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その鵲は、空の裏側を知る  作者: shiyushiyu


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第2章 空を知らぬ鳥の、最初の羽ばたき

 魔法学園アヴィアの訓練場は、想像以上に広大だった。


 円形に整えられた大地は、数百人が同時に動いても余裕があるほど。

 地面には無数の魔法陣が刻まれ、踏みしめるたび、かすかに魔力が脈打つのを感じる。


 中央には、訓練用ゴーレムが並んで静止していた。

 石と金属を組み合わせた無機質な体。

 だが、その内部には確かに“動くための意思”が仕込まれている。


「これより、実戦基礎授業を開始する」


 低く、よく通る声。


 黒いローブに身を包んだ教師――カラスが、生徒たちを一瞥した。

 その視線は冷静で、感情が読み取れない。


「ペアを組め。攻撃、回避、防御。すべて実戦形式で学ぶ」


 その一言で、空気がぴんと張り詰めた。


 遊びではない。

 これは、選別だ。


「よっ、カケル。俺と組もうぜ」


 隣から、スズメが気軽に声をかけてくる。

 その明るさに、少しだけ救われた。


「助かるよ……」


 一方、少し離れた場所。


「……タカと当たるやつ、気の毒だな」

「初日から全力らしいぞ」


 鋭い視線を放つ少年、タカが腕を組んで立っていた。

 獲物を値踏みする猛禽の目。

 彼の周囲だけ、空気が張りつめている。


 ●


「では、始め」


 カラスが手を下ろす。


 次の瞬間、ゴーレムの瞳が赤く灯った。

 重たい足音が、訓練場全体を震わせる。


「スズメ、先に行く!」


「了解!」


 スズメが魔力弾を放つ。

 空気を切り裂き、一直線に飛ぶ――はずだった。


 ガンッ!


 乾いた音とともに、魔力弾が弾かれる。


「うわっ、硬っ!」


 その瞬間。


 カケルの視界が、赤に染まった。


 ――【防御属性 過剰付与】

 ――【関節可動域 制限エラー】


(……見える)


 数字。

 警告。

 意味を持った“歪み”。


 ゴーレムの右足。

 膝裏の関節だけ、わずかに同期が遅れている。


(今、言わなきゃ――)


 だが、一瞬の迷い。


(もし、外れたら?)

(また、笑われる)


 次の瞬間、ゴーレムがスズメへ踏み込んだ。


「スズメ! 右足! ひざの裏!」


 考える前に、声が出ていた。


「え、なに――」


 だが、スズメは即座に反応する。

 信じた。


 放たれた魔法が、膝裏を撃ち抜いた。


 ギギ……ッ!


 ゴーレムの動きが、一瞬、止まる。


「今だ!」


 スズメが追撃を叩き込む。

 巨体がバランスを崩し、地面に膝をついた。


 どよめきが広がる。


「え、今の……」

「狙ってたのか?」


 カケルは荒く息をつく。

 視界には、まだ赤い警告が浮かんでいる。


(……弱点が、全部見える)


 だが同時に。


 ――【観測負荷 上昇】


 頭の奥が、じんと痺れる。

 視界の端が、わずかに揺れた。


(……長くは、無理だ)


 ●


 別のフィールド。


 タカは単独でゴーレムに向き合っていた。


「力こそが正義だ」


 振るわれる魔力。

 純粋な破壊の奔流。


 一撃で、ゴーレムは粉砕された。


 歓声が上がる。

 圧倒的な力。誰もが認める強さ。


 だが。


 ――【過剰破壊:再構築不能】


 赤い警告が、残骸の上で瞬いていた。


 それを見ているのは――

 カケルだけ。


(……壊しすぎると)


(世界が、元に戻れなくなる?)


 ●


 授業の終わり。

 評価発表。


「スズメ。連携良好」

「タカ。攻撃力評価A」


 そして。


「……カケル」


 視線が集まる。


「能力値は最低。だが――」


 カラスの目が、わずかに細くなる。


「“戦況把握能力”は、異常値だ」


 ざわり、と空気が揺れた。


 カケルは何も言えない。

 ただ、確信する。


(この人……知ってる)


 授業後。


 シラサギが、静かに歩み寄ってくる。


「初めてで、あれだけ見抜けるなんて」


「たまたまだよ……」


 彼女は首を横に振った。


「違う。あなたは――見てはいけないものを見ている」


 その背後で、空が一瞬、ノイズを帯びる。


 ――【環境同期 遅延】


 シラサギは、かすかに息を詰めた。


「気をつけて。あなたはもう、世界に見つかり始めている」


 カケルは、空を見上げる。


 飛べないはずの鳥が、初めて、風の存在を知った瞬間だった。

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