第21節 人質はペナント
「いいでやんすか、坊主ども。ここで見聞きしたことは忘れて、決して口外しないと誓うでやんす。そうだ、君たちの大事な物を預からせてもらうでやんす。もし誰かに話したりすれば……わかっているでやんすよね?」
不適に笑うジャガイモに対し、
「あ! じゃ、オレ、観光地のペナントで」
「ルルは、お祭りの時の飾りぼうしで」
「お前ら、要らないものを言うんじゃないでやんす!」
「そんなことないぞ。オレはペナントを愛している。別れ別れになることを思うと、身を引き裂かれる想いだ。ああ、ペナント、ペナント。あの実用性がなく置き所に困るインテリア……おー、マイペナント」
「その愛が本当でもそれはそれで嫌でやんすね。仕方ないでやんす。もう、なんでもいいから持ち物をどれか置いていくでやんす。でもって、住所、氏名、年齢、趣味、わたしに脅された感想を紙に書いて提出したら帰っていいでやんす。本日消印有効」
ジャガイモの挙げるずさんな条件に対して、ジオは首を横に振る。ジャガイモは眉間のしわを深くして、手に握った警棒をルルの喉に押し当てる。
「この子がどうなってもいいでやんすか」
「別に」
「うわっ、ひどっ!」
「ジオさ〜ん」
泣きそうな声で呼ばれて、さすがにばつが悪くなったのか、
「……とは口が裂けても言わないぜ。当たり前じゃないか、ルル、ははん。いやー、それにしても卑怯なやつだな、てめえ!」
ルルが果てしなく嫌な予感を感じて青ざめていることは、ジャガイモにはわからない。スウィートポテトは事態を傍観している。
「手段を選べない理由があるでやんすよ。悪く思わないでおくんなせい。さぁ、まずは、お前から書くでやんす」
ジオは言われるがままに、自分の持っている植物紙を取り出すと、羽ペンで書き始める。住所、氏名、年齢と書き終えたところで、ジオはふと手を止めた。
「ジオさん……?」
ルルはジオを心配して声をかけたが、返事はなかった。
ジオは、自分のプロフィールを書くうちに紋章学部に進学したころを思い出していた。