第6節 問答無用の迷惑親父
生気を失ったようにくすんだ白髪。子供が直視すれば小便をもらさずにはいられない凶悪なつり目。高い鼻に、薄い唇。刻まれたしわから浮き出るような飢えた獣のようなオーラ。間違いない。
ご近所でかかわっちゃいけない人ランキング第一位のフブキ・ビクトレガーだ。
受けた恩は三歩歩けば忘れるくせして怨みは生涯忘れないと噂の猟奇的なおじさんである。たとえ、この場は逃げ切れても気が済むまで復讐をやめないだろう、家も近所だし。謝っても許してくれないだろう、このおじさんは心が狭い。
逃げるべきか、謝るべきか。どちらの方が、被害が少ないか。
ジオが逡巡している間に、フブキは起き上がっていた。
「……てめえ、よくもやってくれやがったな」
「いや、待て、おっさん。これにはそこはかとなくやむをえない複雑な事情があってだな」
「わしは言い訳するやつは嫌いだ!」
「す、すまん!」
「すぐ謝るやつも嫌いだ! お前それでも男か!」
(じゃあ、どうすりゃいいんだよ!)
噂通りの取りつくしまのない態度にジオはうろたえた。このおやじはやっぱりジオを許す気などないのだ。
ならば、どうすれば最良の結果を得られるのか。ここは一つ低姿勢で我慢して説教でも何でも受けてやるか……。
と、ジオが思ったときだった。銀の光がちらと光ったかと思うと顔の横をなにかがかすめていき、頬からぬるりとした液体が伝う。手で触れてみると血だった。
フブキはナイフをもてあそびながら剣呑な視線を向けている。その口元にはゆがんだ笑みが浮かんでいて。
「三本刺したら許す」
(こいつめちゃくちゃやべーーーーーーーっ!?)
ジオは戦慄した。