幕間 シラサギは静かに見下ろす
魔法学園の回廊は、高く、白い。
昼の喧騒が嘘のように、今は静寂に包まれていた。
シラサギは一人、手すりに指をかけ、広場を見下ろしている。
先ほどまで、新入生たちが並んでいた場所。
今はもう、何事もなかったかのように片付けられている。
(……やっぱり)
彼女は、目を細めた。
彼の周囲だけ、世界の輪郭が曖昧だった。
数値は最低。
才能は、ゼロに等しい。
――そう“見せられている”。
(評価基準に引っかからない存在)
(それ自体が、異常)
彼女の脳裏に、古い言葉がよぎる。
――空は一枚ではない。
――裏返った空を見た者は、数に測れぬ。
それは、学園の奥深く。
正式な講義では決して語られない、禁書の一節。
シラサギは、無意識のうちに胸元の徽章を指でなぞった。
白い羽根を模したその印は、首席の証であると同時に――
“監視される側”の証でもある。
(……鵲)
彼女は、彼をそう呼んでいた。
強くもない。
速くもない。
誇れる翼を持たない。
それでも。
天と天のあいだを、最初に渡るのは、いつだって鵲だ。
彼女は小さく息を吐く。
(気づかれないように、近づきすぎないように)
(でも……見失わない)
視線の先で、一羽の小さな影が、寮の方へと消えていく。
その背に、彼女は心の中でだけ、言葉をかけた。
(どうか――まだ、飛ばないで)
シラサギは、静かに回廊を後にした。
空の裏側を知る鳥が、自分が鳥であることを思い出す、その日まで。




