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シフト  作者: 鳩梨
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早速帰りたい


「ここ、かぁ」

 思わず、おお……と言ってしまうほどの外観だ。やー、大きいなぁ。

 おっと、自己紹介しとこうか。あたし、椎本シイモト ソノ。16歳の可愛らしい女の子さ。今日から鬱陶しい親父と兄貴から解放されての一人暮らし。

 ――だったはずなのに何でか寄宿舎で共同生活とか言う親と暮らすより面倒なことをせにゃならなくなったのだ。

 なんでかって?そりゃ鬱陶しいまでに過保護な親と兄があたしの知らないうちにその手続きを勝手に済ませてたからさ。しかも取り消しは出来ないときた。いやぁ、笑っちゃうね。あははは。くたばれクソオヤジにクソ兄貴!

 ――――だーれに言ってるんだろう。

 はぁ。何時までもこんなアホの子みたいにしててもしょーがないや。さっさと挨拶に行くか。

 そう考えてよいしょ、と重たいバッグを肩に担ぐ。かさばるものは全部郵送したけど、他のはバッグに詰め込んだ。なんたって寄宿舎暮らしになるなんて昨日聞いたばかりだ。しかも入学の一週間前に入舎とかなきゃいけないなんて。だから今日慌てて荷造りして送った。荷物が届くのは二日か三日くらいしてからだろう。だから服や下着やはバッグに詰め込んで手運び。もお、重いったら。

 あたしは来週からこの女子高に通うことになる。この学校は昔はいいとこのお嬢様ばっかりが通うような『純粋培養お嬢様製造工場』だったらしいが、この不景気なご時世、そんなことを未だにやってたら即死だ。なので、普通よりも高級感漂う敷居高げな学校が今の姿だ。過去の栄華も今は昔。

 さて、あたしがここを選んだ理由はすんごい簡単。家から遠くて、野郎が居ないから。本当ならここに一人暮らしができる♪ってのが入る予定だったんだけど、過保護すぎる家族のせいで消滅した。ホントにどうにかなればいいのに。切れ痔にな〜れ!

 ばかでかくて高級感溢れる、なんだかよくわからない細工の施された門をくぐり、敷地内に入った。入ったはいいのだが……。

「ここはどこ?」

 あたしはおやくそくのように早速そう呟いた。さすが、広い。広大だ。迷子になっちゃったよ。迷子センターは何処だろうか。

 そんなことを思いながら、重い荷物を肩に、適当にぶらぶらしてたら人を発見。これ幸いとばかりに駆け寄る。

 んで。駆け寄って、後悔した。回れ右して全速力で逃げたいけど、そんなことしたら孤独な迷子の旅を再開しなくちゃならなくなる。さすがにそれは勘弁したい。

「晶さまぁ、たまには晶さまのお部屋に……」

「だーめ。あそこはあなたのテリトリーではないでしょ?」

「……は〜い」

「ん。いい子ね」

 ………………………………………………………。

 何だこの光景。

 いや、思ったよ?何であんな所に座ってるのさ、とか。けどさ、いい感じに大きな木だし、優雅に陽だまりで読書中とか思ったのよ。だって、仮にもお嬢様学校だし。

 けどさ、この光景は何よ。

 緑の葉が生い茂る木陰で、座っている二人の少女。いや、座ってるのは一人だけで、もう一人は膝の上で主人にじゃれつく犬みたいにしなだれかかってる。しかも、交わされる会話がさっきのあれだよ。え?なに?ここはそういうところなの?

「あら?」

「うげ……」

 ボケッと突っ立てたのがまずかったらしい。目が合った。しかも、「うげ」とか言っちゃったよ。小さい声だったからわかんないと思うけど。

「どうかしたのかしら?」

 うわあ。同年代くらいの子がこんな丁寧な口調なのは初めてだ。なんだか変な感じだ。気持ち悪いって言うか、くすぐったいって言うか。

 まぁ、いいや。正直に迷子になったことを言って目的地の場所を聞こう、そしてさっさと退散しよう。

 あたしはそう思い、一応背筋を伸ばして行儀よくする。言葉使いも丁寧なものにする。普段使い慣れないから、ちょっと苦心する。

「あの、寄宿舎はどちらでしょうか?」

「あら、あなた外部からの新入生?」

 外部?なんだろ。なんか引っかかる言い方だ。

「ええ、まぁ、そうです」

「そう。寄宿舎はこっちじゃないわよ」

「え!?そうなんですか?」

 うわあ。恥ずかしい。てことはあたしは寄宿舎を求め延々と違う所を歩いていたと。まぬけだぁ。

「ええ。……そうだわ。わたしが連れて行ってあげましょうか?」

 え゜!?

「い、いや、いいですよ。場所を教えてもらえればそれで」

 冗談じゃない。こんなとち狂ったとしか思えないようなことをしてる人と一緒に居たくはない。たとえその結果、無事に目的地につけるのだとしても!

「けれど、また迷っちゃうかもしれないでしょう?いいのよ、遠慮しなくて」

 違う違う。遠慮してない。本気で御免被りただって。ああ、しかもちょっと、なに。そこの犬少女(仮)なんで睨んでくるの!別にあたしは悪いことしてないでしょう!?何でそんなに睨んでくるのよ。あたしにそんな趣味はないから!

「こーら。ユキ、そんなふうに睨んじゃダメよ」

「だって……」

「すねないの。あとでうんと可愛がってあげるから」

「ほんとう!?晶さま!!」

「ええ。わたしが嘘をついたことがあって?」

「ううん!じゃあ、ユキ、おとなしく待ってる」

「いい子ね」

 だから。なんなんのこの空間は。この状況は。あたし、入る学校間違えた?なに?可愛がってあげるって。

「それじゃあ、いきましょうか」

「はい?」

「寄宿舎はこっちよ」

 ちょっとちょっと。何で当事者を置いてけぼりで勝手にさくさく決めてるのさ。あたしは場所を教えてもらえればそれで良いんだってばっ!

 アキラさん――とか言うらしい――はあたしの手を自然に掴んで歩いていく。抵抗したいはずなのに抵抗しない自分に首を捻りつつ、あたしは寄宿舎へと連行された。

 普通の学校でありますように、この二人だけが特殊でありますようにと本気で願った。信じてやるから聞き届けろ神様!

 そんな風に思ったのがいけなかったのかもしれない。お空の上に居る髭のアンチクショウは、願いを裏切りやがった。

 それを知るのはそう先ではない。

 ――――嗚呼、嫌だ。



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