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格子窓から差し込む陽の光が、
ゆっくり漂う塵を照らしていた。
光に照らされた粒子は白くきらめきながら、
どこか水の底のように重く
濁った揺らめきを見せる。
嘉神 響は木箱を
押しのけた途端、肺に刺さるような埃を吸い込んで
咳き込んだ。
「ゲホッ…ケホッ....…ばあさんの奴、どれだけの間この蔵放っておいたんだ……」
祖母・嘉神 澄乃が交通事故で亡くなってもう一週間になる。
この家には、自分以外に誰も残っていない。
葬儀の場に来たのは近所でも町会長等、
たった数人だけである。
思っていた以上に交友関係は希薄だったのだろう。
大学院での研究に追われていた響には、帰省してこうして時間を取れること自体、少し不思議な感覚だった。
実に1年半ぶりの里帰りだった。
親戚なんていない。
澄乃はずっとそう言っていた。
その言葉に、幼いながらに胸がざらついた。
「お年玉って親戚の人が多いほど、い~っぱいもらえるんでしょ?」
そんな、ただの子供の欲深い質問だった。
澄乃は少しだけ笑って、静かにこう言った。
「親戚なんて誰もいないわよ。あなたと私の2人きりよ」
その声の温度と寂しさを滲ませた言葉がひどく鮮明に頭の片隅から掘り起こされる。
本当にその通りなのだなと、あらためて思い知ったのは葬儀の二日前の事だった。
遺された無駄に広い家も荷物も、この蔵の中身も、全て響ひとりに押し付けられているのが現状だ。
湿気でふやけた木箱に手をかけるたび指の腹に冷たく“じとり”とした嫌な感触がまとわりついてくる。
古い木の匂いの奥に、なにか鉄と土を混ぜ込んだような匂いが立ち込めてきた。
その時、薄暗い蔵の中で唯一、埃ひとつ積もっていない木箱が目に入った。
触れると乾いた木材とはありえないどこか体温めいた”温度”が指先に乗った。
ゆっくり、箱を開けた。
中にあったのは祖母・澄乃が生前、肌身離さずに持っていた、赤黒い光を閉じ込めたような宝石がついたネックレスだった。
宝石の奥で、薄い赤がにじむように揺れた。
生きているみたいだ、と響は思った。そう思った瞬間、背筋に冷たいものが走る。
風は吹いていない。
なのに、細かい粒だけが響のほうへ寄ってくる。
ざ…ざざ…ざ…
小さく、無数のか細い声が這うような音がした。
首筋に冷たい汗が伝う。
暗がりの奥で、影が揺れた。
耳の奥で何かが崩れるような音がした。
――まだ誰も触れていないはずなのに……




