表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その鵲は、空の裏側を知る  作者: shiyushiyu


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/34

第8章 鋭い視線、揺れる誇り

 午後の魔法学園アヴィア


 中庭には、昼休み特有のざわめきが満ちていた。

 笑い声、食堂から漂う香り、疲れを含む思い足取り、

 無数の魔力が気ままに行き交う、平和な時間。


 ――だが。


 その流れを断ち切るように、一人の生徒が歩いていた。


 タカだ。


 一歩ごとに、靴底が石畳を強く打つ。

 無意識に放たれる魔力が、周囲の空気を張り詰めさせる。


(……おかしい)


 ここ数日、カケルの様子がはっきりと変わっている。


 授業中の反応。

 魔力制御の“間”。

 そして、あの視線。


 以前は、どこか泳いでいた目が、

 今は――世界を測っている。


(あいつが、そんな目をするはずがない)


 タカは歯を食いしばる。


 最弱。

 落ちこぼれ。

 それが、カケルだった。


 少なくとも、タカの中ではそうである。


「……今日、確かめる」


 拳を握る。

 それは怒りではなく、

 自分の立ち位置を失う恐怖だった。


 ●


 訓練場。


 魔法ゴーレムの起動音が、低く響く。

 タカは、観客席の後方の影から、ひっそりとその様子を見ていた。


 タカが見ているとは知らずにカケルがゴーレムの前に立つ。


 構えは、相変わらず素人じみている。

 だが――


(……魔力が、整いすぎてる)


 無駄がない。

 揺れがない。

 まるで、最初から“最適解”しか流れていないような配列。


(第二層……)


 喉が、ゴクリと鳴る。


 観測段階第二層。

 理論上は存在するが、生徒が到達するなど想定されていない領域。


(……やっぱり……《エラー検知》)


 胸の奥が、ざわめく。


 努力で届く場所じゃない。

 才能ですら、足りない。


 ――異常だ。

 そう。明らかに異常なのだ。


「……」


 タカは、目を逸らさなかった。


 今日、この目で見て自分との差を知る。


 逃げるわけにはいかなかった。


 そう胸に秘めて目を見張った……


 ●


「カケル!」


 声を張り上げる。


 カケルは、わずかに遅れて振り返った。

 だが、その視線がタカを捉えた瞬間――


 空気が変わる。


 タカの魔力が、反射的に地面へと流れ出す。

 影のように伸びる、攻撃前兆。


 それを、カケルは“線”として見た。


(……来る)


 音は聞こえない。

 だが、意志と動きが、色と方向で視界に浮かぶ。


 ●


 ゴーレムの前で、二人は向かい合った。


 タカが先に踏み込む。


 迷いのない初動。

 斬撃系魔力が、圧縮され、一気に解放される。


「――!」


 轟音。

 ゴーレムの装甲が、まとめて削れる。


 だが――


 カケルはほんの半歩、体をずらしただけだった。


 軌道を、”見てから避けた”のだ。


(……は?)


 タカの思考が、一瞬止まる。


 次の一撃は三連だ。

 通常であれば回避不能の角度。


 それでも、カケルは最小限の動きで、すり抜ける。


 ――【観測精度:高度】

 ――【行動予測:補正】


 視界に走る情報。

 可能性が、一本に収束していく。


(……当たらない……?)


 いや、違う。


 当たらせていない。


 タカの魔力が、

 カケルの“異常視覚”に触れ、

 赤い警告が瞬く。


「……すごい……」


 タカは、肩で息をしながら心の中で呟く。


 力の差じゃない。

 経験の差でもない。


(……俺は、読まれてる)


「……俺……」


 胸が、締めつけられる。


「……負けるのか?」


 ●


 戦いの中で、タカは理解し始める。


 カケルの視界には、“世界の情報”が剥き出しで存在している。


 建物の耐久限界。

 魔力の流速。

 自分の攻撃が、次に選ぶであろう角度。


 すべてが、予測の対象。


(……こんなの……)


(常識じゃ、勝てない)


 だが。


 タカは、拳を下ろさなかった。


「俺は――!」


 叫ぶように、魔力を解放する。


 制御を捨てた、純粋な爆発。

 ゴーレムが、衝撃波で粉砕される。


 その瞬間、カケルの視界が、わずかに乱れた。


 ――【警告:予測誤差 発生】


(……!?)


 初めての“ズレ”。


「――来い!」


 タカは、真正面から吠えた。


 二人の視線が、世界の深層で交錯する。


 これは勝負じゃない。

 力比べでもない。


 ――理解と覚悟の、衝突だ。


 ●


 戦闘が終わる。


 訓練場には、破壊されたゴーレムの残骸と、荒い呼吸だけが残った。


 タカは、拳を握りしめたまま、カケルを見る。


「……お前、本当に変わったな」


 カケルは、少し間を置いて答える。


「……ああ。俺はもう、普通じゃない」


 逃げない言葉だった。


「……そうか……」


 タカは、俯いて呟くように言う。


 その後、すぐに顔を上げた。


「なら、俺は――」


「……?」


「お前に追いつく」


 視線は、逸らさない。


「どんな異常でも、俺は負けない」


 赤い警告の中で、カケルは、タカの決意を”読む”。


 恐怖。

 誇り。

 そして、折れていない心。


(……こいつ……)


(ほんとに、変わらないな)


 二人の間に、これ以上の言葉は要らなかった。


 理解した瞬間、

 世界の歪みの中で、

 確かな決意が生まれる。


 ――生き残る

 ――理解する

 ――戦う


 学園の空は、午後の日差しの下で、穏やかに揺れていた。


 その揺れは、

 二人にだけ伝わる、

 確かな“緊張”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ