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その鵲は、空の裏側を知る  作者: shiyushiyu


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第1章 最弱の鳥、学園に降り立つ

 魔法学園アヴィアの正門は、空へ向かって翼を広げた巨大な鳥の姿をしていた。

 左右に伸びる翼は白い石で精巧に彫り込まれ、羽根一枚一枚にまで魔術紋様が刻まれている。


 朝日を浴びた門は淡く輝き、まるで――

 今にも羽ばたき、空へ飛び立ちそうな錯覚を抱かせた。


「ここが……魔法学園……」


 カケルは思わず、息を呑んだ。

 喉がからりと鳴り、無意識に唾を飲み込む。


 この世界で、魔法学園に入れるかどうか。

 それは、ただの進学ではない。


 未来が決まる。


 貴族も平民も関係ない。

 名家の血も、金も、ここでは意味を持たない。


 あるのはただ一つ――能力値。


 そしてカケルは、昨日の入学試験でそれを嫌というほど思い知らされた。


 ●


 広場の中央。

 石畳の上に、新入生たちが半円状に並ばされていた。


 その頭上には、淡く光る水晶板が浮かんでいる。

 一人ずつ、名前とステータスが映し出されるたび、空気がざわめいた。


「スズメ。レベル12。平均以上だな、合格」

「タカ。レベル18……ほう、今年の当たりだ」


 歓声。

 安堵の息。

 悔しさを噛み殺す視線。


 誇らしげに胸を張る者もいれば、目を伏せる者もいる。


 ――そして。


「……カケル」


 その名が呼ばれた瞬間、

 まるで広場全体の音が、一拍だけ消えたように感じた。


 水晶板が光り、文字が浮かび上がる。


 レベル:1

 体力:1

 魔力:1

 敏捷:1

 スキル:《エラー検知》


 一瞬の静寂。


 次の瞬間、誰かが耐えきれず吹き出した。


「うそだろ……」

「冗談だよな?」

「それで、なんで通ったんだ?」


 ざわめきが、嘲りに変わる。


 試験官が、小さく咳払いをした。


「……能力値は最低だが、入学条件は満たしている。以上だ」


 淡々とした声。

 それ以上の説明は、なかった。


 カケルは何も言えず、視線を落としたまま列の端へと歩く。

 背中に突き刺さる視線が、肌に痛い。


(……やっぱり、場違いだよな)


 胸の奥が、じくりと軋んだ。


 そのとき――


 視界の端で、赤い文字が瞬いた。


 ――【警告:評価基準 未定義変数】


「……!」


 反射的に顔を上げる。

 だが、周囲の誰一人として、反応していない。


(今の……俺にしか、見えてない?)


 胸がざわつく。


 そこへ、不意に影が落ちた。


「あなた、カケルよね」


 澄んだ、凛とした声。


 顔を上げると、そこに立っていたのは――

 白い髪の少女だった。


 陽光を反射するような銀白の髪。

 背筋を正した立ち姿。

 纏う空気が、他の新入生とは明らかに違う。


 ――シラサギ。


 今年の首席合格者。

 誰もが知る名前。


「首席が……」

「なんで、あいつに……?」


 ざわめきが、再び広がる。


 カケルは慌てて背筋を伸ばした。


「な、なんですか?」


 シラサギは、じっと彼の目を見つめる。

 探るように、確かめるように。


「あなたのスキル。《エラー検知》」


 一瞬、心臓が跳ねた。


「それ、いつから見えるようになったの?」


「……え?」


 言葉に詰まった、その瞬間。


 カケルの視界で、

 彼女の背後の地面が、わずかに歪んだ。


――【地形データ 遅延同期】


 息を呑む。


(……増えてる? シラサギの近く、エラーの数が……)


「答えなくていいわ」


 シラサギは、ふっと表情を和らげる。


「でも覚えておいて」


 その微笑みは、どこか意味深だった。


「あなたは、“最弱”なんかじゃない」


 そう言い残し、彼女は踵を返す。

 白い髪が、光の中で揺れた。


 残されたカケルの胸は、理由もなく高鳴っていた。


 ●


 入学式が終わり、寮へ向かう石畳の道。

 その隣に、軽やかな足取りで少年が並ぶ。


「なあなあ、君がカケルだろ?」


 丸い目をした少年が、にっこりと笑った。


「俺、スズメ! レベルはそこそこだけど、よろしくな!」


 そのあまりの無邪気さに、張り詰めていた肩の力がすっと抜ける。


「……よろしく」


(最弱でも……ここにいて、いいのかもしれない)


 そう思った、その瞬間。


 遠く、学園中央の塔の頂で――

 黒い影が動いた。


 フードを被った男。

 名を、カラスという。


 彼は学園全体を見下ろし、低く呟いた。


「……ついに現れたか。《エラー検知》」


 その声は、風に紛れて消える。


 そして、その夜。


 カケルのステータスウィンドウに、見慣れない文字が浮かび上がった。


 ――【システム更新:観測者 権限付与】


 彼は、まだ知らない。


 今日という日が、世界の運命が動き出した日だったということを。

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