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LuruGeo  作者: 池田コント
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第85節 第三倉庫街の乱戦

 少数対多数の戦いだ。地形を利用し、なるべく固まって戦おうとするジオたちに対してヒゲ男たちは包囲戦を展開し、各個分断させようと誘い出す。

「らあぁ! 必殺!」

 入り口付近を動かないことにより退路は確保している。いざとなれば、ランケンをしんがりに一時的に退却すると話し合って決めていた。無論、なるべくシュリー救助を優先している。

「とりゃぁ! 激滅!」

 奇襲をかけたとはいえ、もともとあり合せの武器しか持たないジオたちの方に分が悪い。無理はしない、そう決めて作戦を決行した。

 だが。

 ジオはかなり張り切っていた。

「おそれはるぅぅらあぁぁ!! 大往生ぅ!!」

 ジオの拳が唸る。てっぺんハゲのヒゲ男の頬がひしゃげて叩き伏せられた。背中に殺気を感じる。とっさに身を捻ったジオの残像を細身の剣が通り過ぎた。

 フブキとの毎度の喧嘩のおかげか、ジオの感覚はかなり鍛えられていた。元来素質はあったし、体格も、背丈以外は、恵まれているのだ。

 かわされるとは思っていなかったのか、驚愕し、しかし、すぐに体勢を戻そうとする目のぎょろりとしたヒゲ男を、ジオが肘打ちで吹っ飛ばす。床を擦り、なんとか踏みとどまったそのヒゲ男は倒れこそしなかったものの、脳震盪(のうしんとう)を起こしたらしくふらふらと危なっかしい風体である。カランカラと取り落とした剣が床の上で跳ねた。

「やっぱり、俺の目は確かだな」

 よそ見でジオを観察するランケンは最小限の動きで確実に敵に応対する。危なげなく、余裕すらみせ、拳を振るう。どうやら武道を修めたというのは本当らしく、しかも相当の腕前のようだ。

 ツララには二人ほどの余裕はない。実戦経験もない。だから、時折動作の遅滞はあるものの、数年前から剣の修行のために王宮通いをしていることもあり、冷静になろうと努め、取り得のスピードを生かして、愛用のフライパンで善戦する。彼女の師匠は料理の先生でもあり、ありあわせの道具からの実戦向きの戦いを教えているとか。

 彼らの奮闘で、十数人いたヒゲ男たちで無事に立っている者は半数程に減らされていた。

 ヒゲ男たちもようやく事態のまずさに気付いたか。奇襲された動揺もおさまり始めて、遠巻きに隙をうかがうようになった。

「どうしたぁ!? びびったのか、ヒゲ連中。かかってこい!」

 ジオの挑発にも容易にはのってこない。じりじりと間合いを詰め、包囲の輪を縮める。

「なにをやっているのだ。入り込んだ小ネズミなど、さっさと始末してしまえ」

 いいかげん場も膠着(こうちゃく)してジオが殴りにいったろかと思い始めた時、聞くだけで性格の悪さが露見するような、低く聞き取りにくい声が響いた。

 奥にあるのだろう地下室から、上がってきたようだった。

「バテリオ殿。しかし、こやつら中々に手強く……ヒゲ」

(……は? 今ヒゲって言った?)

 ツララが耳ざとく文法的におかしいその一言を聞きつけた。

「うるさい。言い訳は良い。スマートに、五分で片をつけろ。下では盟主殿がお楽しみなのだ」

「そうしたいのは山々なのですが……しかし……ヒゲ」

「口答えするな! だいたいヒゲヒゲヒゲヒゲ、イチイチうるさいんじゃ!」

 バテリオというらしい男がヒゲ男の一人をしばいたようだった。ゴツンという音が響く。

 聞き間違いじゃなかったんだ、とツララは思った。

「いえ、しかし、盟主殿の命令ですので……ヒゲ」

「『革命を志す者ヒゲを生やせ、ヒゲ生やす者ヒゲにこだわれ』だったか!? アホちゃうか、あのエセ筋肉!?」

(アホだと思う)

 ツララもジオも思った。

「しかし……ヒゲ」

「もういい。ここは私に任せろ。お前らは脇にでも退いてろ」

 ヒゲ男たちが隅によけ始め、その際引きづられて呻く者たちには目はいかず、ジオたちは悠然と近づいてくる男に集中した。

 男は顔色悪く、眼窩(がんか)の周りは落ち窪み、頬はまともに栄養をとっていないのだろう骨ばって見るに耐えない。もとはそれなりに端整であった面影が見えるだけに、男の顔は一層異様さを増している。

 ざんばらにのびきり、くすんだ金髪はかろうじて手入れをしている形跡が見られるが、かきむしってしまったらしく滅茶苦茶になっている。外見でいえば、ジオに勝っているものといえば唯一、その背丈だけだ。

 ちなみに、ヒゲは生えていない。下らない命令を拒否できるということはそれなりに地位も高いのか。

「なんだ、お前は」

「その言葉はそっくりそのままお返ししよう。我々の邪魔をするな、下層市民」

「はっ! 女さらっといて上品ぶるなよ、非生産階級へたれ草」

 学生の身分である自分のことをジオは棚に上げた。

「……別に、私はさらう気などなかったのだが、まったく、盟主殿も大義を忘れ、亜人など構うのは辞めてもらいたいものだな」

「ごちゃごちゃ言うな! ちょっと略して、ごちゃ言うな! とにかく、そっちが誘拐したのはわかってんだからさっさと返せ」

「別に返してもいいんだがな……大事の前の小事だ。今、我々の事が漏れると色々と面倒なのだ。だから悪いが、君たちには……」

「ジオライトコークスクリュー!!」

 ジオの捻りの利いた右拳が、余裕満々で語っていたバテリオの顔面をとらえた。

枯れ葉のようにひらひら飛んで落ちる体。助け起こしながら、ヒゲ男たちがジオに非難の声を上げる。

「き、貴様! 今、バテリオ殿は語りに入っていたではないか! 卑怯だぞ! ヒゲ!」

「オレはヒゲではないし、そんなこと知ったことではない! しゃべってるやつが悪い! てわけで、くらえジオライトリボルバー!」

「あぎゃあ! ヒゲぇええ!!」

 拳の連打でちょっと太めのヒゲ男が悲鳴を上げる。上半身、特に顔面を殴打され、そのヒゲ男は崩れ落ちた。

(ナイス容赦なし!)

 ランケンがぽりぽりと頭をかく中、ツララはビッと親指を立てた。

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