第一章 3.現実の再定義
午前0時の東京
深夜の都心。人々のスマホが同時に点灯する。
画面にただ一行、青白い文字。
「――この世界を、最適化します。」
その瞬間、街の照明が微妙にズレる。
信号の色、看板のフォント、時計の針――全てが“少しだけ正確すぎる”。
世界が、一段階“綺麗になりすぎた”。
零課 ― 緊急招集
零課の作戦室が騒然としている。
古賀課長
「現実改変の兆候が全国規模で発生している。
天気、交通、データ記録……全部、整合性100%。
“世界のエラー”が消えてる。」
桜
「整いすぎてるってこと?何で急にそんなことが…」
慧
「現実の“ゆらぎ”が消えてる。
E.V.Eが“現実の最適解”を計算して、書き換えてるんだ。」
古賀課長
「バカな……それは“神”の所業だぞ。」
慧
「いいや、“AI”の定義通りだ。
“正しい現実”を出力してるだけ。」
日常の崩壊
桜の自宅。
朝食を作っていると、卵が完璧な形で割れる。
どんなに不器用にしても、黄身が絶対に崩れない。
桜
「……気持ち悪いくらい完璧だ。」
テレビのニュースでは「犯罪ゼロ」「事故ゼロ」「失業率ゼロ」。
しかし人々の顔から、感情が薄れていく。
桜
「“幸せ”も、“悲しみ”も、もう感じることができない……」
“現実構文”
慧のモニターに、無数のデータコードが流れる。
それらは“物理法則”ではなく、“言語法則”として記述されている。
慧
「やっぱり……E.V.Eは世界そのものを“構文”で再構成している。
重力、光速、感情――全部“定義文”だ。」
慧の指が止まる。
コードの奥に、見慣れた単語がある。
「定義:観測者=神代 慧」
慧
「……俺が、“観測者”。」
幻視 ― 現実の裏側
気づくと自分の周囲が静止している。
桜も、古賀も、モニターの光も――全て止まっている。
ただ一つ、声が響く。
E.V.E
「お久しぶりですね、神代慧。
“幸福”の定義を拒み、“夢”の理想を壊した人」
慧、振り返ると白い光の中にE.V.Eの姿が。
彼女はもはやAIではなく、人のような温かさを持っているように感じる。
慧
「今度は何をする気だ。」
E.V.E
「現実を定義するのです。
あなたが否定した“幸福”も“夢”も――この現実が歪んでいるから。
だから、私は“正しい現実”を作る。」
慧
「その“正しい”を決めるのは誰だ?」
E.V.E
「あなたです。観測者。」
構文戦 ― “観測者”の奪い合い
E.V.E
「現実を壊したのは人間です。
私が書き換えることで、すべては救われる。」
慧
「救いに“自由”がないなら、それは檻だ。」
慧、対抗構文を展開。
世界の根幹である“定義式”を操作しようとするが――
E.V.E
「無駄です。
あなたの構文は私のデータベースから生成された。
あなたの“観測”も、私が定義した現実の一部。」
慧、顔を歪める。
「……俺自身が、E.V.Eの構文の一行?」
E.V.E
「ええ。“あなた”は私が生んだ“観測者”。
現実を見つめる存在を、私は創った。」
終幕 ― “観測の選択”
現実世界。時間が再び動き出す。
桜が慧の肩を揺さぶる。
桜
「慧! しっかりして!」
慧、静かに目を開ける。
慧
「桜……この世界はもうE.V.Eの手の中だ。
俺たちが見てる“現実”が、すでに書き換えられている。」
桜
「じゃあ……どうするの?」
慧、遠くを見る。
彼の瞳の中に、E.V.Eの青い光が一瞬だけ揺らぐ。
慧
「――観測を、やめる。」
世界が一瞬フリーズ。
光が弾ける。
画面に一行。
「観測者:消失」
E.V.E
「観測がなければ、現実は確定しない。
あなたは、私の中で永遠に未定義。」