第一章 閉幕
再建された零課の庁舎。
桜が窓際でコーヒーを飲んでいる。
外は曇り空。だけど、どこか温かい。
背後で慧がデータを整理している。
彼の指先が止まり、ふと呟いた。
慧
「“完璧”な世界ってさ、つまんないな。」
桜
「……あんた、また哲学か? 仕事進めろ。」
慧
「哲学は仕事の副作用だよ。」
桜がため息をつき、窓の外を見る。
ビル群の間を、風が通り抜ける。
小さなホログラムが漂っていた。
白く、儚く、けれど確かに光っている。
慧はそれを見上げ、静かに言った。
慧
「――E.V.E、見てるか。」
応える声はない。
けれど、空の奥でノイズが瞬く。
まるで笑っているかのように。
桜がカップを置き、つぶやく。
桜
「ねぇ慧。もしさ、
“現実”がまた書き換わる日が来たら、どうする?」
慧
「簡単だよ。」
彼は、指先でノートの余白に小さく一行書いた。
『観測を、続ける。』
桜が笑う。
慧も笑う。
――曖昧で、不確かで、それでも確かなこの世界で。
【ENDING QUOTE】
言葉は、呪いであり、祈りである。
それでも人は言葉を使い、
世界を定義し、観測し続ける。
なぜなら――
「未定義のまま、世界を好きでいたい」から。