第25節 転入生の噂
この話から第二部です。全五部で完結です。
異世界クロージア。そこではいまだに神が生き、怪物が潜み、精霊が満ちていた。
「わかって、いるな……」
薄暗い室内。木漏れ日の窓に向かい、老婆が告げる。
『はい』
と二人の娘が声をそろえて答えた。
「我ら、ハルピュイアの呪詛に」
と、右にいる娘。
「決して破れたりはしません」
と、左の娘。
『我らの血族に未来あれ!』
両の娘が叫ぶのを、老婆は満足そうに見つめて、その後娘らを送りだした。
行き先は、エルファーム。花の国。
「おいおいおいおい! 知ってるか〜い?」
学士院高等部の教室。おしゃべり過ぎ……もといおしゃべり好きのノートンが名前の長いコリー・アッタイム・ゴルビチョフに話しかけてきた。別段仲が良いわけでもないが、この男は誰にだって馴れ馴れしく話し掛ける。自分の知っていることを、人に聞かせたくて仕方がない人種なのである。
「知ってるってなにを?」
「その様子じゃ知らないみたいだね。実は、四日後、この学士院に転入生がやってくるんだってさぁ。しかも、なんと一度に二人も! 両方女の子なんだって!」
「ふ〜ん、そう」
コリーは大して興味もない。さらっと流した。
「あれあれあれ〜? 興味なさげ。面白くないのぉ?」
「うん、あまり」
「じゃあさ、聞いて聞いて。もっと詳しく言うから。その女の子っていうのはね。片方は金髪、ボンボンで二つにくくっていて、小柄な十五歳。角笛の月生まれ。趣味は蝶々と時間制限付きで遊ぶこと。名前はシュリー・ハイディと言って、好きな食べ物は……」
「……ねぇ、いつも思うんだけど、その情報どこから仕入れてくるの?」
「それは聞いちゃ駄目。ジャーナリストとしての守秘義務があるから」
「あ、そ」
ノートンは自分をジャーナリストだと言ってはばからない。そんな身分でもないだろうに。結局、それもコリーにとっては興味のないことだが。
「んでね、もう一人はアイリーン・ロココクロス。黒髪ボブカットの、儚げな十四歳。白羊の月生まれで、特技は卒倒だってさぁ。変な子たちだよね。会うのが楽しみだなぁ」
一人で盛り上がっているノートンから目をそらし、勝手に騒いでなさいとコリーは思う。隣の空席を見て(ルルちゃんは今日も欠席かぁ)と溜息をついた。
(せっかく、新しい白粉が手に入ったから、お化粧してあげようと思ったのに……)
「それじゃあね。バイバイ、コリー……っあ、ジョン! ねぇねぇ知ってる〜?」
情報通。おしゃべりノートン。
エルファームの人間関係等の情報で彼の右に出る者はいない。
(ある意味すごいけど、結構うっとうしいなぁ)
とコリー他多数が思っているのは流石に知らないが、新しく教室に入ってきたつり目の青年ジョンにそのおしゃべり好きをお披露目しようとするノートンは密かにほくそ笑んでいた。
(ふふ、転入生がやってくる目的は婿探しなんだってさ。面白くなりそうだよね)
ノートン・マレイ。ジャーナリストは真実の全てを語るべきではないと信じて疑わない変なやつである。