第92節 目覚めればそばに
世界が騒いでいた。なにもかもが揺れていた。
一つの平和が、一人の男の死によって乱れた。内乱が人々を脅かした。
人々は大事なものを守るため、大事なものを切り捨てた。戦乱の中、大事な男が死んだ。
その時、オレはなにをすればよかった?
なにもできないまま争いは終わり、敗者のほとんどはいなくなった。
そして、オレたちは大人になる……。
……なんてテロップが目の前を下から上に流れ。
「それは一体どこぞのファンタジーだっ!?」
ジオはツッコミを入れながら跳ね起きた。
かけ布団が反り返る。見覚えのある部屋。少しの間ぼーっとして自分のベッドに寝かされていたことに気付いた。
服は自分のパジャマを着ていた。あれだけやたらめったら酷いことになっていた傷もない。胸も抉れてはいなかった。
(……まさか……夢オチ!?)
そりゃないだろうと、ジオが周囲を調べると、隣に寄り添い寝ているアイリーンに気が付いた。
ショックのあまり、声なき叫びを上げた。
(ななな……なんでアイちゃんがここに!?)
しかもなんか添い寝? ぐっすり寝てるし。
ジオがありがちなシチュエーションにドギマギしていると、気配を感じたのかアイリーンが小さくうめいて起き出した。
寝ぼけまなこをゴシゴシこすり、眠そうな潤んだ瞳でジオを見上げ、ぽーっとジオを見つめ、にこりと微笑んで、また寝た。
「寝るのかよ!」と、どこかのコメディアンばりに叫ぼうとしたジオだったが、アイリーンのことを気遣ってやめることにした。
ベッドの木枠に腰かける。ベッドの近くにはボロボロで原形を留めていないジオの衣服があった。もはや残骸だ。
(さすがに、夢オチじゃなかったな……)
心の中でつぶやく。そして思い出す、あの出来事を。
凄腕の紋章術師であり、デーモンの左腕を手に入れたあの男との戦いのことを。
身体の傷は誰かが術で治癒してくれたんだろうが、疲労感までは術ではどうにもならない。実際、立ち上がると気だるく足元がふらついた。
しょうがないので、もうしばらく寝ようとベッドに戻った。
「ジオさん……良かったぁ……」
幸せそうな寝言。アイリーンの目の下にはくまができていた。ジオが目を覚ますまでずっと看ていたのだろうか。
ジオはアイリーンを起こさないように静かに寝入った。若干の距離をあけつつ。
しかし、数時間後寝相のせいで二人は密接して眠っていてしまっていて、先に起きたアイリーンは恥ずかしさのために失神することになる。