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シフト  作者: 鳩梨
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はいはい


 さてさて。怒りに任せてズンズカ歩み去ったのはいいけれども、思い出してみればあたしは迷子だったわけで。迷子がそう簡単に目的地を目指せるわけもなく。つか、そもそも道に迷ってるからこその迷子なわけで。道に迷うってことはなんもわからんてことで。

 ああもう、まどろっこしい。

 とにかく、迷子の子猫ちゃんは犬のおまわりさんも困り果てて泣いちゃうほど道がわかんないのさ。

 今は夜なんだから寄宿舎の光を目指せばいいのかもだけど、そもそもその光が見えない。多すぎだよ、木とか。木とか。木とか木とか。伐採するぞこんちくしょう。

「アレ? さっきの……」

 ばったり、とあたしは門限を過ぎているにもかかわらず人に会えた。それも、あの悲しそうな音――歌を歌っていた人だ。やっぱり片目は瞑られている。

「ああ、歌の人」

「……そう言うキミは、変な子だね。突然逃げ出した」

 くすす、と彼女は笑う。やっぱり、かっこいいのにそう言うところは女の子らしくて可愛いと思う。ううむ。不思議さん。

「アレは、もう忘れちゃってくださいよ」

「……そう。ならそうしよう」

 くすくすと笑う。なんか、調子が狂う。

「門限過ぎてるのに、何でいるんです?」

「そう言う、キミは?」

「あたしは迷子です」

「そんな胸を張って……。私は、時間に気付かなかったんだ」

「そんなに夢中で歌ってたんですか?」

「うん……。歌うのは、好きだからね」

 ニコリ、とかわいく笑う。調子が狂う人だけど、いい人だ。この人。嫌いじゃない。 

 あたしは彼女の後をついていくような感じで遊歩道を歩いていく。寄宿舎までの道が本気でわからないのだから、仕方がない。

「……自己紹介、してなかったよね。私は小鳥遊 揚羽」

 アゲハ? どこかで聞いたよな。それもすごく最近。おや? なんだっけ。

 ともかく。

「あたしは椎本 苑です」

「ソノ? ……変わった名前」

「よく言われます」

「ソノ……、って呼ぶね」

「どうぞ。あたしは、アゲハって呼ぶけど、いい?」

「うん」

 あたしたちは街灯の小さな光の照らす道を、それ以上話すことなく無言で歩く。

 別に話さないことに大した意味はない。ただ、なんとなくだ。多分。

 それに、口を閉ざしたアゲハさんはさっきから何かを口ずさんでいる。リズムよく流れるそれは、どこか悲しげで、辛そうで、やっぱりどこかが安心させられる。不思議だ。と、やっぱり思う。

 あたしは、それをやめさせたくないから話し掛けない。今は、誰かと話すより、この不思議な歌を聴いていたい。

 誘蛾灯のように淡く光る街頭の光の下。暗い道を歌を聴きながら歩く。



「先輩っ」

「うわあ」

 ようやく部屋についたあたしを出迎えてくれたのは、笑顔で怒るモミジちゃんの静かな怒りの声だった。

 あのね。モミジちゃん。迫力すごいよ? うん。ほんとに怖いもん。なんかね。思わず頭を下げたくなっちゃう。

「こんな時間まで、何してたんですか?」

 うん。それはさっきお京さんとか先生とかにも言われた。しかもけっこう怒られた。アゲハは全然堪えてない風で、何処吹く風みたいな感じだったけど。あの調子だと、きっと常習犯なんだろうな。とか思う。

「聞いてますか。ソノ先輩?」

 思ってたら、怒られた。

「わたしは別にいいのですよ。きっと道に迷ったんだろうなとか思ってましたから」

 はい。そうです。その通りです。道に迷ってました。迷子になってました。知らない道を一人出歩くのはいけないなと思いました。反省してます。

「カナなんて、なにかあったのかもとか、襲われたりしてないかとか、いろいろ心配してたんですよ?」

 あーそのですね。襲われちゃいましたよ。あはは。

 そのカナエちゃんは、見てみれば壁に背を預けて寝ていた。その手とか胸とかには、マザーや蝶々ぬいぐるみを抱いたり乗せてたり、賑やかなことになっている。かわいい上に微笑ましい。むぅ。なんていうコンボだ。

「聞いてますか?」

「はい。聞いてますです。ですから、部屋に入れて欲しい所存でありますです。はい」

 あたしは、年下の女の子に部屋の外で起こられていると言うシュールな羞恥プレイを受けている。たまに、何事? と見られたりしているのがたまらなく恥ずかしいでありますよ。

「あ、ああ。そうでした。忘れてました」

 忘れないでよ、モミジちゃん。

 あたしは部屋に入れてもらい――あたしの部屋なのに――、それから10分くらいずっと怒られていた。

 教訓。モミジちゃんは怒らせないようにしよう。なんか怖くないのに恐い。

(今日のことは、もう、忘れちゃおう)

 


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