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悪喰〜消された文書と相続事件〜  作者: 古林 秋一


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7/13

7

翌日。

響は大学近くの古い書店に立ち寄っていた。


昨夜からの不安を振り払うように、気分転換のつもりだった。

考え事をしているとき、古本から香るあの独特の匂いが響を落ち着かせる。



 棚の間を歩いていると、妙に静かすぎる気がした。


 奥の参考書コーナー。

 一人の学生が立っている。

 受験参考書を抱え、視線がやけに泳いでいた。


(……落ち着きがないな)


 響がそう思った瞬間、足が止まった。


 その直後。


 学生の手が震え、参考書のページの間に何かを隠す動きが見えた。

 すぐに、外套の内側へ滑り込ませる。


 胸元に、ひやりとした感覚。

吸われるような違和感。

(何だ、これ……?)

次の瞬間、万引きだと理解した途端、それが微かな熱へと変わった。



「……?」


 鼓動が、わずかに乱れる。

 空気が、重くなる。


 学生が唇を噛みしめた。

 顔色が悪い。

 目の下にはクマが浮かび、指先が微かに震えている。


「……っ」


「おい、大丈夫か――」

そう響が声をかけようとした、次の瞬間、学生の肩が大きく跳ねた。


 問題集を押し込もうとした手が止まり、

 顔を歪め、呻くようにその場にしゃがみ込む。


「う……っ、なん、だ……」


 周囲の客が怪訝そうに振り向く。


 だが響には、別のものが見えていた。


 紫色のもやのようなものが、学生の足元からふっと浮かび上がる。糸のように細く、足にまとわりつきながら揺れている。


 煙ではない。

 影でもない。


 言葉にできない“重さ”だけを持った何か。


 それが――

 すっと、響の胸元へ引き寄せられていく。


「……!」


 ネックレスが、確かに温度を増した。


 一瞬。

 鼓動が、二重になった気がした。


 次の瞬間――

 紫色のもやは、ネックレスに吸い込まれるように、跡形もなく消えた。


あの紫色のもや——まるで、あの学生の"悪意"か"衝動"が形になったような……

いや、まさか。


響は無意識にネックレスを握る。



 学生は、膝から崩れ落ちるように床に座り込み、

 荒い呼吸のまま、鞄から問題集を取り出した。


「……や、やめよう……」


 小さく呟き、学生は隠した本を取り出し、棚に戻した。

 肩で息をし、ふらつくようにレジへ向かう。


 その背を見送った瞬間——


 すとん、と熱が消えた。


後に残ったのは、理由の分からない疲労感と、妙な胸騒ぎ。


(……今の、何だ?)


石は、ただ沈黙している。

何事もなかったかのように。


 レジの店主が、ちらりと響を見た。


「……今の子、大丈夫でした?」


「え?」


「顔色、真っ青でしたから」


あの学生に“紫色のもや”みたいな物が纏わりついていた、なんて。響は答えられなかった。

帰り道、響は何度もネックレスに触れた。


あの「もや」。

学生の万引き衝動。

そして、それを吸い込んだかのようなネックレスの反応。


(……もしかして、このネックレスは……)


答えは出ない。

だが、確信だけが、ゆっくりと形を成し始めていた。


その夜、スマホに瑠璃からのメッセージが届く。


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