第17節 迷子探しが迷子になる
「……ったく冗談じゃないぜー」
ジオはこれでもかというほど嫌そうな顔をして文句をたれる。
「なんでこのオレが、スケルトンの骨なんぞ探して夜中に歩き回らなけりゃなんねーんだ」
既に頭上には満天の星空。住宅街から外れたのか、辺りに明かりはなく、通りにある街灯も遠い。
ルルは宙に紋章を描く。かわいく伸びた指先に力がこもり、紋章が完成されたとき、ルルは結びの呪文を唱えた。
「ライティングフライ」
宙に浮かんだ紋章の力が集約し、光源になる。ルルの指示のままに動く紋章術の光源は、ささやかにルルたちの足元を照らした。
「ジオさん、さっきは任せてって言っていたじゃないですか。アローンさんを助けてあげましょうよ」
「さっきのオレは今のオレじゃない。とにかく、オレは猛烈に夕飯が食いたいんだよ!」
「……もう、勝手なんだから。なら、帰って食べたら良いじゃないですかぁ」
「そうか、その手があったか! んじゃあオレは帰るぞぉ! 約束は破棄だ破棄…………おい」
「なんですか?」
「……か、帰り道はどっちだ?」
「……え」
ジオの振り返った先には本当の真っ暗やみが広がっていた。見知らぬ夜の街角は、さながら迷宮のように大口を開いて、獲物を待ち受けているように見える。
空には妙にはっきりとした半月が浮かんでいた。
「……オレは帰るぞ!」
「……どうぞ」
「……」
迷子である。迷子。だが決して彼らをからかってはいけない。例えいくつになろうと、迷う奴は迷うものだ。
仕方ないので二人は更に奥へと進む事にした。下手に戻ろうとするより突っ切った方が早いだろうと判断したのだ。
ジオは光源を作る紋章術を使えず、ルルと離れて一人で帰るのが心細かった、というのもあるにはあるけれど、それは内緒だ。建前上、ルルを一人にするのが心配だから、なのだ。
それはともかく、突っ切るという判断は間違っていないだろう。
エルファームは計画された区画整理によって網の目上の町並みが作られているため、たとえどんな裏路地に迷い込んでも、まっすぐ同じ方向に進んでいけば、必ずいずれかの大通りか外壁にたどり着く。区画の半ばまで来ているはずなので、通りまですぐのはずだ。
だが、大通りに出るより先に、二人はその気配を感じた。
それは恐怖感からくる勘違いなのかも知れない。だが、ルルはアローンが言った『骨をとっていったのは小さな動物のようだった』という証言にぴたりとくる気配を感じたし、ジオはどうかとうかがいを立ててみれば、豆鉄砲を食らったハトのような表情を浮かべていたので、多分ジオも気配を察したのだろう。
ルルは意を決し、気配を感じた方向へ歩み寄る。壁を砂で削ったような音がはっきりとてきて、それが気配のもとであったのだと思い至る。ジオはすっかり及び腰で、ルルの袖を引っ張っている。ジオは正体不明の恐怖に弱いのだった。
(……もう、おうち帰ゆ……)
音の主にだいぶ近づいた。もう一つ足を伸ばせば明かりの届く距離だ。それは壁際でもぞもぞと動いている。その周囲には毛布が敷かれていて、水の入った平たいお皿が見える。
「誰かに飼われているの……猫?」
ルルの紋章術の光が、音の主を照らし出す。黒い毛に包まれた小さな手足が見えた。
その時だった。