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桐生要の損得感情 第01件 須藤正也立てこもり事件

一話完結ですので、ここで読み終わってもOKですし、

いつかの更新の際にまた続きをお読みいただいてもOKだと思います。


楽しんでいただけたら幸いです。

時間を無駄にしたらごめんなさい。


 私がニュースを見ていたら、インターホンが鳴った。時間は9:00。一般家庭に来客があるには非常識な時間である。

 

 「はい、はい…。お待ちしておりました。」

 母は目の前に誰もいないのにぺこぺこと頭を下げていた。実をいうと私もよくやる。この辺は親子だなぁ。

 それにしても、母は来客があるなどと一言も言っていなかったが…。

 そんなことを考えていると、体つきと目つきが良い男が何人も入ってきて、私に銃を突きつけた。

 「動くな!少しでも妙な動きをすれば発砲する!」

 おいおいおい、一般市民に銃を向けるって何?どういうこと?あんた警官でしょ?S〇Tでしょう?だって顔に書いてある(・・・・・・・)

 「手をゆっくり頭の後ろにつけろ!」

 私は言うとおりにゆっくりと手を頭の後ろに回した。一般人の私にそれ以外にどうしろと?

 「よぉし!目標を確保!車に乗せろ!」

 この突撃の隊長の人が、どこかに連絡を取っているようだ。なるほど、警視総監…。なるほど分からん。何故、警視総監が出てくる?

 「あの、娘はどうなるのでしょうか?」

 おぉ、母よ!最近、韓流ドラマに凝ってて私にDVDの焼き方を聞いてきた母よ!その時の礼を今!

 「大丈夫ですよ、奥さん。娘さんを悪いようにはしません。」

 悪いようにしないと言って、悪くならない例を私はあまり知らない。

 「よ、よろしくお願いします。」

 母よ…。そのホッとした表情は娘を心配してか、娘が無事に引き渡せたからなのかどっちだ?

 私はどこぞの地球外生命体のように何食ったらこんなに大きくなるかという大男の隊員二名に両脇を抱えられた。

 「え、え、えぇ?」

 私はただ壊れたレコードのように言葉を繰り返すしかできなかった。そんな私をさげすむでもなく憐れむのでもなく淡々と家の外へと運ばれていく。

 「え、何?どういうこと?」

 まぁ、母が警察に連絡したことくらいは予想がつく。娘を売ったとは思うまい。唯怖かったのだろう。母は黒い例のGが出ただけで、怖がるくらいに肝が小さい。

 でも、私は何もしてないぞ?怖がられるようなことは何一つとして…。

 

 困惑する私を有無を言わさず装甲車両に放り込むとほぼタイムラグなく発車した。私はのんきにもあまりの手際の良さにほーと感心してしまう。

 「ほー、仕事人って感じ。」

 私はかなり頓珍漢なことを言ったらしく、隊員の一人が噴き出す声が聞こえる。彼は笑い上戸だそうだ。フルフェイスの防弾メットをかぶってても顔に書いてあった(・・・・・・)。   

 「ねぇ、なんで私、連れてかれるんですか?」

 隣にいた男に話しかけるが、何もしゃべってくれない。

 「これって法律的にどうなの?警官が一般人さらっていいの?」

 私はずいっと隣の隊員ににじり寄るが、相変わらず無口である。代わりに周りの隊員が全員銃を向けてきたので、思わず手錠をつけられた腕をあげる。

 あれ?私、いつの間に手錠つけられた?マジック?

 「はい!抵抗しません!だから撃たないで!」

 必死、必ず死ぬと書いて必死。そんなん食らったら死にますよ普通に。この人たち警戒しすぎっす。

 「…隊長。これ、使えるんですかね?この反応だと確実にこれまでとは違って戦闘向きじゃないですよ?」

 これって何?それに『使う』?私…もしかして人体実験の材料にされるんじゃ?ほら、よく小説とかでマッドな博士が笑いながら解剖してくるやつ。

 「…それは俺たちが判断する事じゃない。俺たちの任務はこいつを指定の場所まで送り届けることだ。」

 拉致、監禁は『送り届ける』とはいいません。いつから日本語は意味を変えたのだ?

 …それは一先ず置いても、送り届ける場所が研究所でないとは限らない。でも、『使う』のに『戦闘向き』である必要があるってことはなんかの現場で使われると考えた方が自然カナ?

 「…ごめんね、手荒にしちゃって。」

 若い隊員がこちらに詫びを言ってきた。そうだよ!手荒だったよ!これは高くつくぞ!とりあえずハーゲンダッツ、チョコレートとバニラと抹茶一個ずつ買ってこい!

 などと心の中で叫ぶが、それは漏れだせるわけもなく…。

 「…いいえ。」

 小心である。しかし小心にもなろうってものだ。二度も銃に囲まれたんだから。その後の私は借りてきた猫のようにおとなしくしていた。


 車が止まったのは、とあるホテル。別に豪華であるとは予想していなかったが、どちらかというとさびれた感じのホテルだったのが意外だった。

 

 降りても相変わらず銃を突きつけられている。当然手錠も。

 「警視総監!連れてまいりました!」

 「ご苦労様です。」

 小突かれて前に出てまじまじと警視総監と呼ばれた男の顔を見る。白髪の混じった黒髪を後ろに撫でつけた紳士的な顔立ち。

 「こんばんわ、桐生要です…。」

 私は頭を下げる。警視総監か…。何してる人だっけ?とりあえず偉い人。私の想像もつかないことをして考えている人。

 「警視総監、神崎直人です。かわいらしい御嬢さん。」

 何を言っているんだこのオジサンは…。とは言うまい。言ったら横に突きつけられてる銃が私の頭を吹き飛ばしかねない。そんな冒険はしない。

 「はぁ、光栄です。」

 オジサンは顎に手を当てて少し考えると再び話し始めた。

 「…君は、これまで現れた『能力者』とは違うね…。」

 「これまで現れた『能力者』?」

 たった二人だろう?今回で三人だ。そんな少数と比べられても…。

 「うん、これまでも一条秀則や佐々木正則以外にも『能力者』というのは結構見つかっているのだよ。軽犯罪を犯してね…。」 

 …初耳だった。ネットで自称『能力者』は何人もいた。中には非常に具体的な能力の内容を載せているやつもいたが、『僕の考えた能力者』との違いを判断できなかったのでネタとして楽しむに留めていたが、やはり相当数いるのだ。

 「そうだったんですか…。」

 「その誰もが能力を使いたくて、いや、使って見せたくて(・・・・・)堪らないという子たちだったものでね…。」

 「私もそうかもしれませんよ?」

 「いや、君をここまで連れてきている間の様子は聞かせてもらっている。もしそうならすでに能力を使って逃げ出しているだろう。」

 「それだけのことができない弱い『能力者』とは考えないんですか?」

 「それはそれで、理性的に損得を考えることが出来るのなら我々も安心できる。」

 「都合がいいと。」

 「そう言うことだが、嫌かね?」

 「まぁ、ありていに言えば不満は残ります…。ただ、そこまではっきり言われると結構気持ちがいいとも思いますが…。」

 「まぁ、我々としても持って回ったやり取りをする暇がないほどに切羽詰っているのだよ…。」 

 これまでの落ち着き払った様子とは打って変わって、苦い表情に変わる。

 「…と言うと。」

 「…『警察署立てこもり事件』は見知っているかね?」 

 私はただ頷く。さっきまでニュースのライブ映像を見ていたのだ。

 「立てこもっているのは『須藤正也』15歳、つまり未成年だ。これほどマスコミにうろつかれてはこそこそとした作戦もできなくてね。それでいて強行突破をすれば多くの犠牲者が出ることは『一条秀則事件』で懲りている。我々としては彼を刺激しないまま、穏便に早急に片を着けたいのだよ…。」

 「…はぁ。」 

 そこにどういう風に私が関係してくるんだ?

 「そこで、理性的で扱いに困らない『能力者』に任せるのがいいという考えがあってね…。」

 「はぁ?」

 私は片眉をあげる。

 「そんなところに君の母上から連絡があったという訳だ。まさに渡りに船というやつでね。普段の君について調べさせたが、素行にも問題がなく、日々を普通に過ごしているそうじゃないか。まことに我々に都合がいい人材ということだった。」

 「私の事情は?」

 「もちろん、君は断ることはできる。」

 「じゃあ、断りますよ。もちろん。」

 「まぁまぁ、話は最後まで聞きなさい。君が断った場合、君は『能力者』専用の施設に送られる。犯罪者扱い…というほどひどくない場所だが、自由に買い物と洒落込むことはできなくなるだろう…。」

 「…やったらどうなんです?」

 「そこに送られることはない。望めば感謝状と金一封を進呈してもいい。」

 「やります!」

 「…いいのかね?結構重要な決断だと思うんだが…。」

 「やんなきゃ監獄送り、やれば金と来れば迷う必要なんかないっしょ!」

 「…分かったでは、事件の概要を説明するからついてきたまえ。」

 オジサンは頭を抱えて何やらぶつぶつとつぶやいている。

 

 「…最近の若者はよくわからん。」



 事件の概要は、報道されたことから外れてはいなかった。

 行き過ぎた『尋問』をされたことから『須藤正也』は反抗、攻撃の後、狂乱。

 後に引けなくなって、立てこもり。


 それで肝心の『須藤正也』の能力だが…。

 

 「『分からない』!?なにそれ。ふざけてる?」

 私は思わず、立ち上げり机をたたく。

 「『能力者』についてはまだ不明な点が多く、断定できていいないのだ…。」

 「そんな何も分からない状態の場所に、未成年の女を一人で行かせようって訳ね。…上等よ。」

 私が睨み付けると、ここに私を連れてきた隊長はバツが悪そうに顔をそむける。

 「…それで、能力を使ったところの目撃者はいないの?」

 「尋問に立ち会っていた警官が一人、逃げ出しており、彼の話だと『いきなり手錠を吹き飛ばして刑事に殴りかかった。刑事は顔をつぶされてピクリとも動かなかった』と。」

 「…ふ-ん。」

 …なるほど、分からん。身体能力が上がってるのかもしれないし、何か念動力とかそういうのかもしれないし…。分からないわ。

 「ま、いっか。見れば分かるし…。」

 「見れば分かる?」

 警視総監のオジサンが怪訝な顔をする。

 その様子を見て、思い出した。

 「そういえば、私の能力言ってませんでしたっけ…。私、見たものの情報を読み取れるんですよ…。」

 「…は?」

 「そういう能力もあるってことで。」

 警視総監の顔色がみるみる悪くなっていく。

 「だから、私に色々弱み握られてるってことですよ…、みなさん。」

 会議室の面々がざわつく。

 「き、君はそれが分かっていて、そのつもりで大人しくついてきたのかね!」

 警視総監が思わずのけぞり、私を指さす。その指先は震えていた。

 「そんなわけないじゃないですか。私、銃で撃たれたら死んじゃいますもん。そんなの『損』ですよね。私、『理性的に損得を考えられる人間』ですから。都合がよろしいでしょう?」

 私の一言に会議室は静寂に包まれた。

 「それじゃあ、行ってきますね。」

 私は静寂の中、おもむろに立ち上がった。

 椅子に掛けてあった誰かのトレンチコートを勝手に拝借すると、女性警官に向かって化粧道具と化粧室への案内を頼んだ。

 女性警官も後ろ暗いところが相当あるのか、すぐに立ち上がり、カバンを持って私を案内した。


 化粧道具を借りて、少し大人向けのメイクをする。

 入るときに『交渉役としてきた女性警官』の振りをするためだ。トレンチコートもその小道具。


 

 「動くな!そこで止まれ!」

 私が警察署の前まで歩いていくと、拡声器で拡大された幼い声が聞こえてきた。…幼いって言ってもそんなに年齢違わないんだけど。

 「私は交渉役よ!扉を開けて頂戴!」

 私は拡声器の声に負けない気持ちで声を張り上げた。その後、須藤少年の返答を待っていた。しばらく静寂が続く。まだかなぁ。『女一人が怖いか臆病者!』とか言ったら開くかな?

 「…いいだろう、こちらからの要求を伝える使者になってもらう!」

 彼もそろそろ、ここから逃げる算段をつけないといずれ体力が尽きて捕まるだろう。人間眠らなければ生きられない。

 「分かった、入るわよ!」

 そのまま、堂々とした足取りで警察署の扉を開く。見せ掛けだけでも強いふりをしないと調子に乗られちゃうからなぁ。

 今日、分かったことだが、こちらを強いと誤解させとくと相手に余計な力を使わせて不利な状況が有利になる場合がある。

 私は強い。そう言い聞かせながら。扉を重々しく開いた。


 入ってすぐの場所には誰もいなかった。

 玄関付近で周囲を見渡すと、まだ幼さが残るが体つきは大人の階段を上り始めている男の子が立っていた。彼の体つきは何かスポーツでもやっていたのか、がっしりとしている。

 …なるほど。野球の推薦か。

 彼の鼻息は荒い。相当こちらを警戒している。

 「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。この通り一人だし、丸腰よ。」

 彼はそれでもこちらに警戒の目を見せる。

 「…お前ら大人は平気で騙す。信用できない。」

 「それは先生のせい?」

 彼が体をびくりと震わせる。

 「スポーツ特待生で入学して、先生に能力のことを相談したんだね。それで野球部のレギュラーから外された。能力を使ったら試合の出場が停止になるかもしれなかったから。」

 彼は席を切ったように突然、饒舌になった。

 「そうさ!あいつは誰にも言わないって言ったんだ。それなのにあいつは監督にちくって、それでレギュラーから外された。あんたに分かるか?スポーツ推薦で入ったのにレギュラーになれない部員がどうなるか?」

 「さぁ?」

 「お荷物扱いだよ!推薦で入ったくせにレギュラーになれないクズ扱いされる!事情を話してもどうせ信じちゃくれないし、知られたら知られたでひどい目に合う。」

 「それで、ぐれたのね…。でも、警察に捕まったのがパチンコ屋で、動体視力をあげて稼ぎまくったのはまずかったと思うわよ~、さすがに。」

 私は冗談めかして手をパタパタと上下させる。

 「う、うるさい!能力のせいでこんな目に合ったんだ!使って何が悪い!」

 「あんた、そんなこと言っちゃ、その監督と同じ穴のムジナだよ。」

 「どこがだ!」

 「能力のせいでって理由でなんでも正当化しちゃうのが、先生とあんたでしょうが。」

 「そんな…ことはない。俺はあいつとは違う!」

 能力なんて使わなきゃいいのに…。自分で努力して手に入れた力以外は使うのに神経使ってめんどくさいのにな~。

 ま、彼の能力は身体能力全般の強化みたいだから、何とかなるかな。もっと超常的な奴だったらどうしようかと思った。

 下を向いたまま唸っている今が好機。私はそのまま、彼に無造作に近づく。


 「…!来るなぁ!」

 「どうして?身体強化できるあなたは、近距離の方が有利のはずでしょ?こんなに離れてちゃ交渉できないわよ。」

 これは、言葉に詰まる。

 その通りだからだ。彼が警戒しているのは、中距離からの射撃だろう。

 遠距離の射撃なら、防ぎきれるし、避けることすら可能だ。近距離ならば銃の所持者の動きを見れば事前に察知可能。

 難しいのが、中距離からの射撃。避けるには近すぎ、攻撃するには遠すぎる。

 

 彼にとって有利なフィールドに入るのが解せないって顔ね…。


 私は無造作に近づく。もちろん私も近づいて咽喉を一突きされれば致命傷だ。おそらく彼のキックで腹でもやられれば内臓破裂で死ぬ。


 でも、私がこれからやることは攻撃であることが見破れない…。


 彼はこれまでの行動がすべて受け身だ。こちらから何かアプローチしなれば、行動を選択できない人間、…だと思う。


 彼まであと3メートル。

 …2メートル。

 …1メートル。

 

 触れられる距離。


 私の目線は、『彼の頭』。


 「ねぇ、能力は好き?」

 「…好きなわけがない!」 

 今の会話の流れで好きかと聞かれれば、まぁそう答えるわね。…本音は別として。パチンコで荒稼ぎした時はおそらく、俺ってラッキーくらいに思ってたでしょうけど。

 「そうよねぇ、能力のせいで嫌なことがあったんだもの…。」

 彼の頭に、手を持っていく。彼の頭を撫でてやる。数日風呂に入っていないのか少し粘つくのがすごく不快。

 「あぁ、能力なんていらない。」

 「もし消せるなら、『身体能力強化を消して』欲しい?」

 「あぁ、『消して欲しい』。」

 私は心の中で笑いながら、言った。

 「そう、なら『消去』ね。」

 私は彼の頭上の何もない空間をチョンと触れた。


 その瞬間、彼の体はがくりと崩れ落ちた。



 「な、なんだ!何をした!」

 彼の顔には驚愕と体中を走る突然の痛みにゆがんでいる。体中が痙攣し、指ひとつ動かせなかった。

 「貴方が望んでいたことをしてあげただけよ。」

 私は地面に倒れて動けない彼をしゃがんで眺める。コートに入っていたハンカチで手をぬぐう。

 彼はおそらく疲労で通常なら動けないところを能力で動かしていたのだろう。今の彼は、完全に『無力』だ。

 「だから、何をしたのかと聞いている!」

 彼の声は大きく恐ろしげだが、その声には恐怖が混じっていた。

 「貴方の能力を『消去』させてもらったのよ…。」

 「何?」

 「実は私も『能力者』なの…。」

 彼の顔に驚愕が浮かぶ。

 「ば、馬鹿な!警察に能力者がいるなんて話は…!」

 「聞いたことがないって?そりゃそうでしょ。いても公表するわけないし…。それに私、警官じゃないわよ?」

 「なんで警察じゃない奴が、警察に協力してんだよ!」

 「銃で脅されてやむなく…。」 

 私は泣きまねをするが、さっきまでの三文芝居に疲れて白々しくなってしまった。

 「ふざけるな!『能力者』が脅されるもんか!」

 「あ!あんたも『佐々木正則』に毒された口?あれの言うこと鵜呑みにしちゃだめよ?あれは完全にその場のノリで話してるわ。そんなの見れば分かるでしょ。」

 「なんだとぉ?」

 「何、怒ってんの?能力なんていらなかったんじゃないの?」

 「そ、それは…。」

 「使ってみたら楽しかったんでしょ。誰にも出来なことをできる自分が。野球ができない自分が活躍できるのはもう能力しかなかったんでしょう?」

 「う、う、うう。うるさい!悪いか!それが普通だろ!」

 「えぇ、悪くないわ。普通よ。ただあなたの割り切りが悪かっただけ。能力を使うならもっと積極的に使わなきゃ。で、使いたくないんなら一生使わない。そのくらい割り切んなきゃ、損するように世の中出来てきてるわよ。『佐々木正則』、『一条秀則』のせいでね…。」

 彼は呆然と私の方を見ている。…もう少し攻めようかな?

 「ところで、ここに来る前に聞いたんだけど…、『能力者』専用の施設があるんだってさ。たぶんあんた、そこに入れられるわよ。」

 「ネ、ネットで聞いたことがある。山奥の監獄みたいなところで、塀の外には出られないで一生そこで過ごすっていう。」

 「そうそう、買い物も自由にできないみたいよ。あなたの好きな神田百恵の写真集とかもう買えないのよ~。」 

 何気に彼の趣味まで暴露していく。

 「い、いやだ。そんなところ行きたくない!…そ、そうだ俺はもう能力者じゃないんだ!そんなところに行く必要はない!」

 恐怖に染まった彼の目に喜色が浮かぶ。

 「それは、どうかしらねぇ。まず、それを信じられることはないだろうし。信じられたとしても『能力の消えた能力者』なんて重要なサンプル、見逃してくれると思う?」

 彼の顔が真っ青になる。すでに疲労で意識が朦朧(もうろう)としているだろう。だんだん呼吸が速くなっていく。

 「か、返してくれ!俺の能力、返してくれ!頼む!なんでも言うこと聞くから!」

 「本当?」

 「…あ、あぁ。」

 「ならね…、貴方、私の下僕になりなさい。」

 「は?」

 彼は目を丸くして、口を大きく開けて黙り込んだ。

 「だからね?あんたは私の下僕になって言うこと聞くの…。いい?」

 「いいわけないだろう!施設とどこが違う!」

 「違うわよ。私が『お願い』するとき以外は自由だもの…。」

 「し、しかし…それはあまりにも。」

 須藤は目線を逸らし、悲しげな表情を浮かべている。

 「施設で玩具にされるか、私の滅多に来ない『お願い』に怯える生活か、選んで?」

 私は、興味なさげに淡々というように心掛ける。この二者択一しかないと思いこまさなければならない。

 須藤は目を伏せ、考え込むと重々しく頷いた。


 「…わ、分かった。」 

 「そう、なら『私の下僕になりなさい』。」

 「だから『なる』って言ってんだろ!」

 「…言ったわね。」

 再び彼の頭に触れると、彼は少しぼうっとしていると私を見ると静かに目を伏せた。

 「御命令を、わが主。」

 「そうね、まずは『能力を取り戻したい』?はいと言いなさい。」

 「『はい』、主。」

 彼は能力が戻ったのか立ち上がった。

 「跪きなさい。」 

 「はい。」

 彼は言うままに膝を付く。頭に触れるにはこの態勢がやりやすい。

 「ん~、まずは記憶をいじんなきゃなぁ~。あんたは『私の説得に感動して改心し、大人しくなった。反省している。今後は『能力者』犯罪の取り締まりに尽力する正義の味方になると誓う。ここであった出来事はすべて私の説得されてることに書き換わる。』ってことで。」

 ちいっと臭いかなぁ~。まいっか!

 「…。」

 「…はいと言いなさい。」

 「『はい』、主。」

 「じゃ、ここから出て、警察にはそう振る舞うように。」

 「はい。」


 私が彼を連れて出ると、辺りは騒然となった。犯人が出てきたのだから当然だ。

 「止まれ!」

 「待って!彼は改心したわ。もう大丈夫。」

 私がそう言っても何の説得力もないのか、警察は銃を下さない。

 「はー、面倒。」

 私は頭をかくと、歩き出した。

 「あんたはここで大人しくしてなさい。」

 「はい。」

 後ろで声がするが気にせずにそのまま前に歩いていく。

 「彼を捕えるなら好きにして!私はちょっと警視総監に用があるから。」

 私は固まったまま動かない警官の横を通り抜け、警視総監のいるであろうホテルまで急いだ。

 


 「…早かったね。」

 警視総監の目は泳いでいる。

 「私が犯人に殺されることを望んでいたんですか?」

 「い、いや、そういうわけでは…。」

 「別にいいですが…。」

 「そ、そうかね。」

 オジサンはあからさまにホッとしていた。

 「…まぁ、今後私にこういうこと頼まないでくださいね。」

 「ど、どうしてもかね?私としては今後も手伝ってくれるとありがたいんだが…。」

 上目づかいで、おびえた目でこちらを見てくる。正直、気分は良くない。

 「それは大丈夫です。後任を用意しました。」

 「後任?」 

 「須藤正也君ですよ。彼はこれで改心したようでですね…。」

 「は、犯罪者に警察活動を任せることは…。」

 「そのくらい、何とかしてください。警視総監なんでしょ?」

 「し、しかし…。」

 「とにかく私が言いたいことはそれだけです。それでは失礼しますよ。あ、車お借りします。」


 私はオジサンの呼ぶ声を完全に無視して、その辺にいた刑事を捕まえて家まで送らせた。

 「今日は、疲れたわ。もう11時じゃない。」

 私はそのまま、ベッドに倒れ込むと幸せな夢の世界へと旅立った。


 

 その後、数週間は平和そのもので警察署を占拠された責任の所在は現場の警官に集中され、須藤正也はその年齢と立てこもるまでの経緯を酌量され、厳重注意と奉仕活動を課せられることで決着がつくようだった。

 そして警視総監のオジサンは免職を免れたのをニュースで知った。


 感謝状と金一封は確かに届けられ、『時給これならまぁいいか。』と自分を納得させた。


 その後も、平和そのもの。学校に通い、宿題、テレビ、予習、復習と日常を堪能した。


 その崩壊は事件から数週間後、またしても玄関からだった。


 「どうも、すまんね。」

 「本当に、人の話聞いてました?」

 私は不機嫌を隠そうともしていない。警視総監の顔が出るたびにテレビを消すくらいにあの事件を思い出したくなかった。

 「すまん、でも君に『能力者犯罪対策室』の室長を頼みたいんだ。」 

 「やりません。お帰りください。」

 「再考してくれんかね?」

 「嫌です。ちゃんと後任は用意したでしょう?」

 そのためにあんな回りくどいことをしたのだ。

 「確かに須藤正也は正義に燃える、我々でも驚くような立派な若者となったが、我々の命令をまったく聞かないで勝手に『能力者』の犯罪を処断するものだから、到底組織に組み込むことはできんのだよ。」

 抜かった…!私は全力で叫んだ。面倒だから下僕にしちゃったのはミスだった。おかげで私以外の命令を聞かなくなってしまったんだ!

 「それで訳を訊けば、彼は君の言う事なら聞くというじゃないか!ならば渡りに船だ。君にやってもらおうという話が持ち上がって…。」


 …因果応報。塞翁が馬。

 原因と結果はついて回るもの。

 

 今日の教訓。めんどくさがると後々、碌なことにならない…だわ。


 私は警視総監の毒にも薬にもならない話を聞き流しながら、大きくため息をついた。







いかがでしたでしょうか?


まだ、文章を手直ししていく予定ですので、

誤字、誤用などございましたら、修正させていただきます。


では、またいつか。


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