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シフト  作者: 鳩梨
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第三音楽室にて・1

 この学校のことをここいらでできる限りあたしに可能な範囲で、ご説明させていただこうと思う。是非ともご清聴しとけ。

 まず校舎。大きい。まぁ、当たり前よね。なんたって元とは言えお嬢様学校。それに今でもお嬢様学校としてのステータスは損なわれていないようだし。生徒達を見てたら嫌でもわかる。見た目だけで育ちよさそうだもの。

 校舎の外観は石造りで、中世のイギリスあたりを訪仏とさせるもの。ここを「とある貴族のお屋敷なんですよ(ニコリ)」と紹介されても一切疑うことなく「そうなんだ」と納得してしまえる。

 校舎は上空から見ると外側にやや開いた鳥居の形に見えるだろうと思う。

 その真ん中の棒の部分に当たる所はセンターと呼称されていて四階建て。一学年から六学年――中等部一年から高等部三年――かける五クラスがある。ちなみに一クラス大体三十五人程度らしい。あたしのクラスも大体そんな感じだった。

 で。右側は特別教室棟。音楽室や調理室などなどがあるらしい。あたしは当然ながらどの階のどこに何の教室があるか全く把握していないので、さっさと覚える必要がある。面倒だけど。

 そして左側は教職員室及び事務室及び文科系倶楽部棟。一階が教職員室及び事務室で、二階からが文科系倶楽部の部室になるらしい。当然。ここのこともさっぱりわかんない。てか、特別教室棟の方を把握せずにこっちを先に把握していたりしたらどうかと思うけど。なんにしろ、あたしはセンター以外では確実に迷子になる自信がある。――や。いらんけどね。そんな自信。

 さて。アゲハとモモにあたしがつれてこられた、というよりついていったエリアは特別教室棟四階の先端の教室。扉の上のプレートには「第三音楽室」と書いてあった。

 ガラッとスライド式の扉を開けて中に入る二人に続いて、あたしも入室する。

 第三音楽室内にあるのはピアノが一台と三段になっているひな壇みたいなものだけだった。音楽室なのになんだろうかこの殺風景さは。と首を捻っていると、

「あ。お久しぶりですお姉様方。今日はお早いのですね」

 ピアノのチェックか何かをしていたらしい女の子がアゲハたちに気付いて、嬉しそうにそう声をかけてきた。セミロングのどこか幼い感じのする女の子だった。制服のデザインがあたしたちのと微妙に異なっているのを見ると、中等部生かな。

「……久しぶり。レン」

「久しぶりれんちゃん」

 親しげにそう返す二人を見るに、この子は後輩であるらしい。もうめんどくさいから、「お姉様」と言う呼称に対して何も思うまい。

「あら? そちらの方は……?」

 と。その子はあたしに気付き二人に尋ねる

 ――が

「あ。わかりました! 入部希望者さんですね。あはっ。大歓迎ですよ。ウチ、ちょっと部員多いですけど、皆『歌姫』目当てですから、楽器の空きはありますよ。ああ。それともやっぱり例に漏れず『歌姫』目あてな方ですか? けれども大丈夫です。そんなことで入部を断ったりはしませんから」どこからかB4くらいの大きさの紙とシャープペンを取り出し「ささ。ここにお名前をレッツ記入。今ならもれなく歌姫の歌唱鑑賞権が無料進呈されます。とか言いながら入部すればいつでも聴けるのですけれどね」

 はやっ。ながっ。

 まくし立てるように長々と勝手に喋り終わると「ささ。書いちゃってください」とか言いながら、入部届らしい紙とシャーペンを押し付けてくる。いやいや。あたしはまだ入部するといった覚えはありませんですよ。

 どうやらこの子は自己完結型のマシンガンッ子らしい。人の話を聞こうとしない。

「……レン。先走らない」

 どうしたもんかと、あうあう困惑しているとアゲハがそう言って止めてくれた。ピタリ、とレンと呼ばれた少女は止まる。

「…………違うのですか?」

 しょぼーん。という擬音が聞こえそうなほどに肩を落とすレンちゃん。なんだか苛めてるみたいな気分になって、この入部届に名前を書かなくちゃいけないような気がしてきた。

「そのちゃん。この子演劇部員でもあるから、演戯に騙されちゃダメよ」

 なんですと?

 モモの台詞を肯定するかのように、

「ちぇ。ばれちゃいましたか」

 とか言いながらレンちゃんは可愛らしく舌を出していた。演戯だったのか。それにしても上手だな。散々兄貴たちを騙してきたことで演戯には多少の自信が在ったり無かったりするこのあたしが騙されるとは。むぅ。さすがはお嬢様学校。やりおるわい。

「……ソノ。紹介するね。この子は水面 蓮華。この吹奏楽部のピアノ担当で、演劇部にも所属してる三年生。人の話を聞かない。妄想が激しい。話が長い等々。色々欠点は有るけどいい子だから」

 ……アゲハさん。あんた容赦ないのな。散々悪い箇所を上げといてまともなフォローはなしですか。友人の意外な一面に面食らいながらも、その言葉に噛み付きも否定の言も放たないレンちゃんを見ると、

「やー。まいりましたねぇ。反論ができません。あはは」

 とか言って笑っていた。いや、笑い事? なんにしろ、アゲハの言う通り、いい子ではあるらしい。反応が素直だ。無邪気、って言う表現がぴたりと当てはまる気がする。

 どうやらこの学校は部活動まで中等部高等部一緒らしい。なのに、ピアノ担当か。正直に、すごいなと思う。中学生なのに高校生にも負けていないということなのだから。

 と、感心してる場合じゃないよね。

「あたしは、椎本 苑。アゲハやモモと同じクラスで、今日はちょっと見学」

 レンちゃんに自己紹介と目的を軽く告げる。

「あらあら……。すごいですね。ペンタグラム・アクトリスのお二人と同じクラスだなんて。しかもお友達だなんて」

 レンちゃん羨ましそうにそう言うが、あたしにはこの子が何を言っているのやらさっぱりわからない。ペンタグラム・アクトリスとはなんじゃらほい。

「れんちゃん。その呼び方はやめてね。アタシたちはそんなんじゃないんだから」

 モモが苦笑気味にそう言うが、レンちゃんはまるで聞いちゃいないようだ。アゲハは溜め息をついて首振ってるし。あれれん。なんも知らないあたしは置いてけぼりですか。

 そう思い尋ねてみる。

「ねね。何? ペンタなんたらって」

 誰に尋ねたわけでもないが、レンちゃんがまってましたとばかりに説明を始めた。アゲハとモモはあたしと目が合うと首を振った。

 え? なに?

 そう思ってあたしが口に出そうとするのを遮るかのように、レンちゃんが絶妙なタイミングで説明を始めた。



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