第29節 教室の再開
危ない! と、ジオは瞬時に駆け寄った。
距離は直線にして七メートル強離れていたが、ジオの脚力には目を見張るものがある。
アイリーンがよろけ始めて約二秒半で、ジオは学友たちごと立ちはだかる机、椅子をはねのけ、床をすべる格好で彼女を受け止めた。
「大丈夫か?……あ!」
「……え? あ、はい……大丈夫です……あ」
意識を取り戻しざま、アイリーンはお礼を言おうとして、ジオは声をかけようとして、同時に驚きを漏らした。忘れもしない、昨日の早朝出会った相手だ。
「え……あ、その……え……と」
「あ、いや、その……なんだ、ほら!」
偶然の再会。見つめ合いドギマギする二人。どこぞの物語に出てきそうなこの展開は、ルルたちオレンジ組側の困惑の視線と、ジオに吹っ飛ばされたアップル組側の恨みがましい視線を遮断して、二人だけの世界を形成した。
季節構わず無節操に花びらが舞い、ときめきが支配するこの世界を突き破ったのは、導師内でもとびきり頭の未来が危ぶまれている、ドッパラピッパラ導師だった。
「……転校初日からやってくれたね。ロココクロス君。ハイディ君! いきなり校舎の壁を破壊して入ってくるとは予想もつかなかったですよ!」
「いえいえ、私たちなど、まだまだです」
シュリーが仮面を付けたまま、真面目に言った。アイリーンはジオの腕の中で蛇ににらまれたハムスターのように脅えている。
ドッパラピッパラ導師は、青筋を立て、ゆでタコみたいに真っ赤になりながら、かろうじて感情を抑えていた。
「どうやら君たちはもう少し! ここの常識を覚えてもらわなければならないようだ! そう思わんかね!」
「その通りですね」
「サーバイン君!」
「はいッ!」
ドキっとしてそのまま立ち上がり、アイリーンをお姫さまだっこする体勢になってしまったことに気付き、赤面しながら彼女を下ろした。
「君はどうやら彼女らに面識があるようだ! 君を指導役に任せよう、いいかね!?」
有無を言わせぬ、導師の怒りは本物のようだ。その証拠に今の導師はゆでダコそっくりだ。逆らうと、とんでもない事になりそうである。ジオは必死に何度も顔を上下させた。
「それならば、マン・ツー・マンの方がよろしいかと……」
「マン・ツー・マン?」
突然の提案にジオとアイリーンが目を合わせ、そしてそらした。シュリーはその光景を見て取ると、
「その方が我々もより早くとけ込める事ができるでしょう」
「ふうん、では君の相手は誰にしようか」
導師は、なにかピンとくるものでもあったのか、多少理性を取り戻して尋ねた。シュリーは黙々と歩み寄って呆然としているコリーをぽーんと弾き、ルルの手を握った。
「……この方で」
ルルがびっくりしてぽ〜っとなっている間に、ドッパラピッパラ導師はふむと頷いていた。