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異物の魔女騎士 ―転生面接で神に拒否され、原初の魔女に拾われた少女―  作者: 畑野きび
第一章:黒い子猫と転生面接

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第1話 白い部屋

箱で選別。今日は、少し面白い子。

 目を開けたとき、最初に見えたのは、白だった。


 天井も、壁も、床も、まっさらな白で塗りつぶされている。

 蛍光灯みたいな光はあるのに、どこに灯りがついているのか分からない。


 病院、ではないと思う。

 消毒液の匂いはしない。


 周防篝すおうかがりは、しばらくのあいだ、ただ瞬きを繰り返していた。


 体を動かそうとして、ようやく自分が椅子に座っていると気づく。

 学校の椅子より少し大きくて、背もたれがやけにしっかりしている。


 目の前には、同じような椅子がもう一脚と、そのあいだに白い机。

 進路面談のときに使うレイアウトに、どこか似ている。


 「……?」


 冬の夕方。

 赤信号。

 ライトの光と、冷たい空気と、足もとの影。


 その手前までは思い出せるのに、その先にあるはずのものが、うまく形にならない。


 「お目覚めになられましたか」


 不意に、声がした。


 篝は、反射的に顔を上げる。


 さっきまで誰も座っていなかったはずの向かいの椅子に、いつのまにか誰かがいた。

 落ち着いた色のスーツに、少しゆるめに締めたネクタイ。

 黒板の前に立っていても違和感のなさそうな、若い男の先生に見えるが、

 目元や輪郭はどこか中性的で柔らかい。


 「突然のお呼び立てになってしまい、申し訳ありません。

  ここは、前の世界での生活を終えられた方に、次の行き先をご案内するためのお部屋です」


 前の世界。

 生活を終えた。

 次の行き先。


 ひとつひとつの単語は理解できるのに、うまく現実とは結びつかない。


 「えっと……」


 口を開いたものの、続きがうまく出てこない。

 自分が何を質問したいのか、まだ言葉になっていない。


 向かいの存在は、篝の様子を責めるでもなく、少しだけ首をかしげた。


 「順番にお話しさせていただきますね。

  まず、周防篝さんは、前の世界でのお身体のほうを、すでに離れていらっしゃいます」


 さらっと、「死んでいる」と同じ内容を告げられた。


 それなりにショックなことのはずなのに、涙が出る感じではなかった。

 頭のどこかで、「やっぱりそうか」とも思っている。


 赤信号。

 ライトの光。

 冷たい空気。


 思い出そうとすると、また同じところで記憶が途切れる。


 「ご家族や、学校でのことについても、順番に整理していくことはできますが……。

  今はまず、周防さんご自身のご希望と、前の世界で大事にされていたものを、うかがえればと思っています」


 ご希望。

 大事にしていたもの。


 進路希望調査票の文言に、どこか似ている。


 「……これ、進路指導、みたいなものですか」


 ようやく出てきた言葉は、それだった。


 向かいの存在は、少しだけ目を細める。


 「そう感じていただくと、分かりやすいかもしれません。

  次に向かっていただく世界や、そこで担っていただく役目について、

  いくつかの選択肢をご案内しながら、私との対話を通して相談していく場になります」


 誰かが喜びそうな話だな、とは思う。


 篝は、自分の手のひらを見下ろした。

 指先も、爪も、制服の袖口も、いつも通りに見える。


 「……本当に、私は死んだんですか」


 確認してみてから、自分でも少し変な質問だと思う。

 さっき説明されたばかりなのに、身体に違和感がないから、頭がうまく理解できていない。


 「はい。前の世界でのお身体のほうは、すでに役目を終えられています」


 返ってきたのは、最初と同じ結論だった。

 声の調子は変わらない。


 それでも、「役目を終えた」という言い回しだけは、妙に耳に残る。


 「どのように亡くなられたかといった詳しい事情の確認は、いったん後回しにいたします。

  まずは、周防さんが前の世界でどのようなことを大事にされていたかを教えていただき、

  それを共有したうえで進めていければと思います。ゆっくりで構いませんよ」


 「……大事だったもの、ですか」


 自分で繰り返してみても、すぐには何も出てこない。


 向かいの存在は、篝が黙り込んでも急かさなかった。


 「はい。前の世界で、周防さんが『これは守りたい』と感じていたものについて、教えていただければと思います。

  ささいなことでも、構いません」


 その問いかけに、ようやく「大事だったもの」という言葉が、篝の中で定位置を見つけはじめる。


 守りたい、と感じていたもの。


 家族とか、友だちとか、将来の夢とか。

 そういう「模範解答」は、分かっている。


 でも、本当に自分がそう思っていたかと言われると、自信がない。


 篝は、そっと視線を落とした。


 白い机の天板には、鉛筆の跡ひとつない。

 誰かが落書きした跡も、傷も、欠けた角もない。


 教室の机とは、似ているようでどこか違う。


 守りたい、という言葉にだけ、心のどこかがかすかに引っかかった。


 それが何なのかを探るように、篝はゆっくりと息を吐いた。

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