校舎内散歩
今日は入学式――というよりも、生徒の大半が上に上がるだけなのでほとんど始業式――を終えた後は、各々の教室でSHRをして終わりだ。
この学校は一〜六という学年の分け方をしているので、あたしは新入四年生となる。それに対してなんとも微妙な思いをしてしまうのはしかたないことなのだろう。
あたしは目的もなくぶらぶらと校舎内を歩いている。いつだったかと同じような感じはするが、今回は校舎内。道に迷っても大丈夫だ。人はたくさんいるのだから。それに、壁に手をついて歩けばいずれ出口にたどり着く! ……ここはいつからダンジョンに?
それよりも、あたしはさっきから気になっていることがある。
ひそひそ。ひそひそひそひそ。
と、なぜか囁き合う人達が多い多い。
それも、あたしを見ている気がするのは、いい加減気のせいではない筈だ。
すごく気分が悪い。
あたしはこういう、陰口だとか人を指差してのひそひそ話しだとかいうものが大嫌いなのだ。言いたいことがあるなら面と向かって言えというのだ。
あたしはイライラとしながらも、なんでもないことのように周りを無視しながら校舎内を無目的に歩く。
なんとも不愉快な散歩。
イライラ。
「ちょっと。そこの貴女?」
イライラ。
「ちょ、ちょっと! 無視しないで下さる?」
イライ……え? あたし?
あたしは自分が呼ばれているのだと気付かずに、軽くスルーしてしまった人達を振り返る。
「あたしですか?」
とりあえず確認。これで違ってたら自意識過剰の恥ずかしいヤツになっちゃう。それは、イヤだなぁ。
「そうですわ! 他に誰がいると思いますの?」
誰でしょうね。そこらへんに色々人はいますから、そのうちの誰かでしょうよ。てか、あたしが知ったことかと思うのだけれど、この考えは間違っているのでしょうかね?
なんて。
なんとなく、偉そうな人だった。多分、上級生。
彼女は、彼女たちだった。つまり集団。ざっと10人くらい。なんだろうね。いきなりイジメ? 下級生いびり? むしろ新入生いびり?
「ちょっと、お付き合いくださるかしら?」
「お断りします」
あたしは丁寧に断るとそのまま散歩を続行する。あたしはそこらの日本人とは違うのだよ。そうとも、NO! と言えるニュージャパニーズ。時代はあたしを中心に変わるのだ。
とか、声を大にして主張しようものならどうなるかわからない、最低でもいたい目で見られそうなことを考える。
そう言えば、図書館とか図書室とか。どこにあるんだろう。これだけ大きいのだから、きっと色んな本があるに違いない。ちょっと楽しみ。
「ちょ、お持ちなさいっ!」
後ろから大声でそう呼び止められる。断ったじゃないか。
内心でおもいっきりウンザリしながら振り返ると、リーダー格だと思われる巻き毛さん(仮)が頬を引きつらせていた。ううむ。人目が多いからと感情を抑えるのは立派だが。いまいちだね。まだまだ甘い。
「なんですか? お断りしましたよ」
「そうではないでしょう! いいから、ちょっと付き合ってくださいな」
怒鳴ってから、しまったという風にそう言い繕う。遅い気がしますよ巻き毛さん。
「……ここじゃダメなんですか? あたしはどんなご用向きであれ、一向に構いませんが?」
あくまでも敬意を持って接している風にがんばる。なんでも、ここでは上級生には敬意をもまたなければならないらしいし。これで上級生じゃなかったら、あたしはがんばり損だな。どこかに訴えればその分の慰謝料を貰えるのだろうか。
「そう言わずに。ここでは、わたくし達が気にしますの」
はっきり言えばいいのに。顔を貸せと。
まったく、人の目や評価を気にするならこんなことするなよ。
「……わかりましたよ」
渋々と承諾する。
内心も外も、いやだな〜、というオーラが出てしまっているのが自分でも手に取るようにわかるが、しかたない。本当にイヤだし。めんどくさい。
巻き毛さんとその他は満足そうに笑んで頷くと、あたしを逃がさないようにか、さりげなく囲むようにして歩き出す。承諾したんだから逃げないってのに。人を信じれないなんて、悲しい人達だね。ちょっと、哀れんでやる。
巻き毛さんとその他に連れてこられたのはいかにもな校舎裏。ここで何がされるのかわからないヤツは、よほどの能天気かあっぱらぱーだろう。
「ちょっと貴女? どういうつもりですの?」
巻き毛さんが細い眉毛を逆立てて険もあらわに言う。問い返してやりたい。
ちなみに、あたしは校舎の壁に背を預けるようにされている。目の前には巻き毛さんが、その周りにはその他が扇状に広がってあたしを包囲している。
いかにも、な状況。いっそ拍手でもしてやりたい。
「なにがですか?」
「まあ、抜け抜けと」
口に手をあてて、これまたいかにもな表情と動作をする。何の儀式なんだろう。
偶然かどうなのか、巻き毛さんとその他はみんな、首に茶色いチョーカーを巻いていた。何の集団なんだろう。なんでもいいけど、あたしを宗教争いや内紛に巻き込まないでほしい。巻き込まないのなら、何をしてもある程度は無視してあげるから。
「貴女、晶様に気にいって頂いているらしいですわね?」
はぁ? またそれ?
げっそり。や、うんざり。という表情をあたしはしているだろうな。心の動きと表情筋とが今正に見事なシンクロをしている。心理運動と表情筋シンクロバトル! みたいなのが、あるならあたしは間違いなく優勝できる。いや、準優勝かな
はぁ。
「何かの誤解ですよ」
「嘘はいけませんわ。証拠はそろってますのよ?」
そうよそうよ。というその他の声。とりあえず、巻き毛さんがリーダー格で確定で、その他はオマケだな。とりあえず、その他の皆さんは無視しよう。一々全員の言葉に反応してたら話がめんどくさくなりそうだし。
にしても、証拠、ねぇ。
よく見ると、その他の中にはお嬢様風のあの、甘ったるい声のヤツがいた。ああ。あれが言いふらしたんだろうな、と漠然と思う。どうでもいいことだけど。
「証拠ねぇ……」
ぽつりと呟いてみる。
冤罪にも程がある。
「別にわたくしたちは貴女が晶様に気にいられていることをとやかく言う気はありませんわ」
んじゃあ何が気にいらないのよ。
思うも、あたしはなにも言わず次に発せられる言葉を待つ。無駄口は避けて、さっさとこんなつまらない事は終わらせたい。あたしの心は図書館、あるいは図書室に対する好奇心で一杯なのだ。
古くからある学校だし、もしかしたら今では禁書扱いの稀少本とかもあるいはあるかもしれない。もしかしたら、公共図書館には置いていないアレとかそれとかもあるかも。早く見てみたい……!
「わたくしたちはね。貴女が晶様を傷つけたことが許せないんですのよ!」
愉快な気持ちが一気に霧消。
――はい?