第43節 ゴー・ゴー・トラップ・ロード
ジオはフブキの妨害を巧みにかわしながら、迷宮内を走っている。
迷宮という割には内部には分かれ道が少ない。たまに横道が現れてもジオは躊躇することなくなるだけ正面の道を選んだ。その方が走り易かったからだ。
「自分の信じる道を行く」という行動方針は実際のところ「当てずっぽうで進んで行く」ということに変わりないのだが、行けども行けども同じような造りでちょっとしたアクセントになる装飾もない迷宮内においては、その考え方は非効率ながら一番解決の早い方法であるかも知れなかった。
要するに運と体力に任せて走りまくるのである。
幸いにも石畳の床はよく整備されていて走るのに適していた。
フブキはジオに並走もしくは追走している。これも作戦のうちである。
概略を説明すると、それぞれ別の道を行くと先にジオの方が出口を見つけてしまう可能性があるので、いっそ行動は共にして、いざ出口を見つけたら即座に小突き倒してふんじばって置いて行こうという腹である。童話などによく見られる作戦だが、そんなもろに悪役思考をするとは、なんとも姑息で汚いオヤジである。
決して、なにも考えていなかったとか、ただジオを妨害することしか頭になかったということではない、はずだ。
「おっさん! ついてくるなよ!」
「そっちこそ! 私の前を走るな!」
全力で走っているのだから舌でも噛みそうなものであるが、二人の滑舌は素晴らしい。また、反射神経にも大いに見るべきところがあった。
カッチン。
先程同じような造りだと言ったが、そんな中にだってちゃんと、解らないようにセットした罠の作動スイッチくらいは用意してくれていたのである。そのことをジオが知ったのは変な音がして、踏んだ石床のタイル一枚がへこんだ後のことである。
ビュン!
左右から勢いよく突き出された槍がジオを襲った。すんでのところでジオはリンボーダンスの体勢をしてかわし、そのまま走り続けた。
フブキも身を低くして避けて追ってきている。無理な体勢のジオはすぐに追いつかれた。
「どわぁぁぁぁぁ! わ、罠まであるのかぁぁぁ!」
「おいこら、待て。小僧。ちょっとだけ止まれ」
「……な、なんだよ。おっさん」
二人ともぜえはあ、荒い息を吐きつつ停止した。
「お前に言うのは気に食わないが、ここに一つ提案がある。どうやらここは罠もあるし、思ったより危険なところのようだ。こんなところ走ったらまずお前を罠に引っかけるにしても私まで巻き込まれる可能性がある。お前なんかのために私が苦労するのは死んでも嫌だ。よって、ここはひとまず休戦してゆっくり慎重に進む事にしようじゃないか」
「つっこみを入れたいところが多々ある気がするが、まぁ、賛成だ。命あってのもの種だからな。いいか、おっさん。休戦だぞ、休戦。『隙あり!』とか言ってだまし討ちするのはなしだぞ!?」
「わかってるわかってる。『お命頂戴!』と言えばいいんだな」
「いや、違うって」
「わかっているとも。さぁ、行くか。慎重にな!」
話題を軽く流して一歩足を踏み出すフブキ。
その足下で石のタイルがカチャリと鳴って沈んだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………アホ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!
けたたましい轟音と共に背後から大冒険家ウィンディー・ジョーズよろしく巨大な大岩が転がって来た。
「マヂィィィ!?」
悲鳴だか歓声だか喚きつつ二人は回廊を走り続ける。急いで走るから罠にかかること、かかること。投げ網、仕かけ矢、槍ぶすま、落とし穴にスライム地獄。幾多の罠をくぐり抜け、二人はひたすら大岩から逃げ続けた。