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本音の本質

作者: あかいの
掲載日:2025/11/15

 本音しか言えなくなる薬を妹に飲ませてみた。

 だけど妹に変化はない。

 これは一体どういうことだ?


「妹に薬もるなよ気持ち悪いな。俺からしたらそっちの方がどういうことだって感じだぜ」

 友人のポールはそう言った。

「ポール、君はどうしてポールなのにそんなに日本語が流暢なんだい?まずそこから説明してもらわないと読者諸兄が戸惑ってしかたのいじゃないか」

「うるせえ、日本語流暢な外人だって普通にいるだろ。小説内だからって毎度スレテオタイプが通用すると思っている方が悪い」

「なるほど、その考えには一里ある。つまり、妹に薬を飲ませる兄がいても不思議ではないと」

「不思議ではないが、それはお前が悪い」

「おいおい、そんなこと言ったら妹を愛する全国のお兄ちゃんが悲しむぜ」

「お前が兄の代表ヅラするな。風評被害が甚だしいことこの上ない」

 そういえばポールも妹がいたな。名前は確かリンゴだっけ?


「話を整理しよう。僕はこの本音しか言えなくなるなる薬、『本音しか言えなくな〜る』を妹のドリンクに混ぜて飲ませた。だが特に妹に変化はない。いつも通り、つっけんどんで素直になれない妹がそこにいるだけだった」

「お前が犯罪を犯したことは一旦置いといて、普通に考えて薬が偽物なんじゃないか?名前も効用もすべてがうさんくさい」

「それは決してない」

「どうしてそう言い切れる?」

「それだと小説的につまらないからな。こういう偽物っぽいものはたいてい本物だと相場が決まっている」

「そんなメタ読みを根拠にするな。根拠をしめすなら検証ぐらいしたらどうだ?」

「よくぞ言ってくれた。ポール、お前に是非この薬を飲んだ感想を教えて欲しいんだ」

「飲んだ感想だと?俺は薬なんて飲んで……まさか……」

 ポールは手元にあるコーヒーに目をやった。

 そう、そのまさかである。

「さっきお前がトイレに行ってる時に仕込んでおいた。さあ感想を言え!」

「お前を通報する」

「待ってくれ!それは冗談だよな?!」

「お生憎様。よかったな、どうやらこの薬は本物のようだ。検証大成功。同じ部屋の奴に自慢できるぞ」

「檻に入ったところまで具体的に描かないでくれ!」

 閑話休題。


「まあ、お前が犯罪を犯したことは一旦置いといて、これで置くのは二度目になるがとにもかくにも置いといてやって、大して体感変わらねえぞ。やっぱりその薬、偽物じゃないのか?」

「うーん、お前、嘘はついてないよな」

「嘘がつけたらその時点で薬は偽物だろ?」

「確かにな。ポール、何か適当に嘘をついてくれないか?」

「富士山は日本で一番低い山だ」

「おいおい、この薬偽物かよ!まったく、とんだものを掴まされたもんだ!!クレームついでに殴り込みにいってやる!!」

「翻すの速いな……」


 それから僕たちは製造もとの工場に向かった。工場につくと、一室に案内された、しばらく待機していると、胸元の弾けたグラマラスなお姉さんが入ってきた。

「本日説明を担当します、柏木です。どうぞよろしくお願いします」

 それから僕は柏木さんに『本音しか言えなくな〜る』の文句をあらいざらい吐き出した。

「なるほど。話をまとめますと、妹さんとポールさんに試して効果がなかった、だからこの薬は偽物だと。ちなみにお客様自身はこの薬を試したのでしょうか?」

「僕は試してません」

「お前本当にクズだな」

 とポールは言う。

「ほら、友人のポールが僕にクズなんて言うはずありません。この薬はやっぱり偽物なんです」

「いえ、それはポールさんの本音だと思いますが、まあそれはそれとして、残念ながら『本音しか言えなくな〜る』はお客様が想像するような薬でないことはお伝えしなくてはいけまん。これは弊社のプロモーションが誤解を招いている部分もあるので、こちらにももちろん責任はあるのですが」

「誤解?僕が一体何を誤解していると?」

「おそらくですが、そもそも『本音』という概念自体の解釈が違うと思われます。お客様は大きなおっぱいは好きですか?」

「はい。大好きです」

 となりでポールが「きもっ」って言った気がするが、たぶん幻聴だ。

「だけど大きなおっぱいが好きであることイコール小さなおっぱいが嫌い、ではないですよね。おっぱいであれば大きさにかかわらず好きな人はたくさんいます」

「……確かにその通りですね」

「妹さんの例もそれと同じです。お客様のことを兄として慕っているのも本音であれば、つっけんどんな態度自体も本音であると。本音とは想像以上に心の広範囲におよぶ性質なのです」

「そんな、あの態度が妹の本音だったんて………」

「お客様、人間とは複雑なものです。同じ人に対して好き嫌いが混ざり合うことは普通のことです。しかし、大切なのはそんな複雑さそのものを受け入れ、その上で愛することではないでしょうか?」

「…………確かに!その通りですね!!」

「まるめこまれるなよ」

 とポールは口を開いた。

「それなら俺の例はどうなんですか?嘘をつけることは流石に『本音しか言えなくなる』という謳い文句に反しているじゃないですか?」

 とポールは言う。

 しかし、それに対しても柏木さんは余裕そうに

「それこそもっと単純な話です。嘘がつけるのは嘘をつきたいという本音に従っただけのこと。寧ろ嘘をつきたいのに嘘をつけないことの方が謳い文句に反しているのです」

 と言った。

 ポールはしばらく考えた後、

「詭弁ですね」

 と言った。

「そう聞こえるかもしれません。しかし本音とはそういうものなのです」

 と、柏木さんの態度は最後まで崩れなかった。


「結論、人間は思ったより本音でしゃっべっているってことか?」

 工場の外に出た僕はそう言うと、

「いや、詐欺商品には気をつけろってことだろ」

 ポールは言った。


 それから1週間後、あの工場から僕宛に郵便物が届いた。中をあけると一通の手紙と新品の『本音しか言えなくな~る』が3袋入っていた。手紙の内容としては、以前工場に置いていった薬(柏木さんとの別れ際渡しておいた)が誤って混入したプラセボ錠であったことが検査の結果わかったらしい。そのお詫びの品として新品の『本音しか言えなくな〜る』が送られてきたというわけだ。


「兄貴、そろそろ夕飯だってよ」

「あいよ。今行く」

 妹の声に僕は反応する。


 …………………………。

 …………………………。

 

 よし、混ぜるか

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