第2節 失せもの
「なんじゃ、アローン、せわしいのぅ」
なにやら細かい部品をかちゃかちゃいじりながら、アゼンは言った。アローンと呼ばれたローブ姿の男は部屋に入ってくるなりアゼンに命じられお茶をいれ始めた。なにに使うのかわからない薬品やら奇妙な形の金属やらが乱雑に散らかっている室内を、慎重に歩く。
「ハカセ、なにをなさっているんですか?」
アローンはアゼンをハカセと呼ぶ。それは主従関係であることも表していて、事実二人の間には生来不変の関係がある。
ローブの間からチラッと見える白い肌……もとい白い骨。
実は、アローンはスケルトンなかっこうをしているアゼンの作品である。アゼンの身の回りの世話役兼助手を目的として自律機構と一般人と同等の判断が十分に下せるに足る思考回路、魔法による擬似生命を与えられていて、一見するとスケルトン、つまり、呪われた生命を与えられた動く白骨死体だが、本当は人型ボーンゴーレムに近い。
「これか? これはな、古い知人に修理を頼まれたんじゃ。古代文明の魔法の品物だと」
「へぇ、ハエ叩きに見えますが」
「ハエ叩きじゃ」
アゼンの発言はいつも冗談ともつかない。本人は冗談のつもりなのかもしれないが、アローンはアゼンの言動やジョークに関してのみは笑うことができないため、自身のユーモアを解する能力が欠損しているのだと思っている。ああ、人間になりたい。
「それよりも、なにかわしに用事でもあったんじゃないんか?」
その言葉を契機に、そうでしたと白骨アローンがうなづき、アゼンもそういえばと口を開いた。
「わしの大事な入れ歯知らんか?」
「僕の大腿骨知りませんか?」