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シフト  作者: 鳩梨
19/46

付き合いきれないよ

 春。

 暦にして四月。それは新たな出会いの予感。

 素適な誰かと出会えそうな、知らない誰かと知り合って、友達の輪は広がって。

 そんな素適な季節。

 ――……らしいけどさ。それが万人に通用すると思ったら大間違いなわけよ。現にあたしは今、すんごく素適とは真逆の思いを胸に秘めちゃってるし。

 いや。マジよ? 本気と書いてマジで胸に秘めちゃってる。だってさ。出すわけに行かないでしょ?

「ねぇねぇ苑さん。共学ってどんな感じなの?」「男の人って怖くないの?」「恋人とかいたのかしら?」

「「「きゃー!」」」

 みたいなね。

 さっきからこんな感じ。

 わかる? わかんないかな? つまりね。春ってのは知らない人達と一から始めにゃいかんわけで、しかもそれが内と外というものに分けられた場所の外から内に入ってきたヤツの場合、一どころかマイナスから始めにゃいかんわけで。世間知らずのお嬢様方には色々興味深いらしくて。正直この質問攻めとかどうよ。と思うわけで。そもそも質問するなら答える間を頂戴よと思わないでもないわけで。誰か助けて……。

 はぁ。話がそれにそれて結局何が言いたいのかわかんないね。これだと。

 つまりね? 面倒だな、と。

 自己紹介も終わり、簡単なSHRも終わったあと、唯一の外部からの生徒であるあたしは、こうして育ちよさげなクラスメイトのお嬢さんがたに質問攻めを受けている。

 おかしいな。あの自己紹介で、ああいうどうでもいい知識を長ったらしく得意げに語るやつってのは敬遠されるものと相場が決まっているのに。なしてここまで人が集まると?

 ついついどこかの地方の方便が入り混じる。

「ねぇ、苑さん?」

 止まることの無いお嬢様方の言葉の嵐を、右から左へと流していたあたしは、今度もそうだろうとぼけっと無視していた。

 だが。

「苑さん?」

 今度は間が空いている。ああ。あたしの反応を待ってるんだ。とようやく認識。慌てながらも落ち着いて

「はい。なんです?」

 ストレートの黒髪の、言わなくてもお嬢様とわかるような、いかにもな女子が興味津々と話し掛けてくる。

「苑さんは、恋人とかいらしたの?」

 恋人? まさか。そんな質問は正に正に愚問! こんな調子でスパーンと言いたいが。そんなことしたらどうなるかくらい容易に予想がついちゃうので、泣く泣く却下。

「いませんよ。年齢と一人身暦はイコールです」

 冗談めかして言うが、事実だ。真実と言い換えてもいいだろう。自慢できることじゃないけどね。

「そうですの? 貴女かわいいから、一人や二人いそうなのに」

 おいおい。一人や二人って……。それって二股とか言うものだろうに。そんな不誠実なこと、あたしは嫌いだわ。てか、今ありえない言葉を聞いたような……。

 そう。かわいい、とか。

 誰が?

 あたしが?

 冗談でしょ? 何ぼなんでもそんなお世辞は苦しいって。童顔にくせっ毛の、バストもAしかない上に身長も普通なあたしが、かわいい? やめてほしい。

 けれど、そうは思いはしてもそれを顔に出すような愚行はしない。それくらいの思慮深さはある。結構浅いが。

「ありがとう。けど、事実ですよ。それに、あたしは男の人って苦手なんです」

 苦笑しつつ控えめにそう言う。

 苦手と言うよりも好きじゃない。むしろ針は嫌いと言う方向に偏っている。

 理由は、まぁ、いろいろある。小学校の時いじめられてたし。中学校のときは思春期真っ最中の男子達はやたら中途半端にエロかったし。

 そうは言っても、いじめられる端から張り倒したり、兄貴達がビビらせてたりしていたり、エロかったと言っても水泳の時に目つきがいやらしかったとか言う程度。

 こうして、なぜ? と真剣に考えると、明確な答えは思いつかない。

 ――いや、一つだけ。ある、ような……?

 いや。いやいや。やめよう。これ以上考えるのはよくない。よくわからないけど、本能がそう告げている。うん。やめやめ。

「そうなの? じゃあ、苑さんって女性の方が好きだったり?」

 …………は?

「うそっ!  そうなの苑さん」「やっぱりねぇ。そんな気がしてたんだぁ」「となると、誰を好きになるのかしら?」「あ、もしかたらもう居るのかも」「ああ、そうよねぇ」

「ウチのクラスにはアゲハさんがいるものね」

 きゃいきゃいと。

 いやいや。いやいやいやいや。何故そうなる? 

 あたしが首を傾げてる間にも話は勝手に盛り上がり、どんどん置いていかれる。すごいなぁ乙女ワールド。あたしも女だけど、さすがにここまでではないと思う思いたい。

 てか、そんなことよりも。そんなことをのんびり考えてないで。あたしはなぜか勝手に定着しそうな同性愛者のレッテルをはがすことに尽力せねばならないのではあるまいか?てか、そうしなきゃいかんだろ。あたしは、そんなのじゃあないんだから。イエッサ―自分。さぁ止めろ。

「ストップ! ストップみんな! 盛り上がってる所悪いけど、あたしは男の人好きじゃいからって、女の子が好きなわけでもないから」

「そうなの?」

 不満そうなお嬢様方。なんでやねん。

「けど、私も人伝に聞いただけですけど、苑さんは晶さまと仲がよろしいのでしょう?」

 黒髪の子とはちがう、セミロングの子が言う。

「冗談。あたしはまだこっちに来たばかりなのよ。寄宿舎で同じ部屋の子とその子の友達、それとアゲハくらいしか仲がいい人なんていないわよ」

 鼻で笑う。

 あたしが、アキラさんと仲がいいなんて、最低の冗談だ。あたしはあんなヤツは大っ嫌いだ。

 けれど、それをわざわざ声を大にして言う気は無い。アキラさんは生徒達に人気があるようだし。それをわかっていながら、わざわざ不快にさせるようなことを言う必要はないだろう。

 さすがのあたしでも、いきなりの孤立は避けたいし。

「けど、あなたに仲良さげに話し掛けていたのを見た人も居ますよ?」

「あ、それ。わたしも聞いたかも」「え? そうなの。いいなあ」「わたくしも晶さまとお近づきになりたいなぁ」等々。

 あたしは、こっそりと溜め息をつく。どこがいいんだ、あんな手の早い八方美人。

 ダメだね。少女だらけの環境下で育ったお嬢様方と、そうでない普通のあたしは、圧倒的に感性がずれている。正直、理解できないしついていけない。

「あら。苑さんどちらへ?」

 話の途中にもかかわらず席を立つあたしに、黒髪さんが聞いてくる。別にいいだろうあたしが居なくても。勝手に話し続けててよ。そう思うが、あたしは微笑み無難な答えを言っておく。

「すいません。先生に後で来るよう言われていたのを思い出しました」

「そうでしたの。それでは、引き止めてはいけませんね」

「すいません。話の途中なのに……」

「いいんですのよ。しかたありませんわ」

 等々。みんな快く、疑問すら持たずにあたしの嘘にそう返す。ちょっと、ほんのちょっとだけ良心が痛む。

 こんな人を疑うような事を知らないと思わせる人達をそうとわかって騙すのは、さすがに、ね。

 そうは思うもこれ以上付き合っていられないのも事実。

 あたしは、校内探索に出かけた。



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