第63節 霧の中で、踏みつけて
スタスタスタと規則正しい歩みで、一人、シュリーはみんなを捜していた。
いつの間にはぐれてしまったのか。霧は一向に晴れない。まずいな、と考えていると唐突になにかを踏む感覚。
ぐにっ。
思いっきり踏みつけてしまってから、ふと見やると、足の下にジオの頭。
この人もまた石に蹴つまずいてしまったんだろう。安らかな寝息をたてるジオの姿に人騒がせな誰かさんの姿が重なり、とりあえずもう一回踏みしめてみた。起きない。仕方なしにかがんで揺すってやる。
「ジオさん。ジオさん。起きて下さい。みなさんに迷惑掛けますよ」
「う……う〜ん。魚取るときにつかってましたぁ……」
意味不明な寝言。ジオはしばし焦点の合わないぼやっとした顔してシュリーに目をやり、
「危ないっ! アイちゃん!」
がばっ、と抱きついた。
「違います」
「そのようだ」
抱擁の間際、眉間に待ち針をくらってジオは我に返った。
「他のみんなはどこだ? 特にアイちゃん」
「あなたを捜す途中にはぐれてしまいました」
「そいつは大変だっ!? こうしちゃいられねぇ! 急いで捜さないとぉ!」
はぐれることになった理由とか経緯とか気絶したことで記憶を失ったのか、ジオはそぶりすら見せず慌てて言った。眉間には待ち針が刺さったままである。
「しかし、こうも霧が深いと……捜そうにもなかなか……」
「それがどうした! オレは捜すぞ。絶対に見つけるのだ! 特にアイちゃん、かろうじてルル」
さっきまで頭を打って寝ていたというのにやたらとハイテンションにジオは叫ぶ。そんなジオにシュリーは「よくこんな元気出るな、おい」とばかりにため息を吐き、
「……アイリーンのこと本当に好きなのですね」
「な、なにを言うんだ。イキナリ! 仮面少女」
「シュリーです。いい加減覚えてください」
あからさまに動揺してみせるジオはそれでもしれっと言葉をつなげ、
「脇役の名は覚えられんのだ」
おいおい。
でも、シュリーは仮面のままに落ち着いて、突っ込みもせず、
「そうですか。では、私の名前はいいのでこれだけは約束してください」
「ん?」
「なにがあろうと、あの子のことを守ってください。あの子のことを想ってくれるのなら」
そう、シュリーは言った。