幕間 管理者たちは、静かに会話する
暗闇の中に、光点が浮かんでいた。
それは星ではない。
世界の外側に設置された、観測用の視座だ。
複数の光が、互いに位置をずらしながら存在している。
「――異常を確認」
低い声が響く。
「観測者個体、想定より早く感覚減衰を開始」
「第一層の使用頻度が、基準値を超過している」
別の声が続く。
「放置すれば、自己崩壊」
「だが修正すれば、観測データは失われる」
一瞬の沈黙。
「……フクロウを出すか?」
その名に、空気がわずかに揺れた。
「まだ早い」
「夜だ。人間の意識が不安定になる時間帯を待て」
「代償が発生している」
「このままでは――」
「問題ない」
冷たい断言。
「“見る者”には、必ず代償が必要だ」
「それが、世界の安定条件」
光点の一つが、わずかに明滅する。
「……今回の個体は、少し違う」
「違いは誤差だ」
「誤差は、いずれ修正される」
会話は、それで終わった。
再び闇。
ただ一つ、
学園の座標だけが、
赤くマークされていた。
●
魔法学園。
地下深層、封鎖区画。
灯りのない通路を、黒いローブの男が歩いていた。
足音はない。
魔力反応も、ほとんどない。
「……やはり、早い」
カラスは独り言のように呟く。
彼の視界には、生徒のものとは異なる情報が流れていた。
――【観測者:不安定】
――【感覚減衰:進行中】
――【管理介入:未実施】
「フクロウは、まだ動かないか」
指先で壁に触れる。
石の内側に刻まれた、“古い修正痕”。
この世界が、何度も手直しされてきた証。
「……何度目だ」
カラスは目を伏せる。
過去にも、観測者はいた。
知りすぎ、
壊れ、
そして――消えた。
「今回は……」
彼は立ち止まり、わずかに口角を上げる。
「まだ、壊すには惜しい」
闇の奥で、何かが微かに動いた。
それに背を向け、カラスは地上へ戻っていく。
夜が深まれば、必ず“管理補助”は現れる。
そして――
少年は、選択を迫られる。
「……せめて、自分で選べ」
その言葉は、誰にも届かない。
だが確かに、祈りに近かった。




