第24節 星空の道
そんなルルたちを、見つめる影があった。
深夜に迫る暗闇に潜み、四人にまるで気配を悟らせていない、二つの影。
「どうやら、自首することにしたようです」
聞き耳を立てていた、青い影が報告した。
「当然だわ。それで許しはしないけれどね、犯人……この場合は犯犬かしら? ともかく、それを匿ったのだから、彼らにはしかるべき処罰を受けてもらう。情状酌量はないわ。女王と法律は、厳格なのよ」
花の刺繍が入った皮色のローブを着た少女は、そう答えた。
「でも、まぁ、盗まれた物が無事帰ってくるのは万々歳ね」
彼女の手には薔薇の家紋と乙女座の女神の刻印がなされた剣があった。盗まれた物が散らかったドサクサにこっそり取ってきたものだ。
「よかったですね。それが一時でも紛失したことが明るみに出れば、大騒ぎになるところでしたよ」
青年の爽やかな嫌味に、少女はむっと口を引き結んだ。
「その、エルファーム王家当主に代々受け継がれる家宝に、そっくりな剣が」
少女はぺちっと青年の肩を叩くと、ローブの端を翻してその場を去る。
「きっと、あの兵士たちは左遷ね! 馬とか子犬の世話とか、そんな閑職に追いやられるに決まっているわ! 違いないのよ!」
肩を怒らせて去る少女の背中に微笑を送りながら、青い影は少女に続いた。
空から降る明かりに、石畳の道が照り返す。床石に含まれる不純な鉱石成分が、さながら星が地面にちりばめられたかのようで、それは星空の道という言葉を思わせる光景だ。
その道をジオがルルをおぶって帰る。疲労困憊になったルルを見かねたジオが背負ったのだ。ジオは普段、他人に手を貸したりはしない。背負うなんて初めてかもしれない。だが、今日はなんとなくそうしてしまった。
最大パワーで放った風の紋章術で吹っ飛ばし地面に叩きつけた責任を感じたからかもしれない。もしくは、そんな仕打ちを受けても、ルルが泣くのをこらえたからかも知れない。
ジオは「仕方ねえなあ」と言ってちょっと照れくさそうにルルに手を差し出した。「ガキは素直にオレに頼ればいいんだよ」
ジオは低身長ながらがっちりとした体格をしていて、ルルは安心感を得た。背負われたことがあるのはもう遠い過去のこと。ルルの父親が失踪して久しい。おぼろげな記憶にある背中はもっと広くて、もっとごつごつしていた。大樹の幹みたいに。
けれど、この背中も温かい。
「……父さん」
いつしか、ルルは安らぎに抱かれ寝息をたてていた。ジオはそれに気づいて鼻を鳴らしたが、ふと、表情が和らぐ。
「オレはお前の父親なんかじゃねーっての」
ジオは揺れないようにゆっくりと、歩いた。
その歩みが、はた、と止まる。
「あーっ! 結局、オレのポエム帳は見つかってないじゃねーかぁ!」
「……ほえ? ポエムちょ……?」
絶叫するジオと寝ぼけたルルに、柔らかな月光が注いでいる。
この節で第一部終了です。全五部で完結です。