第37節 邪魔者のエンドカーテン
「お邪魔しま〜す!!」
どか、どん、乱暴に扉の開く音。
ばたぎたばたぎた、廊下を慌てて走る音二人分。
がっ。ナイフかなにかが壁面を削る音。
それらを引き連れてジオが部屋に乱入してきた。鬼気迫る顔で、腕の中にはアイリーンがいる。
あっけにとられる面々の中で最初に声をあげたのはルル。
「ど、どうしたんですか? ジオさん」
「今は説明している場合じゃ無い! みんな! 早く逃げるんだ! 奴が、奴がくる!」
「奴って、だれよ?」
マリアの問いに、
「奴ってのは……ちっ! もう来やがった。じゃあ、オレたちは先に逃げるが皆も頑張れ! ちなみにオレは自分の家と間違ってこの家に入ってきたわけでは無い! では、さらばだ!」
「さ……さよならです……」
言いたい事だけ言って、ジオは窓から出て行った。そして、間もなく、
「クソガキはどこだぁぁぁぁぁ!!」
凶暴な本性を露にして十数本のナイフを持ったフブキが鼻血をたらし、頭に植木鉢が落ちてきたかのような風体で、血走った目をしながら、現れた。
気の弱いものは絶叫した。
アイリーンは抱えられたまま、心配そうに、
「ジオさん。皆さんは、大丈夫でしょうか?」
「ふ、アイちゃん。彼らは進んで盾になってくれたんだ。なんて素晴らしい自己犠牲の精神。オレたちは彼らのためにも、絶対に生き残らなければならない! さあ、行こう! 二人でどこまでも!」
「……はい♪」
アイリーンが見て感動したジオの涙は、果たして、嘘くさかった。
その夜、シュリーはあちこち服を汚して、怯えて帰ってきた。
「ま、負けないもん……」
気を失う間際に言ったセリフを耳にして、アイリーンにはあれからなにがあったか、あまり知りたくないと思った。
意識を取り戻したシュリーを精一杯慰めながら、アイリーンは心密かに大事な人との訣別を想像した。もし、ジオが部族に来る事を承知しなければ長老は決してジオを婿と認めないだろう。そうすると、部族かジオか、どちらかを選ばなくてはならない。許された滞在期間は二ヶ月。それまでに結論を出さなければ……。シュリーを見ていると、辛くなった。
だが、ジオの顔が脳裏に焼き付いて離れない。
シュリーは恐怖に怯えながらも、またルルの家に行くつもりである。決して諦めない、と闘魂で激しく多難そうな前途を否定した。
二人に残された日数は後五六日。果たして結果はどうであろうか。
長老はその頃、あの時以来反応のない通信水晶の前でずっと報告を待ちわびていた。
ちなみに、詳しく言うのははばかられるため、少しだけ言っておくと、アリアンロッド家は若干修理がいる程に半壊し、マリアさんとフブキの一戦はとりあえず引き分けだったらしい。
エルファームの騒々しい日々は今日もまた始まる。
この節で第二部終了です。