第64節 館の中で、ドタバタと
身にまとわりつくような粘つく霧の海を抜けると、そこにはだだっぴろい空間があった。
相も変わらず周囲には一面の霧景色。見る者を幻想に誘うミルク色に包まれて、しかし、明瞭な存在感をもってそこにその建物はあった。
ツララとコリーは見上げるようにしてその建物を見た。どこか拭いきれない薄暗い影の落ちる、古びた洋館を。
「……誰が住んでいるんだろ……」
「きっとろくでもない人に決まっています。こんな気味の悪いところに住む人ですもん」
「……人じゃなかったりして」
ボソッとつぶやいたツララの一言を境に、二人は全く口をつぐんでしまった。
「……ま、とにかく入ってみよっか」
「えー。ツララさん、入る気ですか? こんな無駄に住宅維持費がかかりそうなところへ?」
「いや、別に私が家賃払うわけじゃないし。開けてみなきゃ中身はわかんないしね」
コリーの戸惑いはまるで頓着せずにツララは正面の扉に向き合った。
すすけたような、みすぼらしい印象はあるものの、アラネスギ製でしっかりと作られている。荘厳な雰囲気に細部まできっちり彫られているライオンの装飾の横には、わざとらしいほど大きな穴が開いていた。
その穴の向こうをちらと覗き、ツララはやたらにギィ〜と老朽化した音をたてる扉を押し開いた。
「すいませ〜ん。誰かいらっしゃいませんか〜?」
明るい呼びかけは薄闇の中に吸い込まれ、わずかに反響し。
ツララの後ろから恐る恐るコリーが顔を出し。
暗闇を、なにかが動いた。
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
眉をしかめっちまうような耳をつんざく女の悲鳴が轟いた。