第8節 放り投げられた少年
「オレたちがけんかしていたら、たまたま通りかかった騎士団の三人組が止めに入ったんだよ」
「ナイトランサーだか何だか知らんが、警察程度がわしを止めようなんぞ片腹痛い」
「そしたら、このおっさんいきなり騎士団の人にもナイフ投げやがって」
「あの軟弱そうな顔が気に食わんかったんだ」
「そいつが連れていた馬にナイフがかすったらしくて、暴れだしてこの始末よ」
「あのひょーろくだまがナイフを避けるからいかんのだ」
「というわけで、このおっさんが全部悪いんだ」
「このガキが全部悪いんだ」
『真似すんな!』
二人の剣幕にひるみながらも、ルルは大体のところを理解した。フブキの主張は根拠も理屈もまるでわからなかったが。
「あ、あの。今はなによりこの状況を何とかするのが先決なんじゃないかと思うんですけど……」
「うるさい、ガキ! 正論を言うな!」
「なんで正論言ったらダメなんだよ! ルル、よく言った。お前は正しい」
「え……はい……」
「それじゃ、任せた。行ってこい!」
「え?」
ルルがジオの意図を察する時間はなかった。気づいた頃にはジオの膂力で後方に向かって放り投げられていて、眼下を鼻息荒くいきりたった馬面が通り過ぎていき、ルルは必死に鞍のついていない馬の背にとりついた。
「よし、よくやったルル。後はなんとか馬をなだめすかせるなりなんなりしろ!」
馬のことはよくわからないジオが適当なことを言う。それはルルも同じで、貴族でもなく牧場出身でもない一介の若者が馬の扱いなんぞできるわけもなく、なによりも……。
「……」
馬の背にとりついたように見えたルルだったが、実は腹部の急所に馬の背骨を打ち付けて気絶していたのだった。
「返事をしろぉぉぉぉx!」
できるわけなかった。