第40節 それはいわゆる三角関係?
社会科資料室の前で佇んでいるルルの姿を見つけたコリーはにこやかに彼の名を呼んだ。
「ルルちゃ〜ん♪ まだ帰ってなかったんだね」
「あ、コリーさん。うん、これから帰ろうと思っていたんだけどね」
正面で見る、ルルの顔。席は隣同士なのだから毎日見慣れた顔のはずなのだが、それでもこの愛くるしい美貌は慣れるということを知らない。コリーは、ああもう、たまんねぇっす! ってな感じでルルの頭を撫で撫でした。
「ど、どうしたの? 急に……」
「いや、思わず……」
色んな人に可愛がられて、いい加減慣れっこだろうにそれでも顔を赤くするルルに、
(いや、だからこそ思わず撫でちゃうんスよ)
コリーは軽く謝った。たまったストレスが発散された気がした。
最近ルルの周りには目障りなシュリーがうろついているので、コリーは少々いら立ちを感じていた。この間なんて最悪だった。シュリーの奴はあろうことかルルちゃんの家に押しかけて、
『結婚して』
などと言ったのだ。コリーの大事な大事な、とっても大事なルルちゃんに向かって……。
しかも、その出来事は翌日には尾ひれがついてクラス中に伝わっていて皆は涙を飲んで祝福したのだった。
「二人がそんなに愛し合っているのならしょうがないよな」
「ああ、まさかあーんな事やこーんなプレイまでしているなんて」
「いきつくところまでいっているって感じよね。ルルちゃんて、かわいい顔して進んでるんだから……」
クラスメイトがなにを言っているのか、ルルはイマイチ理解していないようだが、二人の関係はクラス公認という既成事実が出来上がってしまっているのだ。
(くそ、ノートンめ。余計な事を……)
コリーは自分が、背筋がゾクッときちゃうような表情をしている事に気付いて慌てて爽やかな表情を浮かべて尋ねた。
「で、ルルちゃんはどうしてこんなところにいるの?」
「あのね、シュリーさんが先生に呼び出されたから、戻ってくるまで待っていて欲しいんだって」
ピキ。
コリーはこめかみが動くのを感じた。今、一番聞きたくない名前だ。笑顔を引き攣らせながら、言う。
「ふ〜ん、ルルちゃん。彼女の言う事なんか聞かないで、一緒に帰らない?」
「う〜ん、でも、約束しちゃったし、ルルは待ってるよ。ごめんね」
「そんな約束守ることないって、後で謝ればいいじゃない。ね、一緒に帰ろう?」
「う〜ん、でも」
と、困惑するルルと無理強いしようとするコリーに向かって迫りくる存在があった。
なにかの破壊音などまき散らし、床を蹴破りそうな勢いで走り来る者たち。二人が振り返ると、モップを片手に持った必死の形相のジオと、ナイフと雑巾を投げっ放す憤怒の恐相のフブキがデッドヒートを繰り広げながらすぐそばまで来ていた。
ルルとコリーは悲鳴を上げて逃げ出した。