第41節 箱の中へいってみたいと思いませんか
フィービーがこもりっきりだった魔法物品保管室から十三日ぶりに出てきた。
昼の内に協力してくれる生徒に声をかけるつもりだったのだが、うっかり寝過ごしてしまった。もう放課後である。大丈夫なつもりでも疲れがきているのだろう。
「まぁ、うだつの上がらない生徒の一人や二人。まだ残っているでしょ」
生贄……ではなく、実験台……でもなく、紋章術の発展のために進んで身を投げ出してくれる人材を探しにニ、三歩歩いた時、前方からなにやら騒がしい一団がやってきた。 その先頭にいる人物の姿を認め、フィービーは喜びの笑顔を浮かべた。
「わお! なんてラッキー。あれはお願いごとをしたら嫌とは言えないような可愛らしいお嬢さん方じゃないですか。なんだか助けて〜とか言っている気がしないでもないけど、他に生徒がいるとも限らないし彼女らで試しちゃいましょ♪ そぉれ」
物事ははっきりさせる主義と公言しているくせに、人の名前と顔を一致させることをしないフィービーは、やたらに説明的な独り言で自己完結すると、魔法言語を唱え、ルルたちに向かって箱を開く。
発動した箱は装飾についた紅い宝石を輝かせ、中から強烈な猛り狂う暴風を吐き出して一団を襲い、あっという間に四人の男女を吸い込んでしまった。
「な、なに!? なにが起きてるの?」
「きゃぁぁぁ、なによ、この風!?」
「わわっ、なんだ畜生!?」
「ド根性ーーーー!!」
煩雑とした悲鳴の余韻を残し、マジックアイテム『微笑みの思い出箱』は蓋を閉じた。四隅についている水晶球が内側から光を灯す。
「あら、こんな効果だったのね。自分で試さなくてよかった」
フィービーはおっとりとそうのたまって、ほっと安堵の息を漏らした。なんだか生徒以外の人も吸い込んじゃったようだが、そんなことは些細なことだ。
「さて、後は帰ってくるのを待つだけね。……帰ってくるわよね?」
フィービーはしでかしてから不安を覚えた。もし、帰ってこなかったら自分の責任問題になってしまうだろうか。生徒を実験台に使った責任を取らされて紋章術士としての資格を失ってしまうのだろうか。
(まぁ、いいや)
と、フィービーは思った。その時は証拠隠滅。そして、しらばくれてしまえばどうにかなるだろう。生き証人は後腐れのないように口止めを、でいこう。
もうそろそろ、ここに滞在するのも潮時であることだし。
ふふふ、と笑う外道なフィービーであった。