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異物の魔女騎士 ―転生面接で神に拒否され、原初の魔女に拾われた少女―  作者: 畑野きび
第六章:鐘と像

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第44話 門と、順番

 広場の端に、門が立っていた。

 大門は黒く、動く気配がない。脇に、人ひとりが通れる小さな戸がある。そこだけが、夜の中で“入口”の顔をしていた。


 先に着いていたフランクが、振り向いた。

 篝を見た瞬間、声が先に荒くなる。


「――なんでお前がいるんだよ!」


 声が割れる。

 怒鳴りながら、フランクは片手で篝を追い払うように指さした。


「寄るな。隠れてろ。邪魔すんな」


 優しくはない。言葉が全部、払いのける形をしている。

 篝は返事を飲み込んで、門の石柱の影へ身を寄せた。

 剣の鞘が腿に当たり、息が一つだけ詰まる。――動く。


 門の前に、門番が三人いた。

 ハルバード。刃が街灯の薄い光を拾い、長い柄が“通すな”の形を作っている。


「開けろ」

 フランクが言った。短い。


「通せない」

 門番の一人が返す。これも短い。


「俺が誰だと思ってる」

「あなたを通さないのが、仕事だ」


 フランクの指先が、一度だけ震える。

 震えが止まった一拍で、動きが鋭くなる。


 フランクの腕が一度だけ振れる。

 刃が街灯を割って、門番の胸元が沈む。


 門番の列が欠けた。

 金属が石に当たって鳴り、長い柄が転がる音が遅れてついてくる。

 倒れた門番は、息を吸う形のまま止まった。


 篝の胃が冷える。

 血の色より先に、音が減る。人ひとり分の音が、消える。

 篝の喉が、勝手に酸っぱいものを押し上げる。

 押し上げて、飲み込む。飲み込んだものが、胃で冷える。


 残りの二人が、間を詰めた。

 “欠けた分”を埋めるように柄が前へ来る。刃先が街灯を拾い、白い縁が一瞬だけ浮く。


 従者の一人が、盾を上げた。

 盾の縁が、柄を受けて鳴る。硬い音が二つ重なり、門の石柱の影が揺れる。

 門番の一人が踏みとどまろうとして――踏みとどまれない。

 靴底が石を擦り、体が扉へ押し付けられる。

 扉は止まったまま。止まったまま、肩と肘が先に折れるみたいに沈む。


「仕事だろ。――じゃあ、やめろ」


 フランクの声は低い。怒鳴る声じゃない。決める声だ。

 フランクは一歩も迷わず前へ出て、倒れた門番を見ない。

 見ないまま、空いた隙間へまっすぐ入る。


 もう一人の門番が声を出しかける。合図だ。叫びだ。

 その喉が“声の形”のまま止まり、空気が詰まる。

 吐きかけた息が、鉄の面頬の内側で濡れた音に変わる。

 ハルバードの柄が指から抜け、石畳を長く引っかいて滑った。

 倒れた門番の手が、まだハルバードの柄を探している。

 探す指が、一本だけ動いて――止まる。


 盾の男が、足を出した。

 倒れた体を避けるでもなく、跨ぐでもなく――踏み越える。

 靴底が、濡れたものを一度だけ踏んで、鈍い音を残す。


 門番は三人とも、もう“立って止める”形じゃない。

 それでも、石畳を滑った柄が、まだ門の前を塞ぐように横たわっている。

 塞いだ形だけが残っているのが、いちばん気持ち悪い。


 銀札が遅れて、門の横へ回り込んだ。

 指が空を探り、口の中で言葉を折る。

 薄い光が、空中にかたちを作りかける――作りかけた光が、途中でほどける。

 指先が空を掴んで、戻る。


「……解けねえ」

 銀札の声が、焦りで乾く。


 門の小さな戸へ、フランクの手が伸びた。閂の位置を知っている動きだ。乱暴に掴む。


 ――動かない。


 鍵が合わない感じじゃない。

 最後の一押しに、手が行けない。行けるはずなのに、行く前で止まる。


 篝は、息を吸った。

 扉は、ただ閉じているだけじゃない。閉じた“まま”で終わっている。蝶番の気配がしない。

 木が、反応しない。

 もう開かない扉だ、と分かる。分かった瞬間、背中の皮膚が薄くなる。


 フランクが歯を鳴らした。


「ふざけんな……!」


 扉へ、もう一度。今度は力で押し切る動き。

 それでも、動かない。動かないことが、フランクの顔を変える。


 そのとき、門の内側――見えない場所で、紙が一枚めくれる音がした。


 ぱら。


 薄いのに、決まっている音。

 空気が乾く。砂を撒いたみたいに、喉が一瞬だけざらつく。

 篝は理由を探せない。ただ、動いたらいけない、と身体が先に言う。


 フランクが、扉から目を離した。

 視線が扉から外れて、誰もいないはずの場所を探る。

 扉じゃない何かの“順番”だけが、そこにある気がした。


「……誰だ」


 返事はない。代わりに、遠くから音が来る。


 ガシャ。

 ガシャ。


 広場の石畳を踏む、重い金属音。ひとつじゃない。揃っている。

 フランクの肩が、わずかに跳ねた。息が一つだけ詰まる。


「……チッ」


 フランクは、扉をもう一度殴りそうになって、殴らない。

 殴っても動かないことを、もう知ったからだ。


 ガシャガシャが、近い。

 迷う前に次の足音が来て、篝の身体が遅れて追いつく。

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