。シュタッと立ち上がりパシャッ、机に登って高い位置からパシャパシャパシャッ。

 そんな風に部屋の中を忙しく縦横無尽に飛び跳ね転げまわっている会長。さすがに無視できないので声をかけてみるが、熱中しすぎて気がついていない。ああ、すっげぇ活き活きしてる。なんて眩しい笑顔なんだ。

 オールバックにキレイにまとめた髪が振り乱れ、ゴルゴンのような髪型になってしまっている。いちいちオーバーアクションなのでスカートは先ほどからバッサバッサと捲れまくっていた。まぁ、それでもなんでか下着はギリッギリで見えていないけど。

 どーしたもんかな、と頭をかきながら考える。

 ま、どーしたもこーしたも無いんだけど。

 とりあえず、夏場の蚊よりもはるかに鬱陶しい全校生徒代表職のメガネを止めよう。

「ちょっと会長」

 シュバッ、パシャパシャッ。

「会長ってば」

 クルッ、スタッ、パシャシャ。

「おいこらメガネ」

 ズサー、パシャッパシャッ。

 どうやら、自然に止まるまで待つしかないようだった。

 仕方ないので、あたしは“蚊”を気にしないよう努力しつつ、モミジちゃんに話し掛けることにした。

 訊きたいこともあるし。

「おはよ、モミジちゃん。お楽しみのところ悪いけど、なんで下着姿なの?」

 そうなのだ。なぜだか布団の下のモミジちゃんは下着以外、身に付けていなかったのだ。

 モミジちゃんは自分の肌を人に晒すことを必要以上に恥ずかしがる――いや、嫌がる性格らしく、お風呂に入るときも防御が堅い。着替えなんか隅っこのほうでササッと済ませちゃうような子だ。そのモミジちゃんが、今、なぜか下着しか身に付けていない。

 ちなみに、色は淡い緑色でちょっと子供っぽい下着だ。変に背伸びするよりもよほど好感がもてるなぁ、とか思ってみる。

「……へ? …………ふぇ?」

 最初のがあたしを見て発した言葉で、次が自分の姿を見て発した言葉だ。どうやら、自分でも気づいてなかったらしい。まぁ、でなけりゃカナエちゃんとハグらんわな。――多分。

「え? や、ちょ、な、なんでソノ先輩が?! や、え、ふぇぇ?! なんで私、下着なんです!?」

 言いながらモノすごい勢いで布団に潜り直すモミジちゃん。すごいね、一瞬で顔と言わず耳と言わず、頭まで真っ赤になってたよ。よほど恥ずかしいいらしい。布団に潜る際、カナエちゃんを突き飛ばしていたが、アレは恐らく気づいていないだろう。どれだけ余裕がなくなってるかが良くわかる。

「ああ、モミジくんの制服なら、ほら、しわになるといけないからこうしてハンガーに吊るしてある。安心するといい」

 ふぅ、と動き回って流れた汗を、爽やかな笑顔でぬぐいながら言う会長。

 言われた方を見てみると、確かに壁についているフックにハンガーが吊るされており、それにモミジちゃんのらしい中等部の制服がかかっていた。

 まぁね。確かに制服のままで横になったりしたら制服はしわになってしまっていただろう。制服のしわは伸ばすのが面倒だし、そういった所を考えての優しさから来た行動なら、あたしはこの色々不安な会長を少しは見直したかもしれない。

 けれど、言った直後に今しがた入手したブツを見てニヤケられていたら、なんかもう言葉に言い表せられないくらいの呆れと言うか、落胆と言うか……、ハァ。

 ため息をつくあたしに気づき、何をどう勘違いしたのか、会長は言わんでもいいことをわざわざ言い出した。

「言うまでも無いことだが、脱がしたのは私だ。いや、なに感謝の言葉など要らんよ」

 ホントに、今現在のモミジちゃんの状態を見て感謝の言葉をもらえるなどと、どういった思考回路をしていたら思えるのか不思議でしょうがない。言いたくは無いが、脳が涌いてるんじゃんないかと思う。

「あの……」

 生徒会長のあっぱらぱー加減に呆れていると、蚊の泣くような小さな声でモミジちゃんがあたしに話しかけてかけてきた。

 モミジちゃんは布団から顔だけを出している。なんとなく、臆病な亀みたいでカワイイ。

「その……、えっと、違うん、ですからね」

 ? 何がだろうか。

「べ、別にその、アレは本心じゃないって言うか……あ、いや、カナに嫌われるのがイヤなのは、本心ですけど――って、そうじゃなくて……。その、なんと言いますか……、」

 ごにょごにょ、と徐々に小さくなりついに聞こえなくなってしまった。

 顔は火がつきそうなほど真っ赤で、いつもはちゃんと前を向いているのにこの時ばかりは終始下を向いたままだった。

 う〜ん。ダメだなぁ、あたしってこういう反応に弱いのよねぇ……。なんつーの? こうムズムズ来ると言うか、ムラムラ来ると言うか、ひっじょーにいじめて困らせたくなっちゃう。

 嗚呼、けどダメよ苑! それをして過去どうなったか思い出しなさいっ。

 自分で自分を叱りつける。

 そうなのだ。あたしのこの悪い癖のせいで、過去にあたしは幾つか散々な思いをした。スペシャルベリーホームランパフェなどと言う冗談なんだか悪意の塊なんだかわからないものを、奢らされるのではなく自腹で買わされ、一人で全部食べさせられるということもあった。しばらくは体重計に乗るのが本当に怖かった。その後二ヶ月と少しはお寺の精進料理みたいな味気ないモノしか口に出来なかった。発狂してもおかしくなかったぞ、あれは。

 ぶるり、と背筋が凍えた。あの時の記憶は軽いトラウマとして今もあたしの中に根付いているらしい。いったい何度悪夢にうなされ眠れぬ夜を過ごしたことか。

 それだけじゃない。もっとすごいのもあった。アレは……考えるだけで…………、

「……お尻を……胡麻が…………洗濯板で…………糸クズと………………か、かかしがっ――――」

 ガチガチと歯の根が合わない。口から漏れ出した声が自分の耳に入ってしまい、そのせいでより鮮明に当時の、あの、忌まわしく恐ろしく、なによりおぞましい記憶がありありと甦ってしまった。

 あーやめやめ。忘れろっ、そんなモノは無かった。あたしの歴史にそんなモノは無かった。自己暗示だ。思い込み信じ込め。苑ちゃんはできる子っ。アレは黒歴史。あんな所業があるわけがないっ。

 臭いものには蓋をして漬物石を載せてしまおう。怖いものからは目を逸らしてアイマスクを十重二十重に重ねがけ。耳に入る音にはノイズキャンセラー搭載ヘッドフォンという素敵ハイテク機器をご利用に! 持ってないけど。

 ふぅ、なにはともあれ。過去を顧みるというあたしにしては珍しい行いにより、どうにかお茶目なイタズラ心は押さえ込めた。

 そうなると、今度は内に向けてしまっていた意識が外へと自然と向いた。

 ――パシャッ、パシャッ!

 またか。

 正直、そう思わざるを得なかった。

 音はすぐ横から聞こえた。今度はあちこちへ移動せず、ひたすら一定箇所から音がする。

「なにしてんスか?」

 また無視されるかと思ったが、今度はちゃんと聞こえたらしく反応があった。

「見てわかるだろう? これが水遊びや慰み事をしているように見えるのかキミは」

 息継ぎもせずに口早に言うだけ言うと、再び作業に没頭しだした。よく見ると、手が忙しく動いている。

 会長は幾つものデジタルカメラを手に、ひたすらシャッターを押していた。確かめるまでも無く、ファインダーに映る被写体はモミジちゃんだ。

 幾つものカメラを駆るその姿は、見ていて引きそうになるほど鬼気迫るものがあった。

 暫くすると、満足したのか、ふぅ、という何かをやり遂げた人のような一息をつき、顔を上げた。

「私はね、写真を撮るのが好きなんだ」

 ぽつり、と会長はどこか儚げな感じで呟いた。

 怜悧な美しさの横顔が、今は吹けば散ってしまう花のようだった。メガネ越しに前を見ている瞳はしっかりと現実を見据えているようで、けれど、どこか遠くを――ここではないどこかを見ているように感じられた。

 その言葉を聞き、あたしは

(え? なに? もしかして聞かなきゃダメ? うーあ、長くなるぞぅ、絶対)

 とか、思い、うんざりしてしまった。

すいませんごめんなさい(土下座っ

前回更新分で翌日更新を予告していながら、出来ませんでしたorz。

理由は、単に時間が無かったからです。ホントにもう申し訳なく思っております、はい。

ちゃんとできることを言えって感じですよね。お叱りはごもっともです。

反省しております。



さて、話を本編に。

えー、長いですね。夜はまだまだコレからだぜ、とか。夜は長い……、等々言われますが。長すぎですかね?

まぁ、ココでの出来事は後に大きく関わったりするかもしれないらしいので、もう暫くの辛抱を。

では、投げっぱなしですが。


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